2016年4月からスタート! 「電力の自由化」で注目を集める事業5選

最近ニュースでよく耳にするようになった「電力の自由化」という言葉。社会に大きな転換をもたらす動きといわれていますが、実際それが何を意味するのか分からないというビジネスパーソンも多いのではないでしょうか。

2016年4月からスタート! 「電力の自由化」で注目を集める事業5選

最近ニュースでよく耳にするようになった「電力の自由化」という言葉。社会に大きな転換をもたらす動きといわれていますが、実際それが何を意味するのか分からないというビジネスパーソンも多いのではないでしょうか。

そこで今回は経済産業省電力取引監視等委員会 取引監視課の島田雄介さんに、電力の自由化とは一体どのような動きなのか、また、それによって今後どのような事業に注目が集まる可能性があるのかを聞きました。

電力の自由化とは


社会における大きな転換期ともいわれている電力の自由化とは、そもそもどのような動きなのでしょうか。

「一般的に電力の自由化とは、『電力の小売全面自由化』のことを表します。

現在の電気事業の仕組みは、発電所で発電された電気が送電線・配電線を通って家庭やオフィスなどに届けられる、というものです。

そして、これまでの消費者への電気の販売は、各地域の電力会社(東京電力、関西電力など全国10社)が一般家庭や小規模事業所向けの販売を独占的に担ってきました。

一般家庭などへの電気の供給は、電気事業法によって一般電気事業者として許可を受けた事業者しか営むことができないと規定されているのですが(法第3条第1項)、この許可を受けているのがそれら全国の10社であり、供給地域の重複等が生じないようにされているため、新たな許可を受ける事業者は事実上いなかったのです。

そのため、大口の需要家(電気の供給を受け、利用する者)向けの小売は既に自由化されている一方、一般家庭などの消費者は電気をどの会社から買うかを選択できない状態にありました。

しかし、2016年4月1日から開始する電力の小売全面自由化は、一般家庭などに向けた電気の販売への新規参入を可能とするものです。これにより一般家庭を含む全ての消費者が、電力会社や料金メニューを自由に選択できるようになるのです」

また、この電力の小売全面自由化の動きは、市場にも大きな影響を与えると島田さんは語ります。

「電力の小売全面自由化により、これまで各地域の電力会社が独占的に電気を供給していた約8兆円の電力市場が開放され、既に自由化されている大口需要家向けの販売市場を含め、約18兆円もの巨大な自由市場が生まれます」

このように、新たな事業者の新規参入が可能になることで、今後は各事業者が顧客を獲得するために創意工夫を凝らし、サービスの種類や内容、料金メニューの多様な発展が予想されます。そして消費者にとっては、電力会社間の競争が活性化することで、電気代のさらなる抑制も期待できるそうです。

電力の小売全面自由化の背景


電力の小売全面自由化決定までには、どのような経緯があったのでしょうか。

「戦後の日本においては、民間電力会社10社が独占的に各地域の電気の販売を担う電気事業制度となっていました。しかしその後、発電部門における競争原理の導入や、小売部門への参入の段階的な自由化を経たことで、年間販売電力量において全需要の約6割まで自由化範囲が拡大し、東日本大震災までの間、電気料金が継続的に低下するなど、一定の成果を挙げてきました。

ところが一方では、家庭等の小口部門は小売が自由化されておらず、民間電力会社10社は自由化分野で積極的な競争を行わなくとも一定の独占市場が確保されている状態にあること、また、電源の大半は民間電力会社10社が保有しているなどの事情により、小売市場における新規参入者のシェアは小さく、民間電力会社10社の間での直接的な競争はほとんど行われていないなど、活発な競争が行われているとは言いがたい面もあります。

また、東日本大震災とこれに伴う原子力事故・原子力発電所の稼働停止を機に、電気料金の値上げや需給ひっ迫(需要に対して、供給に余裕がなくなる状態)下での需給調整、足りなくなった供給力を確保するために再生可能エネルギーを始めとする多様な電源活用がより求められるようになるなど、従来の電力システムの抱えるさまざまな限界も明らかになりました。

そんななか、地域ごとに独占的事業者が供給する従来の仕組みの見直しや、新たな事業者の参入や競争、全国レベルでの供給力の活用、需要家の選択によるスマートな消費など、安定した電力を安く供給するための柔軟なシステムが社会的に強く求められるようになったことから、今回の電力の小売全面自由化が行われることとなりました」

今後注目を集める事業5選


巨大な自由市場の誕生が期待されている電力の小売全面自由化ですが、これにより、今後はどのような事業に注目が集まるのでしょうか。

(1)一般家庭などに向けた電気の販売業


「一般家庭などに向けて電気の販売を行うには、国の登録を受ける必要があるのですが、登録を受けた小売電気事業者は平成27年12月7日時点で73件となっており、今後も登録事業者数は増加していくことが見込まれます。

また、登録事業者の中には、既に自由化された部門において電気事業を行っている事業者から今回初めて電気事業を開始する事業者まで、多様な事業者が含まれており、消費者のニーズに合わせたさまざまな規模・形態による電気の小売事業が展開されることが考えられます」

(2)再生可能エネルギーなどの発電事業


「今後は太陽光や風力といった再生可能エネルギーの供給に特化した小売事業が展開されることも予想されます。このような電気の小売事業に合わせて、再生可能エネルギーに特化した発電を行う発電事業者や、特定の地域での発電を行う発電事業者など、多様な発電事業が展開されるでしょう」

(3)省エネにまつわる家電事業


「電力の小売全面自由化に合わせ、通信機能を有し、遠隔での検針等が可能となる新しい電力量計『スマートメーター』の導入が進められることになっており、詳細な電力使用量が可視化されることになります。これにより消費者の省エネ意識が高まり、省エネ家電など家電事業の市場拡大が期待されます」

(4)電力量計を活用したサービス業


「スマートメーターと家庭のエネルギー管理システム(HEMS)との連携によって、家庭のエネルギー管理を効率的に行うサービスや、冷蔵庫の開け閉め・トイレの照明のオンオフなどをリアルタイムで把握することで家庭内のトラブルの有無を監視する見守りサービスなど、新たなサービスが生まれることが考えられます」

(5)電力会社のコンサルティング業


「各事業者によるサービスの種類や内容、料金メニューが多様化するなかで、各家庭にあった電気会社を紹介するコンサルティング業や、小売電気事業者のメニューを比較し、最適なメニューを探すことができる比較サイトといった新たな事業も生まれていくと思います」

まとめ


「決められた電力会社の電気を使う」という従来の認識を覆すだけでなく、電力にまつわる市場全体に活性化をもたらす、電力の小売全面自由化。社会や市場の大きな変化についての知識を押さえている一流のビジネスパーソンになるためにも、これを機に理解を深めておきましょう。

 

識者プロフィール


島田雄介(しまだ・ゆうすけ)一橋大学法学部卒業。一橋大学法科大学院修了。経済産業省電力取引監視等委員会 取引監視課課長補佐。弁護士。

※この記事は2016/01/08にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。

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