アイウエアブランド「JINS」の世界一集中できるワークスペース「Think Lab」を訪問してきた

おしゃれでリーズナブルなだけでなく、ブルーライトカットなど機能性も兼ね備えたメガネを展開するアイウエアブランド「JINS(ジンズ)」。

アイウエアブランド「JINS」の世界一集中できるワークスペース「Think Lab」を訪問してきた

おしゃれでリーズナブルなだけでなく、ブルーライトカットなど機能性も兼ね備えたメガネを展開するアイウエアブランド「JINS(ジンズ)」。

そのJINSを運営する株式会社ジンズが2017年12月、「世界一集中できる」とうたう会員制ワークスペース「Think Lab(シンク・ラボ)」をオープンしました。

利用した方からは、仕事がはかどりすぎていつものオフィスに戻れない!なんて声もあるとのこと。そこまで言わしめるこの場所には、いったいどんな秘密が隠されているのでしょうか。

今回はそんなThink Labを、集中力を可視化できるセンシングアイウエア「JINS MEME(ジンズ・ミーム)」事業部 事業統括リーダー・井上一鷹さんにご案内いただきました。Think Lab誕生のきっかけや、後半では「オフィスと集中」をテーマにしたお話も伺いました。「実は、オフィスって集中できない空間なんです」と語る井上さん。その理由とは? ビジネスパーソンが、本当に集中できるオフィスで働くことの魅力に迫ります。

深い集中の鍵は「緊張」と「リラックス」

 


飯田橋駅から徒歩3分。Think Labは地上30階建てのオフィス・商業ビルの29階にあります。入り口をはじめ、空間全体は黒を基調としていて、凛とした佇まい。一般的なオフィスと比べると、どこか異なる印象を受けますが……。

「科学的に検証した結果、人が集中するためには緊張とリラックス、両方の状態を行き来するのが必要だとわかりました。Think Labが黒いトーンで統一されているのは、緊張感を作り出すためのしかけの一つです」。(井上さん、以下同)

緊張とリラックス。その両方をコントロールするための工夫が、至るところにしかけられています。

「特徴的なカラーのほか、このオフィスの大きなポイントは寺社仏閣の構造をまねしているということ。参拝をするにあたり、鳥居をくぐり参道を経ることで心を整え、リラックスした気持ちを作る。そうして最高に集中した状態で本殿に入る……そんな流れをオフィス空間に落とし込み、集中への工程を作り出すことが目的なんです」。

確かにピリッと気が引き締まるような、どこか神聖な空気がThink Labには漂います。


受付へ向かうには、「参道」を渡ります。黒い壁に覆われた通路を光の差す方向へと歩き出しますが、シンとした空気感に本当にこの先にオフィス空間があるのか思わず疑ってしまうほど。

「独特のアロマが漂う、この暗闇を歩くことで『この場所は集中するための特別な空間だ』ということを脳に錯覚させる狙いがあります。繰り返し通うことで、この参道に入れば脳が『仕事モード』へスムーズに移行できるような癖がきっとつくはず」。

少し現実離れした雰囲気に軽い緊張感を感じる一方で、どこからともなく漂う針葉樹の高野槙(コウヤマキ)のナチュラルなアロマが、気持ちをリラックスさせてくれました。床に敷かれた石畳を歩けばコツコツと音が響き、一歩ごとにだんだんと五感が研ぎ澄まされていくよう。


参道を抜けると、一気に開放感のあるスペースに。

「暗闇の中から、ひらけた空間へ一気に解放される。この緊張からリラックスへの流れが、脳を深い集中に入りやすい状態に整えてくれるルーティーンなんです」。

椅子によって、思考は変えられる

 


ここからは実際に作業を行うワークスペースを紹介します。メインとなるこのオープンスペースは、等間隔で横にずらりと並んだデスクが、3列組まれたレイアウト。

「人が集中を落とす一番の原因って、実は人なんです。作業中に話しかけられたり、ふと誰かの視線を感じたりした時などに集中は途切れてしまいがち。ですので、全員が同じ方向を向いて、目が合わないようなスタイルを取りました」。

もちろん、デスクや椅子にも、なみなみならぬこだわりが。

「仕事には、新たなアイデア出しといったクリエイティブが求められる業務と、資料制作や誤字脱字のチェックなどロジカルシンキングが求められる業務がありますよね。それぞれの業務には集中に誘うためにふさわしい姿勢があるのですが、ここでは業務に合わせた姿勢がとれる椅子とデスクを採用しています」。


この低めのデスクは、ロジカルシンキングが必要な業務に適しているそう。

「視線の角度が集中力に影響する、と言われています。この椅子は、腰掛けるだけで背筋が伸び、下向きの視線になる。人は視線が下がると論理的思考が強くなると言われているんです。そのため、企画書や原稿などを書くといったロジカルシンキングが必要な作業に向いています」

小さめで、背もたれも一般的なオフィスチェアとは異なる仕様にも関わらず、実際に座ってみると体にしっかりとフィットします。


一方、こちらはクリエイティブな作業向きのデスク。上向きに傾斜した机と後ろに深く沈み込む椅子で、視線が自然と上がります。目線が上がると発散思考というアイデア創出に適した傾向が強くなるそうです。「何かいいアイデアないかな」なんて考える時に、効果を発揮するのだとか。


夜には東京の夜景が視界いっぱいに広がります。こんなスペシャルな空間にいれば、普段は思いつけない冴えたアイデアもひらめきそうですね。

とっておきの超集中ブースと、緊張から開放されるカフェ空間

 


さらに深く集中したいという人のために、オープンスペースの先には「cocoon(コクーン)」という13の個室からなるエリアも用意されています。


机の高さが調節できるので立って作業ができたり、ソファ付きの豪華な個室だったりと、気分で場所をかえることも。先ほどのオープンスペースよりさらに他人が気にならず、気を散らさずに作業ができるかもしれませんね。


ワークスペースを抜けて最後にたどり着くのは、これまでとは打って変わって白を基調にしたカフェ空間。家具や照明は、シンプルながらも温かみのあるデザインでホッと一息つけます。ワーキングスペースと行き来することで、リラックスと緊張をバランスよく保ち、集中へと誘いやすくする効果があるそうです。

トレンドのオフィスはコミュニケーション向き。だから集中はできない。

 


ここからは井上さんに集中に関するお話を伺います。Think Lab誕生のきっかけは、なんとジンズのオフィスで"ある問題"に直面したことからでした。

「僕の本業は、『JINS MEME(ジンズ・ミーム)』という、集中力を測ることができるデバイスを展開すること。このデバイスは経済産業省及びIoT推進ラボさんが、「働き方改革」を推進するためのサービスを募るコンテストで、グランプリをいただいています。

その影響もあり、『ジンズさんのオフィスはやっぱり集中できるんですか?』と聞かれるようになりました。そこでJINS MEMEを使ってオフィスで社員の集中度を測ってみたんです。結果としては正直なところ、集中できていませんでした」。


JINS MEMEを使い、ジンズの東京本社で調べたデータ。オフィスにいる時間帯は、他の時間と比べて集中力の低いことがわかる



集中できない理由を突き詰めた結果、新しいオフィスは「集中」に向いたデザインではないことに気がついたそうです。

「弊社は1フロアで、コミュニケーションを主体に考えられたフリーアドレス制を導入しています。近年のベンチャー企業などには多いオフィスデザインですよね。しかし、これはコミュニケーションには特化しているけれど、個人が集中して作業をする空間とは逆の構造になっているのです。

こうしたオフィスでは、平均して11分に1度は話しかけられるという観測データが出ているそうです。さらに現代はSNS通知やメールが頻繁に届き、そちらにも意識がいきやすい。しかし、人はパフォーマンスの高い『超集中状態(※)』に入るまでに23分かかるとも言われています。こうした状況の中、今やオフィスは深く集中できない最たる場所になりつつあるということです」。

(※スポーツなどで「ゾーン」と呼ばれる、極限の集中状態のこと)

では、一体どのような環境が働く場所としてはベストなのでしょう。

「無音のほうが集中しやすいのか、6割ぐらいの人は図書館が一番集中していましたね。でも、例えば僕は公園が最も集中できているという計測結果だったように、少し音があったほうが集中できるケースもあります。人によって違いがあるんですね。さまざまな場所で行った実証実験の計測結果で、多くの人にとってオフィスが集中できない、ということだけは共通していました。そこで真に集中して仕事ができるワークスペースを作ろうと、Think Labの開発に乗り出したのです」。

井上さんが集中していた時間を、場所ごとに計測したもの
こちらは井上さんが集中していた時間を、場所ごとに計測したもの。数字が大きいほど評価が高い。井上さんの場合は図書館など静かな場所よりも、公園の方が集中して仕事に取り組めることがわかる。人によって集中できる環境は異なるが、計測の結果多くのビジネスパーソンにとってオフィスは集中しにくい環境だとわかったそう。


人は集中していると幸せを感じる

 


社員が集中して仕事に没頭できる環境を作りたい思いからスタートしたThink Lab。それも踏まえて井上さんは「ビジネスパーソンは組織の生産性を上げるために効率的に働くのではなく、『幸せ』のために集中して働くのがいいのでは」と話してくれました。

「会社は、生産性アップのために効率よく働くことを社員に求めることが多いですよね。でも、効率ばかりにとらわれてしまうと、結果がある程度決まったアウトプットしか出せないようになる。

結果がある程度決まっていて効率が求められる仕事なら、機械のほうが絶対に速くて得意だし、これからそういった仕事はAIに任せるのが主流になるかもしれません。人はそれぞれやりたいことがあり、それがモチベーションにもつながる。やりがいを感じるためには自分がやりたい仕事をするべきだし、より大きな幸せを感じるためには集中すべきだと思っています」。


集中して仕事をすれば「幸せ」を感じるとは、どういうことなのでしょうか。

「つまり、趣味などで自分が没頭していると、ドーパミンが出て幸せを感じるということ。心理学の研究では、時間を忘れるほどの集中『フロー体験』によって、人は高揚感を得るという現象が認められています。

3時間ぐらいきっちり集中できると、今日は仕事をやったなという達成感がある一方、打ち合わせだけで1日が終わると、なんとなく『今日は作業に集中できなかったな』なんて、物足りない気持ちになりませんか? 没頭してこそ仕事は楽しくなりますし、幸せに生きるためには集中するべき。これからは、その役割をになったオフィスが注目されていくのではないでしょうか」

皆さんは今、没頭するほど集中して仕事に取り組めていますか? 時間を忘れるほど何かに取り組み、振り返ると確かに大きな喜びや幸福を感じていたという方はきっと多いはず。仕事の効率を高めることはもちろん大切ですが、仕事の充実度を高めるための「集中」に着目してみませんか。

(取材:上浦未来/撮影:菊池貴裕/編集:東京通信社)

識者プロフィール


井上一鷹(いのうえ・かずたか)
1983年北海道生まれ。慶應義塾大学理工学部卒業後、世界初の戦略コンサルティングファーム「アーサー・D・リトル」に入社。大手製造業を中心とした事業戦略、技術経営戦略、人事組織戦略の立案に従事。2012年「ジンズ」に入社。現在はJINS MEME事業部統括リーダー。学生時代には算数オリンピックアジア4位。
Think Lab公式サイト:https://thinklab.jins.com/

※この記事は2018/03/19にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。

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