「好き」より大事なことがある!唯一無二のアートユニット明和電機・土佐信道さんから学ぶ「適性」を見つける方法

明和電機って、知っていますか?では、知っているという人に「明和電機って何者?」と聞いてみましょう。「ミュージシャンでしょ?」「芸術家じゃない?」「え、どう見ても電気メーカーでしょ!」…と、いろいろな答えが返ってきそう。

「好き」より大事なことがある!唯一無二のアートユニット明和電機・土佐信道さんから学ぶ「適性」を見つける方法

明和電機って、知っていますか?では、知っているという人に「明和電機って何者?」と聞いてみましょう。「ミュージシャンでしょ?」「芸術家じゃない?」「え、どう見ても電気メーカーでしょ!」…と、いろいろな答えが返ってきそう。

いろいろな要素が交じり合っていて、一言では言い表せない不可解な存在、それが土佐信道さんによるアートユニット、明和電機です。「オタマトーン」などの電子楽器を販売していたり、音楽活動をしていたり、自ら制作した製品の展覧会をしていたり。一体どれが本職なのやら。

でも、どんな分野でも「明和電機らしさ」が溢れていて、meetaのコンセプトである「Meターン」でいうと、完全に「Me」を確立しきっているように見えます。 そんな明和電機は、どのようにして今のスタイルにたどり着いたのでしょうか。今回は「はたらく」という観点から、明和電機 土佐信道さんのクリエイティビティに迫ります!

 

識者プロフィール


明和電機 代表取締役社長 土佐 信道

中小電機メーカーに偽装したアートユニット「明和電機」をプロデュース。プロダクト制作、音楽活動、舞台パフォーマンス、タレント活動など、多彩な取り組みを行っている。

―ところで、机にあるのは「オタマトーン」ですね。僕も持ってるんですよ!

土佐:ありがとうございます(笑)。「オタマトーン・シリーズ」は明和電機の主力製品のひとつです。「オタマトーン」といえば、ネーミングが上手くいったなと思っていて。

―たしかに絶妙なネーミングです。

土佐:「オタマトーン」を思いついて、Googleで検索したらヒットが0件だったんです。そのときは思わず一人でガッツポーズしましたよ!(ガッツポーズを取る土佐さん)

―な、なるほど。土佐さんは「好き」を仕事にしているイメージがあって、今回「はたらく」についていろいろ話を聞かせてもらえたらと思っています。

土佐:でも、明和電機の活動は芸術がベースですから、「はたらく」って感じじゃないですね。だから僕が話をしていいのかな(笑)。

―いえいえ、芸術活動も「仕事」と共通しているところが多そうです。


土佐:でもたしかに、「手に職」ということでいうと、芸術家って自分で商品をつくるんですよ。紙とペンさえあればつくることもできる。仕事っていうか、「性分」、あるいは「営み」ともいえる。すごい原始的ですよね。マンモスを狩りに行くようなイメージです(笑)。

―それも原始的な「はたらく」ですよね。でも最近は、「はたらく」がネガティブに語られることも多くて。土佐さんから何か物申すとしたら。

土佐:芸術家は特殊な人種なんですが、僕は自分を売っているわけです。自分が資本。自分の持っている「不可解さ」を表現していくこと。それが僕の「はたらく」なんですよ。

―なんだか芸術家以外でも、同じことが言えそうですね。

土佐:とはいえ、芸術家は表現したい思いだけあれば良いわけではなくて、あるところからはテクニックも必要になってくる。明和電機の機械をつくるには設計の知識も必要ですしね。人とのコミュニケーションも必要です。

―それこそ、いろんな仕事でも同じです。

土佐:そう。どんな仕事でも技術は絶対に必要だし、仮に今の仕事が「辛い」という人でも続けていれば、何らかの技術は絶対に身につくはずですよ!

―今って、仕事を簡単に辞めてしまう人も多いと聞きます。でも、そんな簡単に仕事を辞めるべきではないのでしょうか…?

土佐:それは分かりませんが、ちょっと昔の僕の話をしてみましょうか。うちは父親が「明和電機」という名の会社をやっていて、僕も小学生の頃から工場のラインに入らされていました。

―お父さんがやっていたという、オリジナルの明和電機ですね!

土佐:だけど当時は、工場のラインを手伝うのが嫌で嫌で。「なんでこんなクリエイティブじゃないことをしなきゃいけないんだ!」って、子どもながらに思っていました。 でも振り返ると、そのときの経験が今すごく役立っているんですよ。どこで何が役立つかは、分からないですね。まあ、そういうこともあるんですよ。

「好き」よりもまずは「適性」を見つけるべき

 

明和電機の格好は「コスプレですよ。今日は盛りに盛っています」と土佐さん。とはいえ、話しているうちに本当に中小企業の社長に見えてきたり…。



―昔からよくある議論ですけど、「好き」を仕事にするべきかどうか、という問題についてはどう思いますか?

土佐:まず「好き」の前に適性でしょうね。スポーツ選手やマンガ家、声優あたりを考えてみたら分かるように、向いていないのにやっても仕方がない。高望みしたら辛くなっちゃう。

―では、その適性はどうやって見つければいいのでしょうか?

土佐:え、だいたい20数年生きていれば分かるんじゃないですか?

―いやいや(笑)。「自分は何をすべきか分からない」って人は多いと思います。

土佐:そうですねえ、自分で見つけるか、人に教えてもらうか。どっちにしてもトライアンドエラーしないことには見つからないでしょうね。

―土佐さんの場合は、自分の適性をどうやって見つけましたか?

土佐:まず、僕は昔から絵が書けました。あと人前に出ても緊張しない。高校時代にはバンドをやっていたし、楽器もできた。まあ、器用貧乏ともいいます。 僕が20歳になった頃は、これからはマルチメディアの時代だといわれていて、器用貧乏だとしても、それらを総合力としてくっつければいいじゃないかと思ったわけです。そういうプラットフォームをつくればいい、と。

―その気づきが、土佐さんの「Meターン(自己実現)」につながるわけですね。一方で、それ以前はどうでしたか?

土佐:大学で卒業制作をつくったときには、「これでいいのか…?」というスランプに陥りましたね。卒業制作って、これまでやってきたことの集大成です。でも、妊婦のロボットをつくってみたら、「あれ、違うぞ?」となった。

土佐さんが卒業制作で作られた妊婦ロボット



―何が違ったんでしょう。

土佐:自分の気になるものを全部込めたはずなのに、出来上がったものを見ると何かが違う。そこから「自分とは何か」というが分からなくなったんです。それで、そのことを1年くらいかけて考えましたね。

―どのようなことをして「自分とは何か」を考えたのでしょうか?

土佐:まず神や宗教観について知ろうと思って、京都・奈良巡礼の旅に出ました。いろんな寺院を巡って、「宗教とは」「神とは何か」ということを考えました。それと生物学の勉強も徹底してやりました。「命とは何か」ということを考えると、一番システマティックにミクロからマクロまで全部やっているのが生物学だったんですよね。

―自分というテーマを「心」と「身体」の両面から考えてみたということですね。

土佐:はい。その結果、生まれたのが明和電機の「魚器(NAKI)シリーズ」です。自分は昔からなんとなく魚が気になっているなと思って。踏み込んでやってみようと魚を1000匹書くトレーニングなんかもやってみて、徹底的にやったら自分のやりたいことの核が見えてきた。そしたら、その核をプロモーションしていけばいいんだと気づけたんです。

※「自分とは何か」という思考から生まれた、魚をモチーフにしたプロダクト「魚器(NAKI)シリーズ」。写真は頭がオスプラグ、しっぽがメスプラグの「魚コード」。



―核が見つかった瞬間は、どんな感覚でしたか。

土佐:最初はぼんやり見えてきて、半年くらいかけて考えている間にビビッと来ましたね。芸術家は、核が見つからないのに自分をアピールしても商品にならないから、それが見つかった瞬間、自分は芸術家になれたと思いました。

―自分の核を見つけることからスタート、というわけですね。

土佐:でも簡単じゃないですよ!芸術家の場合、80歳位で見つかる人もいますからね(笑)。自分の核がわかるなんてことは、それくらいのんびりしているものなんです。

―とはいえ、徹底的に考えないと核は見つからないわけですよね。

土佐:そう。僕は「ダイビング」と呼んでいましたが、考えるとは自分自身の内面に潜っていくこと。その時間が取れるかどうか。が大事だと思います。

―土佐さんはどうやって「ダイビング」していますか?

土佐:今の僕の場合だと、1人でドトールに行きます(笑)。そのほか、図書館の誰もいない部屋でまどろんでいて、突然覚醒することもあります。あとは断片的な発想でも、考えたことをノートに貯めるのも有効でしたね。

おじいちゃん、おばあちゃんばかりのドトールの雰囲気が大好きだという土佐さん。事実、ドトールでの目撃例も多い。


悩める若者は、まず朝ごはんを食べよ。


―明和電機は他に似たものがない「新しい仕事」をしていると思います。誰もやっていないことをやるのって、怖くありませんか?

土佐:いいえ、むしろ目立てる、と考える(笑)。他の人がやっていないことを見つけたら「よっしゃ!」と思いますね。

※明和電機のマスプロダクトのひとつ、「オタマトーン・シリーズ」。しっぽを触って口をパクパクさせると愉快な音が出る電子楽器。



―でも、新しいことをやり続けるのは大変そうにも思えます。

土佐:逆に、僕は二度同じ作品をつくることがたまらなく苦痛なんです。芸術家は大きく「ピカソタイプ」と「デュシャンタイプ(※)」に分けられると思います。「ピカソタイプ」は、何をつくるかよりも、とにかく創造性のエンジンをフル回転させてつくり続けるタイプ。「デュシャンタイプ」は、自分のエンジンは何だろうと考えて、同じものを二度とはつくらないタイプ。僕は「デュシャンタイプ」なんです。(※マルセル・デュシャン=便器をモチーフにした「泉」などのコンセプチュアルな作品で知られるアーティスト)

―新しいアイデアって、枯渇することはないんですか?

土佐:それは絶対にないですよ。「不可解」って、いわば人間の謎なんです。人間が人間を理解する行為ですから。人間の遺伝子が全部解明されたからといって、まだ人間は複雑すぎて分からないことだらけです。

―その「不可解」が商品になるのは、なぜなんでしょうか。

土佐:考えてみれば、漫画も音楽も、芸術に関わるものは全部そうです。「なんか気になる」という感覚がないと、芸術は存在しません。そして「不可解」をプロダクトにしていくと、気になる商品になるわけです。

―最後に、今の自分にモヤモヤしている人にメッセージをいただきたいです!

土佐:もし悩んでいる方が20代だとしたら、30歳までにどうにかなればいいんじゃない?、と思いますけどね(笑)。 極論になりますが、とりあえず朝ごはんをちゃんと食べてください(笑)。仕事も表現をするのも、すごくエネルギーがいるから、体力がないと話にならないですよ。ご飯をちゃんと食べるということも、ひとつのインテリジェンス(=知恵)です!


※この記事は2016/11/04にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。

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