ファシリテーターとは? 会議における役割やスキル、具体的な動き方を解説

私たちは会議に多くの時間を投じています。もし仮に短い時間で会議の質を高めることができるとしたら、多くの組織で仕事の生産性を高めることができます。そのとき欠かせない役割が、今回のテーマである「ファシリテーター」です。今回は、これまでに1万人を超えるビジネスパーソンに対しはたらき方改革に関する助言を提供してきた松久晃士さんに、会議を成功に導くキーパーソン「ファシリテーター」について解説していただきました。

ファシリテーターとは? 司会との違いは?

ファシリテーターとは、会議に参加している人たちのコミュニケーションを促しながら会議の目的やゴールにたどり着けるよう議論を導く役割を持つ人のことを指します。

「司会進行」に近い印象がありますが、議論をタイムテーブル通りに進行するだけではなく、全参加者の意見やアイデアを促すこと、議論のゴールにたどり着けるようその時々で柔軟に対応しながら進める、という点でファシリテーターの方がより高度な技術が求められます。

ファシリテーターが会議で果たす役割とは?

会議の目的は「次の行動を決める」ことにあります。仮に「情報共有のための会議」だとしても、共有された情報を元に次の行動につなげることが目的です。

この「次の行動を決める」ことこそがすべての会議のゴールであり、ファシリテーターには参加するすべての人たちの意見・アイデアを引き出し、このゴールに導くことが求められています。このときファシリテーターはどんな役割を担うのか整理しましょう。

  1. 会議の目的とゴールを設定し、参加者と事前に共有する
  2. アイスブレイクを設けることで、直前の仕事との「切り替え」を促す
  3. 全員が意見やアイデアを発信できる雰囲気を醸成する
  4. 他の参加者にも役割を与えて参画度を高める
  5. 議論を可視化しながら結論を全員と確認する

ファシリテーターにはこの五つの役割が求められます。これらのスキルはいつからでも磨くことのできるスキルです。次の章では、これらの五つの役割とスキルについて詳しくご紹介します。

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ファシリテーターに必要なスキル

ファシリテーターのスキルといっても、特別な技術が必要となるわけではありません。体系的に会議について学ぶ機会はまれであるため、ぜひこの記事を通じて会議のファシリテーションについて学んでみてはいかがでしょうか。既にできていることもあれば、全く気が付いていなかったこともあるはずです。

1.会議の目的とゴールを設定し、参加者と事前に共有する

どんな会議にも目的があります。ただ「何のための会議か」について答えられない参加者がいたり、どこまでたどり着く必要があるのかといったゴール設定もあいまいであったりします。「これは何を目的とした会議であり、一つ一つの議題(アジェンダ)のゴールはどこに設定されているのか」を、ファシリテーターは参加者が「事前に」把握している状態を作ることが必要です。

<参考記事>
アジェンダとは? 作成方法や活用のコツを解説

2.アイスブレイクを設け、直前の仕事との「切り替え」を促す

多くの人たちが会議に追われ、この会議の直前まで別の仕事をしたり、打ち合わせをしたりしています。オンライン会議が一般化した現在ではほんの数秒前まで別の会議に出席していた、ということも珍しくありません。前の会議のことを頭の中に持ったままでは目の前の会議に集中できません。「目の前にある会議」に集中させるためにはアイスブレイクが効果的です。隣の人と週末の出来事について話す、最近のうれしかったことを一人ずつ話す、など、どんな内容でも構いません。全員が参加でき、可能であれば全員が発話したり行動したりできる、先ほどまでのタスクや会議と区切りをつけられるようなアイスブレイクを設定しましょう。

<参考記事>
アイスブレイクとは? 会議の目的を達成するのに必要な空気の作り方

3.全員が意見やアイデアを発信できる雰囲気を醸成する

3点目のスキルについては、反対の状況(雰囲気)を想像すると活路が見えてきます。つまり「意見やアイデアを最も言いにくい雰囲気」とは何かを考え、それを打ち破る方法を実施するのです。ファシリテーターは適切なアイスブレイクのあと、付箋紙を配布してアイデアを集める方法や、いきなり全員で話すのではなく小集団(2〜4人)に分かれて話し、それぞれが話した内容を会場全体で共有するといった方法を用いて、誰もが意見やアイデアを発信できる雰囲気を醸成するのです。

会議でのよくある失敗として「質問のある方はどうぞ」と促しても質問が出ない、ということがあります。質問や疑問は常にあるものであり、ファシリテーターはいつでも参加者の疑問や質問に答えようとする姿勢が必要です。このまま会議を進行すると十分な合意形成がなされないままとなり、会議で決まったことが実行されなかったり、実行したとしても形骸化してしまったり、という先々に問題が表面化する事態につながります。不満そうな表情の人には会議中に声をかけたり、全体に向けて「どんなことでも構いません、ご質問をお願いします。」と質問があることを前提に呼びかけ確認しましょう。

4.他の参加者にも役割を与えて参画度を高める

会議のすべてをファシリテーターが握ってしまうと、参加者の主体性や参画度合いが低下してしまいます。ファシリテーターの重要な役割は全参加者から意見やアイデアを引き出しながら会議のゴールにたどり着けるよう導くことです。

会議には「時間を管理する」「議論を可視化する」「積極的に反応する」などの役割があり、参加者全員が何らかの役割を担っている必要があります。すべてをファシリテーターが担う必要はなく、参加者に役割として付与していくことをお勧めします。例えば会議の冒頭でカードを配布し、トランプのように役割を決めてから開始することも有効ですし、定例ミーティングであれば次回の役割を決定してから会議を終えるというのも一案です。役割を持ってもらうことで自然と会議への参画度を高めることができます。

5.議論を可視化しながら結論を全員と確認する

会議の定義である「次の行動を決める」ことのできない会議が存在します。その最大の要因は「議論が空中戦である」ことにあります。空中戦とは、発話された言葉がどこにも記録されず、いま何の議論をしているのかわからないまま次々に話題が変わっていき、次第に会議の目的やゴールから遠ざかってしまう状態のことを言います。ホワイトボードを使ったり、オンラインツールで画面共有したりと、議論を一つの場所に記録し、可視化することで全員の認識を合わせることができます。

<参考記事>
会議の効率的な進め方。まとまらない会議を「地上戦」に持ち込む

ファシリテーターの注意点

ファシリテーションを担当することになった際に、見落としがちな注意点があります。以下の三つの注意点を意識しながら会議を進めていけると、より質の高い会議ができると考えています。

1.バランス感覚を持つ

一つ目の注意点は「バランス感覚」にあります。皆さんが日常的に運営・参加している会議では、ファシリテーターがファシリテーションだけに集中できる、ということはまれであろうと考えます。実際のビジネスシーンではファシリテーターは参加者とファシリテーターの役割を行ったり来たりするのです。どちらかに徹してしまうのではなく、そのどちらの役割も果たせるようバランス感覚を持たなくてはなりません。

2.「テーマ」と「ゴール」を区別する

二つ目の注意点は、会議の目的・ゴールがあるようでない状態を作ってしまうことです。例えば会議の目的を伺うと「新商品開発について」「新技術の活用について」と言われることがあります。これは目的でもゴールでもなく「テーマ」です。「〇〇についてどうしたいのか・どこにたどり着きたいのか」が目的でありゴールです。例えば「新商品のアイデアが100個出された状態」「新商品のアイデアが100個から10個まで絞り込まれた状態」など、テーマに対してゴールを設定するようにしましょう。

3.肩に力を入れすぎない

三つ目の注意点は、ファシリテーターがすべてを担おうと肩の力を入れすぎてしまうことです。ファシリテーターに必要なスキルの4つ目にまとめた通り、参加者に役割を与えることで一人一人の参画度をぐっと高めることができます。本来参加者が担ってもよい役割をファシリテーターがすべて担ってしまうと、参加者の主体性は低くなってしまいます。本来、理想的な会議とはファシリテーターがいなくとも誰もが自分の意見やアイデアを出せて、全員が相互作用をもたらしあい、1人ではたどり着けなかった結論に至り、全員の次の行動が決まることです。誰もが会議中に、ファシリテーターをはじめとするすべての役割を柔軟に担いながら会議が進行できているのが最高の状態なのです。そのための練習として、全員に役割を担ってもらうところからスタートしましょう。

こんなときどうする?ファシリテーションQ&A

筆者がこれまでに数多くの会議のファシリテーションの役割を担ったり、ファシリテーターを観察してフィードバックをしてきた経験から、よくあるファシリテーターの困りごとについてご紹介いたします。

Q意見がなかなか出てきません……

意見が出てこない会議が存在するのは、そのお題について全くアイデアがないか、アイデアはあるが言いたくないかのいずれかです。そしてほとんどの場合、後者が原因となっています。

「余計なことを口にしないようにしよう」「言い出すと”あなたが適任だとおもう”と言われ仕事が増える」など、意見やアイデアを発言しない方が自分にとってプラスだと考えられる背景が存在しているはずです。

これは組織風土によるもので、すぐに解決することは難しいかもしれませんが、ファシリテーターにできることもあります。それは「グラウンドルールを設定する」ということです。グラウンドルールとは、その会議におけるお約束、お作法のようなものです。例えば会議の冒頭で、今日のゴールを確認したうえで「このゴールに達するには、皆さんがざっくばらんにアイデアを出す、ということが欠かせません。そこで今日のこの時間だけは次の3つをルールとしましょう」と、グラウンドルールを会議中に誰もが見られる場所に掲示しておく、という方法です。グラウンドルールは端的でわかりやすく、最大でも3点に絞るとよいと考えます。具体的には「反応する」「否定しない」「バカになろう(数出す人が勝ち)」「質問する」「相手に興味を持つ」等がありますので、議題や参加者の雰囲気に合わせてアレンジしてみてください。

Qアイデアがいろんな方向に広がってしまい、時間も迫ってきている、落としどころをどう見つけたらいいでしょうか?

議論のプロセスには「拡散と収束」があります。例えばキャッチコピーを1,000個出した(拡散)としても、最終的にはいくつかのコピーに絞り込む(収束)必要があります。会議時間も終了が迫り収束が困難である、という事態に遭遇することは珍しくありません。いくつか対処方法があるのでご紹介します。

1.会議時間を延長する

議論が盛り上がっている状態で、あと少し続ければ結論が見えてくるのではないか。今日の会議のゴールに到達できそうだ、と考えられる場合には「延長戦」も選択肢の一つです。参加者に次の予定を確認し延長が可能か判断しましょう。

2.この続きを議論する場を決める

今日の会議は「アイデアの拡散であった」と結論づけ、この後に続く収束については機会を改めるという方法です。定例の会議であれば次の会議の議題として(もちろんこの議題については次のゴールについてもこの場で合意しましょう)追加することがおすすめです。特に次回を予定していない会議であれば、その場で全員のスケジュールを確認し続きの議論をする場を設定します。時間が迫っている状況であるため、つい議題のゴール設定をあいまいにして(例:6月4日の議論の続きを話す等)しまうことがありますが、参加者も今日の白熱を忘れてしまうことがほとんどです。必ずゴール設定を明確にしましょう。

3.何か一つでもアクションを決める

会議時間の延長も次回持越しも「すっきりしない」という場合には、いったん議論を止めて「今日の議論の振り返りをしましょう。どんな感想を持ち、何から行動したいと思われますか?」と一人一人に発言してもらうことも一案です。つまり「いろいろと意見やアイデアが出ている状態だけれど、あなたはそれをどう受け取っている?」「今日の議論を経て、何から試してみよう、このあたりから実践してみたらいいのではないか? と思うのはどこ?」と聞いてみるのです。ファシリテーターは常に全体を俯瞰(ふかん)して議論を見ているため「何も決まっていない! どうしよう!?」という気持ちになることが多いのですが、思いのほか参加者は思考を進めていて「今日は他者の意見を聞けてすごくよかった」「自部門ではこのあたりから着手して、次回の会議までにその反応を集めてくるようにします」と、前向きな感想と具体的な行動が発言されることも多いものです。

まとめ

会議の進め方について学ぶ機会は多くありません。社会人1年目でみた「会議」があなたの「会議」の定義であり解釈です。一つの組織で長年はたらいている人が多い場合、他社から見るとたいへん独特な会議の進め方である(例:ファシリテーターが原稿を準備していて、原稿を読みながら一言一句違わずに進行する。参加者は目をつぶってじっとしている。)ということも多くあります。

自分以外の人たちがどんな会議の進め方をしているのか、他部署、他社、他業界、他国など「会議」という共通の時間について視座を高く持ち、いろいろなところに目を向けてみてください。多くの気づき、発見、学びが得られるはずです。

また、テーブルをとっぱらって椅子だけを並べる、窓が大きくて景色のよい会議室を予約するなど、いつもと違う雰囲気を用意するだけで、これまでの会議とずいぶん異なる内容になる(質が高くなる)こともあります。こういった環境設定も、実はファシリテーターのスキルであると考えます。今回の記事を参考にしながら、ぜひ価値ある会議=次の行動が決まる会議を実践していきましょう。そしてどんなやり方がよかったか、ぜひ私にもその体験を教えてください。

【プロフィール】
松久晃士(まつひさ こうじ)
株式会社ワーク・ライフバランス執行役員。二児の父。1万5千名以上のビジネスパーソンに働き方改革のアドバイスを提供。中央省庁・自治体・警察組織・研究機関など特殊性の高い業種・職種における働き方改革の支援にも定評がある。2016年から静岡県三島市に移住し、家族4人で地域活動などにも積極的に参加する。在宅勤務と長距離通勤を織り交ぜながら自らのワーク・ライフバランスを整え、累計10カ月にわたる育児休業経験もあるため、働き方改革に関して独自の目線と実体験を有する。
松久晃士|ワークライフバランス公式プロフィールページ

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