「二度寝」が身体にいい!? 知られざる睡眠負債の解決策について学ぼう

眠気に負けてついつい繰り返しがちな「二度寝」。NG行為のようにイメージしがちですが、やり方によっては「二度寝」は睡眠不足の体にメリットを与えてくれるものなのだとか! そこで今回は、『朝の「二度寝」でストレスが消える!』(かんき出版)の著者で、多くの睡眠に悩む人々を救ってきた雨晴クリニック院長の坪田聡先生に、「良い二度寝」についてお話をうかがいました。

「二度寝」が身体にいい!? 知られざる睡眠負債の解決策について学ぼう

睡眠の悩み、放っておかないで!

睡眠の悩み、放っておかないで!

仕事の疲れが溜まっていると「もう少し寝たい」という願望に体が逆らえないもの。さらには、なかなか寝付けない、夜中に目が覚めてしまう、寝てもスッキリしない……など、睡眠の悩みを抱える人は年を追うごとに増えているそうです。

「日本人は、全体のおよそ3割が何らかの睡眠の悩みを抱えていると言われています。そして、60代以上だけを見れば半数を超えており、やはり睡眠に悩みがちなのは高齢者、というのは事実ですね。ただ、最近は20~30代も増えている印象です。20~30代は日中の眠気がひどい、寝つきが悪いとの症状を訴える人が多いんです。原因は睡眠時間が短いこと、寝る直前までスマホを見ていること、仕事のストレスによるものがほとんどですね」(坪田先生・以下同)

6~8時間は寝ないと、病気の発症率などに影響が!?

睡眠の悩みの原因は「眠っている時間の短さ」。では、どの程度の時間、眠るのがベストなのでしょうか。

「人それぞれ必要な睡眠時間は異なりますが、厚生労働省が推奨しているのは6~8時間です。また、多くの研究によって、さまざまな病気の発症率や死亡率が最も低いのは、7~7時間半程度の睡眠をとっている人、と立証されています。短過ぎても長過ぎても病気の発症率や死亡率は上がるのです。

『ショートスリーパーだから大丈夫』と言う人もいますが、本当のショートスリーパーは、遺伝的な特徴を持ったごくわずかな人だけ。つまり、ほとんどの人は該当しないということなので、平日と休日の睡眠時間の差が2時間以上ある人は、無理をしている状態だと自覚しましょう。短い睡眠を続けると、内臓に負担がかかりますし、日中のパフォーマンスが落ちてしまいます。適切な睡眠時間を取るようにしてほしいですね」

世の中が便利になり、睡眠の優先順位が下がっている

老若男女問わず、睡眠の悩みを抱える人が増えているのはなぜなのでしょうか?

「生活が『24時間化』してきたことが大きな要因でしょう。NHK放送文化研究所が発表している国民生活時間調査によると、2020年における国民の睡眠時間の平均は7時間12分。ここ50年ほどでおよそ1時間も減少しており、もはやこれ以上は睡眠時間を減らせない状態と言わざるを得ません。夜通し働いて世の中を支えている、交代制で働く人たちの睡眠障害の声も多く聞かれています」

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二度寝には、「良い二度寝」と「良くない二度寝」がある

二度寝には、「良い二度寝」と「良くない二度寝」がある

現代的な生活を送る中で、私たちは知らず知らずのうちに睡眠負債を溜めています。それを改善に導いてくれるのが、坪田先生が提唱する「良い二度寝」。二度寝にはあまり良いイメージはありませんが、どういうことなのでしょうか?

「皆さんが考えている『良くない二度寝』は、起きたり寝たりを繰り返すもの、そして長時間二度寝してしまうものです。これらは、いわば起きたときに後悔しやすい二度寝で、実際のところメンタル面にも良くないんですよ」

「20分間のまどろみ」が、「良い二度寝」

では、どんな二度寝が「良い二度寝」なのでしょうか?

「私が提唱しているのは、1回20分以内で、まどろむように眠る二度寝です。5回も6回もアラームをかけ、その都度起きてまた寝る……を繰り返して長時間の二度寝をするならば、20分だけ『良い二度寝』をした方が効率的ですし、体にとっても良いのです」

1回で起きるに越したことはない

では、「良い二度寝」をすれば、睡眠負債や抱えている睡眠の悩みを根本から解決できるのでしょうか?

「良い二度寝は、あくまで睡眠負債の改善を助けるもの。十分な睡眠時間をとって、1回で目を覚ますことがベストです。

20分程度の昼寝が睡眠負債の改善に良い、という研究結果が出て、昼寝の時間を導入する企業などもありますよね。この20分まどろむ二度寝は、これと同様の効果をもたらすものと考えて良いでしょう」

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「良い二度寝」は、ストレスに強い体づくりの助けに

「良い二度寝」は、ストレスに強い体づくりの助けに

20分の「良い二度寝」にどんなメリットがあるのか、坪田先生が具体的に解説してくださいました。

「最も大きいのは、目覚めに効果があるホルモン『コルチゾール』が、体内に十分にいきわたってから起きられる、ということです。コルチゾールは『目覚めたとき』に最も分泌量が多いのですが、20分間まどろんでいる間に分泌されたコルチゾールが、体を目覚めさせる準備をしてくれるのです。

また、コルチゾールはストレスに対抗する力があるので、ストレスに立ち向かいやすい体の状態をつくると考えられています」

集中力、やる気がアップし、パフォーマンス向上につながる

コルチゾールが体内にいきわたることで、スッキリと起きられるということでしょうか?

「起床時のスッキリ感もありますし、日中の集中力、そしてやる気が向上して、パフォーマンスが上がるでしょう。実際、良い二度寝を実践した人の多くから、生活の質が高まったとの声が聞かれます。朝にスッキリ起きられると午前中を活動的に過ごすことができ、昼食をおいしくとって昼寝もしやすくなります。そうすると午後も活動的に過ごせますし、1日の活動量が多くなりますから、自然と夜の睡眠の質も上がるのです」

「良い二度寝」のポイントは?

「良い二度寝」のポイントは?

「良い二度寝」を賢く使うと、仕事のパフォーマンスを大きく向上させてくれるようです。ここからは、坪田先生に二度寝をするためのポイントを、それぞれ教えてもらいました。

「起きている」と「寝ている」の中間がまどろみ

「良い二度寝」のポイントであるというまどろみ。うまくまどろむためには、どんなことに気をつければいいのでしょうか。

「一度起きたら、まずカーテンを開けるか、電気を点けるかして部屋を明るくしましょう。良い二度寝は、寝ることも大切ですが、起きることも大切です。深く眠ってしまわないように体を動かしつつ、部屋に光を入れることが重要なんですね。その後は、20分後にアラームをセットしましょう。

そして、20分後にアラームが鳴ったら、すぐに起きます。健康な人なら、アラームが聞こえたそばから布団をバンッ! とはねのけてしまうのもおすすめです。心臓が弱い人や、高血圧の人はこの方法は避けてくださいね」

目覚めた体をしっかり起こす、朝のルーティン

「起床後は、窓際で太陽の光を5分ほど浴びましょう。体内時計がリセットされ、体が1日の始まりのモードになります。窓を開けて空気を入れ替えたり、ストレッチをしたり、コーヒーを飲んだりして、しっかりと体を起こしましょう。良い二度寝をした後は『おかげでスッキリ起きられた!』と肯定的な感覚を持つことで、より体は活性化します」

睡眠負債をリカバリーする「ホリデーナップ」

先ほど昼寝を導入する企業もある、といったお話がありましたが、良い二度寝をする以外に、睡眠負債を改善する方法はあるのでしょうか?

「休日に1.5時間の昼寝をする『ホリデーナップ』も良いでしょう。ただし、それ以上長く寝ると体内時計が狂って、仕事のある日に通常通り起きるのが難しくなります。それがストレスになって、気分が落ち込む状態になる可能性もありますから、気を付けてください」

睡眠の質向上と二度寝を上手に組み合わせよう

睡眠の質向上と二度寝を上手に組み合わせよう

良い二度寝は、あくまで睡眠負債の改善の一助となるもの。睡眠の質を上げることができれば、さらに日中のパフォーマンスは向上します。日常的にどのようなことに気を付ければ、睡眠の質を上げられるのでしょうか。

「1つは、日中の活動量を上げること。理想としては、1日に8,000~1万歩は歩きたいですね。歩くのはリズム運動でもあるので、セロトニンという神経伝達物質が出ます。これは、日中は目を覚ます働きをしますが、夜にはメラトニンと呼ばれる睡眠ホルモンに変わるんです。とにかく活動量を上げさえすれば、眠りやすくなるということですね」

自分に合う栄養素を見つけて、積極的に摂取しよう!

最近、乳酸菌飲料が「睡眠の質を高める」と売られているのをよく見かけますよね。食べるものによって、睡眠の質は変化するのでしょうか?

「人によって合うもの、合わないものがあるので一概には言えませんが、試してみて自分に合うと思ったら続けるといいでしょう。乳酸菌はメラトニンの材料となるトリプトファンの生成を手助けするほか、乳製品には興奮した細胞を抑制する効果が期待できる、カルシウムが多く含まれています。

青汁の材料によく使われるケールや、アメリカンチェリーにもメラトニンが多く含まれています。チョコレートなどに多く含まれているGABAは、食事から摂取すると腸にあるGABA受容体に結合して脳へ信号を送り、神経の高ぶりや緊張を抑える働きをするといわれています」

「スリープセレモニー」で眠るモードに切り替える

寝る前の習慣や寝る環境については、注意すべきことはあるのでしょうか。

「スマホやパソコンなど、ブルーライトが出る機器には気を付けてほしいですね。ブルーライトは空の青と同じ色なので、脳が昼間だと勘違いしてメラトニンの生成を抑えてしまいます。真っ暗な中で明るい画面を見ると瞳孔が開きますが、その状態でブルーライトを見るとさらに影響が大きくなってしまいます。寝る30分前からはスマホやパソコンの画面を見るのはやめておくのが無難です。

ただ、30分前にやめても、することがないとどうしてもまた手に取りたくなってしまいますよね。それを防ぐために勧めたいのは、自分なりの『スリープセレモニー』をつくること。歯磨きをしたら、本を読んで、ストレッチをして寝るなど、寝る前のルーティンを決めるのです。ルーティンを体が覚えると、眠るモードに脳と体が切り替わっていき、眠りやすくなります」

まとめ

忙しいビジネスパーソンの中には、睡眠時間は無駄な時間、だと感じている人も少なくないかもしれません。しかし、睡眠時間を削れば確実に起きている時間のパフォーマンスは下がります。坪田先生いわく、アスリートや経営者など、何らかの成果を上げている人は皆、睡眠を大切にしているのだそうです。100%のパフォーマンスを出すためにも、しっかり寝ることの優先順位を上げていきましょう。

話を聞いた人:坪田聡さん

1963年、福井県福井市出身。日本睡眠学会所属医師、医学博士。富山県の雨晴クリニック院長。睡眠障害と他の疾患の関連に気づき、以来睡眠専門医として、数十年にわたり現場に立ち続けている。日本睡眠学会・日本医師会に所属。

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