それって認知バイアスかも? 種類や仕事への影響、予防策について解説

認知バイアスは無意識のうちに生まれて、ビジネスに悪影響を及ぼすことがあります。大事なのは「どんな認知バイアスがあり、どんな状況で発生しやすいのか」を知ることです。認知バイアスについて知識を深め、抜け出す方法を身につけましょう。

それって認知バイアスかも? 種類や仕事への影響、予防策について解説

認知バイアスは、論理的思考を歪めてしまう偏見や先入観などのこと。「自己奉仕バイアス」や「ハロー効果」などいくつもの種類があり、知れば知るほど「自分にも働いている」とドキッとするかもしれません。今回は、社会保険労務士でキャリアコンサルタントの村井真子さんに伺った話をもとに、認知バイアスの種類や抜け出す方法などを解説します。

認知バイアスとは?その概要を解説

認知バイアスとは? その概要を解説

一般的に「認知バイアス」とは先入観、偏見、一方的な思い込み、歪んだデータ、誤解などを幅広く指すものと定義されています。無意識に「こうだろう」「こうあってほしい」「こうに違いない」と思う心の動きとも言えるでしょう。認知バイアスがあると、認知が“論理的に”歪み、データの示すものを読み違えることなどにつながります。論理的思考の前提がずれ、脳が誤認するためです。

認知バイアスの具体例

例えば、次のような場合は認知バイアスが働いている状態といえます。

  • 会議やMTGの場で積極的に発言する社員のほうが優秀だと思っている。
  • 自分の母校は他校に比べて優れていると感じる。
  • 好きなタレントがCMに出演している商品は性能もいいと感じる。
  • 発注数が一定の数で繰り返されているので、次も絶対に同じ数で発注が来ると思う。

ここまでで認知バイアスのイメージが少しつかめてきたでしょうか。では、さらに詳しく見ていきましょう。

認知バイアスの種類

認知バイアスの種類

「認知バイアス」はさまざまな先入観や偏見などの総称で、多種多様な種類があります。ここではビジネスシーンで発生しやすい認知バイアスについて具体例を交えて解説します。

確証バイアス

確証バイアスとは、自分の考えや仮説に合う情報のみを集めたり高い評価をしたりする傾向のこと。反対に、考えや仮説に合わない情報は無視したり低く評価したりすることもあります。

<ビジネスシーンでの具体例>
自分が担当する商品の市場動向を調べるときに、都合のいい情報だけを調べ、都合の悪い情報は無視する。

自己奉仕バイアス

自己奉仕バイアスとは、成功時には自分の能力によるもので、失敗時には自分ではどうしようもない外的要因によるものだと思い込むこと。

<ビジネスシーンでの具体例>
人事評価について、良いときは「自分が努力したからだ」と思い、悪いときは「不景気だから」「魅力的な商品が投入されなかったから」と自分の働きがどうだったのかを内省しない。「自分は不当に評価されている」と感じる傾向が高くなります。

現状維持バイアス

改善よりも「損失する可能性がある」ことに注目して、現在のやり方や状況を保持しようとすること。変えることで良い方向に進むとしても現状維持を選びます。

<ビジネスシーンでの具体例>
新しいシステムを導入すると処理速度が速くなり業務効率化されることは明らかであるが、導入に際しての社内調整やフロー整備などに手間がかかることを考えて導入を見送る。

バンドワゴン効果

バンドワゴン効果とは、多くの人がある同一の選択肢を取っていると、その選択肢を取る人がさらに増える現象のこと。自分の考えを貫くよりも流行に乗りやすくなります。

<ビジネスシーンでの具体例>
経費精算システムの導入を考える際に、業界トップシェアをうたっているという理由で導入を決める。

ハロー効果

ハロー効果とは、一つの優れた点や劣っている点を知ると、その評価に引きずられて評価対象そのものを「優れている」「劣っている」と思うこと。先述の「好きなタレントがCMに出演している商品は性能もいいと感じる」という例もハロー効果によるものです。

<ビジネスシーンでの具体例>
ある特定の分野が不得手な人はすべての仕事が不得手であると感じたり、ある特定の分野が得意な人はすべての仕事が得意であると感じたりしてしまうこと。

正常性バイアス

正常性バイアスとは、危険な状況であっても、ちょっとした変化なら「日常のこと」と考えてしまうこと。災害や詐欺などの注意喚起を耳にしても「自分は大丈夫だろう」と思う現象などにつながります。

<ビジネスシーンでの具体例>
トラブルにつながりそうなサインを発見しても、「まあ、大丈夫だろう」と判断して報告や相談を怠る。

生存者バイアス

生存者バイアスとは、成功した(≒生存した)対象のみを基準とし、失敗した対象は見ないで判断をすること。何かしらの成功事例を参考にするときには、生存者バイアスが働いていないか注意しましょう。

<ビジネスシーンでの具体例>
成功している企業のビジネスモデルを踏襲すれば、自社の新規事業も必ず成功するはずだと捉える。

内集団バイアス

内集団とは、自分の所属する集団のこと。内集団バイアスとは、内集団やその集団のメンバーを高く評価したり、好意的に感じたりすることです。

<ビジネスシーンでの具体例>
母校の出身者は、他校出身者に比べて人格や能力が優れていると根拠なく思う。

フレーミング効果

フレーミング効果とは、同じ情報であっても、焦点の当て方によってまったく別の意思決定へとつながる現象のこと。情報を受けた人の行動に影響することがあり、CMなどで活用される認知バイアスです。

<ビジネスシーンでの具体例>
商品を購入するときに500円と1,000円であれば500円を選ぶ人でも、選択肢に2,000円があると、本来買うはずではなかった1,000円の商品を購入する確率が上がる。

現在志向バイアス

現在志向バイアスとは、将来の大きな利益よりも、すぐに手に入る利益を優先させてしまうこと。ビジネスでは投資や人材育成の場面などで、現在志向バイアスが働くことがあります。

<ビジネスシーンでの具体例>
新規事業への投資が重要なことは分かっているが、直近で大きな出費となることを惜しむ。

サンクコスト効果

サンクコスト効果は、すでに費やしたコストを「このままでは無駄遣いになってしまう」「もったいない」と感じ、それをどうにか取り戻そうとする心理が働き、さらに多くのコストをかけようとすること。サンクコストは埋没費用ともいわれ、払ってしまって回収不可能となったコストのことです。

<ビジネスシーンでの具体例>
社運を賭けたプロジェクトが傾いているとき、損益分岐点を切っても投資し続けてしまう。

後知恵バイアス

後知恵バイアスとは、結果を知ったとき、それがあたかも最初から予想できていたかのように考えてしまうこと。「そうなると分かっていた」という勘違いで、成功と失敗のどちらの場面でも起こり得る認知バイアスです。 

<ビジネスシーンでの具体例>
ある商品がヒットしたとき、ヒットを予見していなかったのにも関わらず「やっぱり私が言っていたとおりになった」と思う。

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認知バイアスによるビジネスへの悪影響は?

認知バイアスによるビジネスへの悪影響は?

ビジネスでは認知バイアスが悪い影響を引き起こすことがあります。主に次のような場面で、認知バイアスが働いているかどうか、少し考えてみるのがおすすめです。

仮説に合わないデータを排除・軽視する(確証バイアス)

商品企画・分析などの調査では、自分なりの仮説を持って取り組むことが多いでしょう。そうした場面で「確証バイアス」が働くと、仮説に合わないデータを排除・軽視することにつながります。結果、漏れやダブりのない調査ができず、判断を誤ってしまいます。

フィードバックを謙虚に受け止められない(自己奉仕バイアス)

提案した商品や企画が想定外に低い評価を受けたとき、自己奉仕バイアスが働くと「自分に過失があったのではなく時期が悪い」「競合商品が良すぎた」などと他責的になります。すると、周囲からのフィードバックを謙虚に受け止められなくなります。

改善行動をしない(現状維持バイアス)

現状維持バイアスが働くと、仕事の進め方に「より良い案がある」と思っても、周囲へのプレゼンや根回しが億劫になり、「今のままでも問題ない」として改善行動をしなくなります。

先輩・上司の言うことを鵜呑みにする(ハロー効果)

一つの優れた点や欠点への評価に引きずられてしまうのが、ハロー効果です。これが働くと、一度「仕事ができる」と思った先輩や上司などの言うことを何でも鵜呑みにし、自分で検証する姿勢を持たなくなります。

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マイナスの認知バイアスから抜け出す方法は?

マイナスの認知バイアスから抜け出す方法は?

ビジネスにおいて認知バイアスによる悪影響を受けないためには、どうすればいいのでしょうか。認知バイアスから抜け出すおすすめの方法をご紹介します。

情報収集がMECEに行われているか検証する

MECEとは、「Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive」の略語で、「漏れやダブりがない」という意味を持つロジカルシンキングの手法の一つです。情報収集をする際、仮説に対して調べる項目・対象に見落としや重複はないかチェックをしましょう。また、常に自分が正しいとは思わずに、他者に意見を求めることも大事です。

メタ認知のトレーニングを行う

メタ認知とは、「認知していることを認知すること」であり、自分の言動について客観的な立場から調整する能力のことです。メタ認知ができるとマイナスの認知バイアスから脱却しやすくなります。メタ認知を鍛えるために役立つのは、謙虚さを持つこと。また、人事評価をする管理職などの評価者の立場に立って考えてみるのも大事です。

ゼロベース思考で考える

知識や経験、先入観などにとらわれず、まっさらな状態から物事、企画を考える「ゼロベース思考」は、認知バイアスが働いている思考と対極ともいえます。何かを選択する際、これまでの知識や経験をいったん捨てて、メリットとデメリットを洗い出すことから始めましょう。ゼロに立ち返ることで新しく見えてくるものがあるはずです。

<関連記事>ゼロベース思考とは? 身につけるメリットやトレーニング方法・注意点を解説

相手の言うことを素直に聞きつつ疑う姿勢を持つ

「ハロー効果」で相手の言うことを何でも正しいと思ってしまう場合には、相手の意見の共感できる点、できない点を挙げられるだけ挙げてみましょう。また、ほかの人から得た情報を利用する場合には、自分で情報の真偽を確かめてからにすると良いでしょう。

認知バイアスが発生しやすい状況を知ることから始めよう

認知バイアスは「認知」していないからこそ、無意識に働いてしまうものです。もし今、仕事や人付き合いの中で違和感があるなら、それは認知バイアスを認知するチャンスかもしれません。

大切なのは、認知バイアスには種類があり、どの認知バイアスがどのような状況で発生しやすいかを知っておくことです。認知バイアスはハラスメントの原因にもなりやすいため、自分にもバイアスがあることを前提に行動・思考することが重要です。

監修:村井社会保険労務士事務所 村井真子
社会保険労務士/キャリアコンサルタント/経営学修士(MBA)。総合士業事務所で経験を積み、愛知県豊橋市にて2014年に独立開業。LGBTQ+アライ。行政協力業務を経験し、あいち産業振興機構外部専門家を務めた。地方中小企業における企業理念を人事育成に落とし込んだ人事評価制度の構築・組織設計が強み。著作に『職場問題グレーゾーンのトリセツ』、監訳に『バウンダリーレス・キャリア上巻』『組織と従業員の間で変化する心理的契約』『経営心理学』など。

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