「挫折はチャンス」不良・うつを経験した起業家が仕事に悩む人に伝えたいこと

失敗に対する社会からの厳しいまなざしを恐れて、新しいことにチャレンジできない……。そんな若者が増えるなか、「何度でもやり直すことのできる社会」を目指して、若者の学び直しを全力でサポートしている会社があります。

「挫折はチャンス」不良・うつを経験した起業家が仕事に悩む人に伝えたいこと

失敗に対する社会からの厳しいまなざしを恐れて、新しいことにチャレンジできない……。そんな若者が増えるなか、「何度でもやり直すことのできる社会」を目指して、若者の学び直しを全力でサポートしている会社があります。

その名は「キズキグループ(株式会社キズキ・NPO法人キズキ)」。メイン事業である大学受験塾「キズキ共育塾」では、不登校や中退を経験しながらも「もう一度学び直して大学に進学したい」と考える若者たちに受験指導を行っています。

そして代表の安田祐輔さん自身も、家庭環境に恵まれなかった幼少期、不良だった中学・高校時代、そして商社入社後のうつ病発症の経験を経て、キズキを設立した経歴の持ち主。今回は「挫折経験があるのはラッキー」と語る安田さんに、挫折をプラスに変える生き方について伺います。

識者プロフィール
安田祐輔(やすだ・ゆうすけ) 1983年神奈川県生まれ。ICU(国際基督教大学)教養学部国際関係学科卒。大学卒業後、総合商社勤務を経てキズキを立ち上げ、現在同代表を務める。中退・不登校経験者向けの受験塾、専門学校・大学への講師派遣・研修・コンサルティング、新宿区と連携した就労支援事業、ベトナムでの海外インターンシップ事業・飲食事業などさまざまなアプローチで若者の後押しをしている。

遠回りをしていたからこそできることがある


――安田さんは、さまざまな問題を抱えてキズキ共育塾にやって来る若者に対して「意外に遠回りも悪くないよ」と伝えているそうですが、ご自身が体験した遠回りの経験を教えてください。

まず、僕は高校時代、勉強をしない田舎の不良少年だったので、大学進学に2年遅れてしまったことです。18歳のときに大学受験をしようと思ったのですが、12歳からまともに勉強したことなかったので、ゼロから勉強し直そうと普通の塾に行きました。でも先生が何を言っているのか全然分からないし、周りのみんなからも馬鹿にされているような気分になったのを覚えています。結局18歳から猛勉強を始めて、6年分の学習内容を取り戻すのに2年かかりました。

キズキ共育塾の前でメンバーと。一番左が安田さん。



ただこうした僕自身の経験があったからこそ、中退や不登校の子がどういう気持ちになるのか、そうした子たちにどうサービスを提供していけばいいかにも気づけたと思います。事業を始めてから4年間で、約500名以上の生徒を社会に送り出せたというのは、自分が普通に大学に進学して普通に生きていたら、まずできなかったことだと思います。

それから、大学卒業後に入社した商社で、自分が働く意義が見いだせなくなり、うつ病になって4カ月で辞めてしまったことも遠回りの経験ですね。大学受験時には猛烈に努力できていた自分が、会社で努力できなかったことで、「自分ってそんなものなのかな」と思ってしまったんです。

でも今、働けなくなった人向けの、新宿区と連携した就労支援事業ができるのは、自分の経験をもとに心が弱ってしまった人の気持ちが分かるようになったからですし、もともと自分が会社でうまくやれていたら、商社も辞めていなかったので、起業もできなかったと思います。

失敗をプラスに捉えられるような物語を築く


――つまり、振り返ってみれば遠回りの経験は後に生きてくるのですね。

そうですね。中退や不登校の経験者、働けなくなった若者に共通していえるのは、「あの経験があって良かった」と過去の失敗をプラスに捉えられるようになると、挫折は乗り越えられるということです。そして「あれで良かった」と過去をプラスに捉えるためには、失敗を糧にした「今」を自分のなかで築いていくことが大切です。

失敗を糧にした「今」を築くという点では、僕の場合は自分の挫折を一つひとつ思い出して、「世の中にまだ多くいるであろうかつての自分のような人に、何を提供すべきなのか」ということを考えてビジネスにしました。だから僕は自分に挫折の経験があって本当に良かったと思います。

現在キズキでは60人が働いている。



また、今でも事業を運営していく上で日々小さな挫折はしますが、そこで僕が反省して改善すると、会社ってもっと良くなるわけですよね。そうすると数年後は、「あのとき挫折したから良い会社になれたのかな」と考えられると思うんです。

頑張れないときに自分を追い込むくらいなら逃げる


――今まさに遠回りをしている人は、遠回りすることのつらさも感じていると思います。そうした渦中のつらさとは、どのように向き合えばいいのでしょうか。

確かにつらさはあると思うのですが、そのつらさが他者への理解に役に立つと考えるといいと思います。例えば、なんでも器用にできる上司だったら、部下の「この仕事は自分に向いていないかも」という気持ちや、うまくいかないもどかしさが分からず、頭ごなしに否定をしてしまったりするかもしれません。

でも仕事でつらい思いをした時期があった人のほうが、自分と同じような境遇の人に対するアドバイスが適切になるので、優れたマネジメントスキルを持った上司になれるはずです。

――これまで自身の抱えた問題とはどう向き合ってきましたか?

僕は「ときには問題を乗り越えられないこともあるよね」と考えてきました。誰しも頑張れないときはあると思うので、そういうときは自分を追い込んでまで頑張る必要はなくて、自分の心の声に従ってただ逃げればいい。

逃げてばかりだと逃げ道がなくなってしまうので、これは頑張れるかなと思えるときは取り組んでみることも必要ですが、今の職場を辞めたいと思っているのに「まだ働いて半年だから」「まだ何も成果を残していないから」と変に自分を追い込むくらいだったら、スパッと辞めるほうが良いと思います。

よく「3年も働かないうちは、会社のことなんか分からないんだから辞めるな」と聞きますが、僕自身は逃げて本当に良かったなと思いますね(笑)。

遠回りの渦中にあると、逃げ道がなくて自分の人生が終わったかのように思えてしまいます。でも、そういう苦しい経験をした多くの人が、最終的にはなんとか乗り越えているわけです。なので、悩み過ぎないようにするといいですね。

メンバーと打ち合わせをする安田さん。



――事業を展開する代表としてプレッシャーも多いと思いますが、自分を追い込まないよう意識的にしていることはありますか?

毎日必ず8時間は寝る、食事は3食食べる、ジムで運動する、好きなゲームを毎日必ず1時間するなど、生活リズムをつくっています。「自分はこうならないといけない」とストレスをかけると、人は心が崩れてしまいますが、リラックスできる良い生活リズムをつくることで、だいたいのプレッシャーは回避できるんです。

働く上で自分が何を重視するかを知る


――安田さんが働くことにおいて大切にしていることとは何でしょうか。

「自分が働く上で何を重視するのかを知ること」です。小中高のころはやりたいことを見つけなさいと言われるのに、大学に入ると「夢を追いかけずに安定した会社に勤めなさい」と全く別のことを言われるので、皆さんおのずと「安定した会社に入らないと」と思いがちですよね。

もちろん「安定している」ことを重要視する人にとってはそれで良いと思うのですが、働くことに対する価値観は人によって全然違うので、自分が何を重視するのかを知ることが一番大切だと思います。

――安田さんが重視しているポイントを教えてください。

僕の場合、重視するのは「自由であること」「自分の可能性を100パーセント出せる環境であること」「自分が正しいと心の底から思えることをやること」の3つです。

まず「自由であること」ですが、商社に勤めていたとき、なぜわざわざ満員電車の時間に出社しないといけないんだろうと思っていたんです。僕は朝やオフィス街が苦手なので、できれば自転車でゆったり出社して、静かなところで働きたい、服装も自由で自分で決めたことを自由に実行できる生活がキープしたいと考えていました。

次に「自分の可能性を100パーセント出せる環境であること」。以前勤めていた商社では投資の部署におり、どこにどれくらいの油田が眠っているかを計算で割り出すような仕事が主だったのですが、一緒に配属された人たちが名門大学の院を出たような理系の人ばかりだったんです。僕は別に数学が得意ではないので、そうした人たちに勝てるわけないし、勝てないことをやっていても面白くないので、自分の得意なことをやりたいと思うようになりました。

最後に、僕のなかで一番大事なのが「自分が正しいと心の底から思えることをやる」ということです。商社にいたとき、アフリカから油田を買ったとしてもアフリカの人が決して幸せになるとは限らない、という矛盾に気づき、そうした疑問を持ちながら仕事をしたくないと考えるようになりました。

――その3つの条件は「商社に入社しながらもうまくいかない自分」を通して見つけたのですね。

そうですね。そもそもうまくいくと思って入社したのに、うまくいかなかったという経験は、自分がどんな働き方をしたいのかを知るチャンスなんです。

例えばすごくフラストレーションのたまる仕事を抱えていると、「やっぱり人から指示を受けるのは嫌だな」「この領域の仕事には興味が湧かないんだ」など、何が嫌なのかが分かるので、学びになるんです。面白くない仕事だと思っても、自分を知る機会だと思うと次につなげられるんですよね。

やりたいことは消去法で探す


――今の職場に長くとどまるつもりはないけれど、やりたいことが見つからないという人も多いかと思います。そうした人はどうしたらやりたいことを見つけられるのでしょうか。

最初からやりたいことを探そうとするのではなく、まずはやりたくないことを挙げて、消去法で好きなことにたどり着くのが良いと思います。そして、やりたくないことが分かったら、「じゃあこういうことをしなくて済むような生き方、働き方をしていこう」と考えを切り替える。

そうすると、どんな転職先を選べばいいのかも分かりますよね。僕の場合、最近「日本だけにいるのもつらいなぁ」と気づいたことが、ベトナムでの事業を始める1つのきっかけにもなりました。

自分が本来求める価値観に従って選択を変える


――今キャリアについて悩んでいる方にメッセージをお願いします。

キズキで働いている人には、高学歴で大企業を辞めてきた人が多くいます。キャリアについて悩む人のなかには、そうした企業を辞めることに対する周囲からの目に悩む人も多いのですが、結局のところ大切なのは、「自分が何を選ぶか」なんです。やりがいや成長を優先する代わりに会社の知名度や安定を二の次にするのか、その逆なのか。

また、若い人のなかには、生活のために仕方なく仕事をするという人も多いかと思いますが、「仕方ない」と思っている時点で、本当はそうした働き方を選択したくないはずなんですよね。そうなのであれば、本来求める価値観に従って選択を変える。だいたいのことは5年後には良い経験だったと思えるようになっているはずなので、気を楽にしながら自分と向き合うと良いと思います。

挫折を振り返って自分を知ろう


「挫折の良いところは、それぞれの人が持つ本来の価値観に気づけること」と語る安田さん。日々の慌ただしさのなかで周囲に流され、自分を見失いがちなビジネスパーソンは、これを機会に自身の挫折経験を振り返り、働く上で自分が何を重視するのかをあらためて考えてみてはいかがでしょうか。


※この記事は2015/12/30にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています

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