ショートスリーパーの特徴と実態。短時間睡眠体質にはなれるもの?

歴史に名を残したフランスの英雄・ナポレオンや、アメリカの発明家エジソンが「4時間しか寝ていなかった」というのは、非常に有名な話です。彼らは短時間の睡眠で健康を保っていたといわれていますが、はたして本当に“ショートスリーパー”は存在するのでしょうか。今回は、日本睡眠学会専門医の中村真樹先生に、知られざるショートスリーパーの実態について教えていただきます。

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ショートスリーパーとは?

「ショートスリーパー」とは、体質的に短時間の睡眠でも支障なく日常生活を送ることができる人を指し、目安として6時間未満の睡眠で健康状態に問題ないことを基準とします。一方、10時間以上の睡眠が必要である体質の人は、「ロングスリーパー」と呼ばれています。

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睡眠時間は何時間で足りるの? ショートスリーパーの実態

まず最初にお伝えしたいのは、睡眠時間は短くなればなるほど、生活習慣病になるリスクが高いことがわかっています。ですので、ショートスリーパー的な状況であることや、ショートスリーパーを目指すことはおすすめできるものでは全くありません。

6時間未満の睡眠でも健康を維持できる人

個人差はありながらも人間の身長や体重がある程度同じであることと同様に、平均的な睡眠時間もだいたい同じくらい。しかし、その中でも短い睡眠時間で効率よく疲れをとる人もいれば、長時間の睡眠が必要になる人もいます。前者の「ショートスリーパー」は短時間睡眠体質と呼ばれるもので、6時間未満の睡眠でも健康を維持できる人を指す言葉です。

ショートスリーパーの眠りの特徴はまだデータにない

現在得られているデータでは、ショートスリーパーの眠りの特徴を示すものはありません。実際私の元を訪れる方の中に、快適な環境でも4〜5時間で起きてその後全く眠くならない、というショートスリーパー体質らしき方もいますが、脳波を見てもショートスリーパーではない方のものと差はありません。

ショートスリーパーって本当にいるの?

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先述したように、短時間の睡眠で健康を維持できるショートスリーパーの方はいますが、人数自体は非常に少ないもの。最近では、“寝ていない自慢”をする自称ショートスリーパーも見かけますが、彼らが本当に短い睡眠時間で健康を維持できているかはわかりません。

ショートスリーパーは自然に4~6時間で目が覚めて活動できる

実は、ショートスリーパーを見極めるのは非常に簡単で「遮音と遮光に配慮した寝心地の良いホテル(空間)に宿泊し、目覚まし時計はかけずに好きなだけ眠らせて、自然に起きる時間を計測する」だけ。ショートスリーパーの場合には自然に4~6時間後に目が覚めてそのまま起きて活動できますが、自称ショートスリーパーの場合には連続して、あるいは2度寝・3度寝して8時間以上、ときには12時間も寝てしまうことも……。

ショートスリーパーは昼間眠くならない

また、ショートスリーパーは日中に眠気を感じません。いくら自分のことをショートスリーパーだと言っている人がいたとしても、日中に会議や電車の中で居眠りをしていたら、本物の短時間睡眠体質ではないのです。つまり、どんな空間で寝ても自然に4~6時間で目が覚め、日中眠くならない人がショートスリーパーだと判断する一つの基準となります。

ショートスリーパーは何も予定がない週末でも睡眠時間が変わらない

上記のように、ショートスリーパーは短い睡眠時間で疲れを癒すことができるため、日中に眠くならないのはもちろん、週末予定がなかったとしても、睡眠時間が変わることがありません。つまり、どのような時でも、睡眠時間が変わらず、決まった就寝時間以外に眠くなる、ということがありません。

日中眠くなったり、休日に普段より多めに眠っている、という方は「自称ショートスリーパー」である本物のショートスリーパーではないのです。

ショートスリーパーってどれくらいいるの?

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ショートスリーパーの正確な割合は算出されていませんが、約1%未満の割合で存在すると言われています。割合を考えると本当のショートスリーパーはごくわずかと考えられるでしょう。しかし、この1%には「自称ショートスリーパー」も含まれていると考えられ、前述したショートスリーパーの特徴を厳密に考えるならば、さらに少ないことが考えられます。いずれにしても、ごく限られた人数しかいないことがお分かりいただけるかと思います。

ショートスリーパーだったと言われている著名人

ショートスリーパーであったとされる偉人はナポレオン、エジソン、イギリスの元首相のサッチャーなど多いですが、実は「ナポレオンは行軍中の騎上で居眠りをして落馬した」「エジソンは『思索の時間』と称して、目をつむって過ごしていた」など、数々の噂も……。真偽は明らかではありませんが、本当に3~4時間の睡眠で足りているのであれば居眠りや仮眠は必要ないはずです。

しっかり睡眠時間をとっている偉人たち

アインシュタインや2002年ノーベル物理学賞受賞の小柴昌俊先生は10時間睡眠、医学部合格者の80%以上は平日6時間以上、40%以上は7時間以上の睡眠時間を確保しているそうです。

またAppleのCEOであるティム・クック氏や、Amazonのジェフ・べゾフ氏などGAFAのCEOも7時間睡眠というデータがあり、(※)集中力を保ちパフォーマンスを高めるためには十分な睡眠が必要であることがわかります。

※出典:Forbes “The sleep Habits of Highly Successful People”

医学部予備校ガイド 医学部合格者分析(https://igakubu-guide.com/analysis/analysis02/

ショートスリーパーを目指せる?

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ショートスリーパーを目指すのは絶対にNG!

「睡眠時間を削って、仕事やプライベートに使う時間を増やしたい」という気持ちは分かりますが、ショートスリーパーを目指すのはNG!ショートスリーパーはもともとの体質であり、目指してなれるものではありません。もちろん短時間睡眠を意識的に行うこと自体は不可能ではないですが、確実に生産性は低下していきます。睡眠時間を削って2時間多めに仕事ができたとしても、眠気のせいで日中の6~8時間をムダにしてしまうと意味がないのです。

人の睡眠時間は遺伝的に決まるもの

家族全員が睡眠時間が短い、という家庭が過去にあったそうです。その家族全員を、睡眠の研究者が遺伝子検査したところADRB1という遺伝子が普通の人と少し違う構造をしていたそうです。彼らは本物の「ショートスリーパー」だったと考えれれます。まさしく、遺伝子レベルで構造が異なることがショートスリーパーとそうでない人を見分ける唯一の方法と言えるのではないでしょうか。

仕事も趣味もパフォーマンスを上げるためには睡眠時間が必要

 

連日5時間睡眠で効率が下がるという実験結果も

実際に「連日5時間睡眠を行うと、日を追うごとにミスの増加に繋がる」という実験結果も出ており、睡眠不足が仕事に悪影響をもたらすのは明らかです。慢性的な睡眠不足が心とからだに与える影響を理解したうえで、自分に最適な睡眠時間を見つけていきましょう。

睡眠時間が短いことによる経済的な損失

睡眠研究の大家である日本大学の内山教授(2006年当時)の研究によれば、睡眠不足の方が多いことによる日本の経済損失は3兆円にも上る、という研究結果があります。

日本は世界の中でも平均睡眠時間が非常に短く、働いている時間は長い国です。労働時間ベースでのGDPを考えると、日本は労働生産性は実はとても低いのです。睡眠時間を削ってパフォーマンスの低い仕事をし、そのために仕事が終わらず残業時間が増えてしまい、また睡眠時間が短くなる、という悪循環に陥っているのではないかと考えられます。睡眠時間が他の国と比較して少ないということが、日本における大きな課題だということが言えると思います。

睡眠時間を確保して、労働効率を上げるべし

活動時間を増やそうと、短時間睡眠を目指しているビジネスパーソンもいるかもしれません。しかし、適切な睡眠時間を確保できていないと疲労回復や記憶の整理が行えず、結果的に心とからだに大きなダメージがかかってしまいます。「心身の健康は、十分な睡眠から」と心に留め、しっかりと睡眠時間をとるように心がけましょう。

【監修】
中村真樹●日本睡眠学会専門医。2008年睡眠総合ケアクリニック代々木に入職。2012年、同病院の院長となり、睡眠で悩むビジネスパーソンを月に300人以上診察する。2017年6月には青山・表参道睡眠ストレスクリニックを開院。
https://omotesando-sleep.com/

文=山本杏奈
編集=五十嵐 大+TAPE

更新日=2022年12月26日

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