【睡眠専門医に聞いた】睡眠のゴールデンタイムは存在しない?! 20代のための質の高い眠り方

残業・飲み会・帰宅後の家事など、日々忙しく過ごしているとどうしても夜型生活になってしまうもの。では、何時頃までに眠るのがベストなのでしょうか。今回は、日本睡眠学会専門医の中村真樹先生に、就寝時刻と睡眠の関係について教えていただきます。はたして、まことしやかに囁かれている「睡眠のゴールデンタイム」は、実際にあるのでしょうか。

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22時~2時までの「ゴールデンタイム」って本当にあるの?

22時から深夜2時の間に眠っていれば、短い睡眠時間でも効率的に疲れをとれると思っている方も多いですが、結論から述べると成長ホルモンには「睡眠のゴールデンタイム」は存在しません。

睡眠のゴールデンタイムという言葉が広まったのは、テレビや雑誌などさまざまなメディアで「22時~2時までに眠ると成長ホルモン分泌が盛んになり、美容効果がある」と紹介されたことがきっかけでした。しかし、成長ホルモンは特定の時間に決まって分泌されるわけではないので、22時から2時の間に寝たからといって分泌が促される事実はありません。

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ホルモンが分泌されるのはいつ?

ホルモンには、睡眠の影響を受けるホルモンと体内時計の影響を受けるホルモンがあります。「成長ホルモン」は「睡眠の影響を受けるホルモン」で、眠ってから約1〜2時間後の深いノンレム睡眠中に多く分泌されます。つまり、夜23時に寝ても徹夜をして朝11時に寝ても、同様に就寝後1〜2時間後に分泌量がピークを迎えるのです。

一方、ストレスホルモンとも呼ばれる「コルチゾール」は就寝時刻に関係なく、体内時計に合わせてホルモン分泌量が変化します。体内時計にあわせて自然に目が覚める直前に分泌量が最大となり、自然に眠気が生じるタイミングで分泌量は最小になります。

就寝時刻がバラバラの場合、ホルモン分泌はどうなるの?

シフト制の仕事をされている方や複数の仕事を掛け持ちしている場合、就寝時刻が日によって異なることも多いはずです。先述したように、22時~2時の間に寝ていないからといって成長ホルモンが分泌されないわけではありません。しかし、日々の就寝時刻が異なることによって体内時計が乱れてしまうと、心身の不調が生じるケースもしばしば。もちろん一概に言えることではありませんが、体内時計の乱れやすい交代勤務従事者の発がんリスク上昇も発表されています(Kolstand HA,Scand J Work Environ Health 2008;34:5-22より)。

仕事の関係上難しい場合もあると思いますが、体内リズムを整えたい場合にはシフト制ではなく、夜勤専従にしてもらうのも一案です。

睡眠によって得られる健康効果

睡眠には、記憶・疲労回復・成長と3つの役割があります。「脳や体の疲れをとりながら、傷ついた細胞を修復させている」と考えると、睡眠の重要性が分かるはずです。睡眠と健康は密接に関係していて、睡眠不足は糖尿病・心筋梗塞・うつなどさまざまな病気の発症リスクを上げるとも言われています。日本人の多くが十分な睡眠時間が取れず、“睡眠負債”を抱えていますが、心とからだの健康のためにも意識的に睡眠をとる必要があるのです。

また、不規則な生活や夜更かしによる体内時計の乱れにも要注意。同じ睡眠時間を確保した場合でも、遅寝遅起きする人は早寝早起きの人よりも肥満・集中力低下・抑うつ感の増大傾向が見られます(英国心理学会でのイギリス・ローハンプトン大学のHuberからの報告より)。

健康的で幸福感のある生活を送るためにも、就寝時刻と睡眠時間には気を配ってください。

20代が知っておきたい、“眠り”の極意

よく「睡眠の質を上げる」という言葉を耳にしますが、正しくは「睡眠の質を下げる要因を取り除く」ことが重要です。睡眠の質を下げないためには、いくつか意識したいポイントがあります。自分の睡眠を振り返りながら、質を下げる要因がないか確認してみてください。

・眠りの極意1.「寝酒」には注意!アルコールは不眠のもと
就寝前に「寝酒」を習慣化している人もいるかと思いますが、アルコールは睡眠が浅くなる要因となるため中途覚醒にも繋がってしまいます。アルコールの作用によって寝つきは良くなりますが、睡眠の持続性が低下してしまい、結果的に「疲れのとれない睡眠」になってしまうのです。また、寝酒の習慣化は“アルコールがないと眠れない状態”になる可能性が高く、アルコール依存症になる恐れもあります。就寝前に限ったことではありませんが、アルコールは飲酒量や回数に注意したうえで、節度を守って嗜みましょう。

・眠りの極意2.入浴と運動で眠りにつきやすい土台作りを
就寝時の環境はもちろんですが、就寝前の行動も「睡眠の質」に影響を及ぼす要因の一つです。上昇した体温(深部体温という内臓の体温)が低下するタイミングで人は自然と眠くなるので、寝る1~2時間前に38~40度の湯舟に浸かって、じんわりと体を温めましょう。また、適度な運動も睡眠を促す効果が期待されます。就寝前に軽くストレッチやヨガなどのリラクゼーションを取り入れるのもおすすめです。

・眠りの極意3.季節と自分に合った睡眠環境づくり
騒音・温度・湿度・照明などの室内環境も睡眠の質に影響を与えます。「夏場は通気性の良い寝具を選び、冬場は保温性の高い布団を選ぶ」といったように、季節に合った寝具を選ぶようにしましょう。理想的な寝室は湿度50~60%、室温が16度(冬)~26度(夏)と言われています。睡眠環境づくりの目安にしてみてください。

体内リズムを整えて、睡眠の質を担保しよう!

ついついやってしまう「寝酒」や「夜更かし」。しかし、これらの“NG習慣”は、睡眠の質を下げ、心身の不調に繋がる可能性もあります。規則正しい生活と十分な睡眠時間の確保で、心とからだを整えていきましょう。

【監修】
中村真樹●日本睡眠学会専門医。2008年睡眠総合ケアクリニック代々木に入職。2012年、同病院の院長となり、睡眠で悩むビジネスパーソンを月に300人以上診察する。2017年6月には青山・表参道睡眠ストレスクリニックを開院。
https://omotesando-sleep.com/

文=山本杏奈
編集=五十嵐 大+TAPE

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