仕事で求められる「言語化力」。モヤモヤを言葉にするコツとは?

自分なりに考えていることはいろいろあるはずなのに、いざ会議やミーティングで意見を求められると、考えをまとめられず自分の思いを伝えられない…と悩む若いビジネスパーソンは多いのではないでしょうか。そんな悩みを抱えている人のために、頭の中の考えをすぐに明確な言葉にするコツを、『瞬時に「言語化できる人」が、うまくいく。』の著者で、電通にて現役のコピーライターとして活躍している荒木俊哉さんにうかがいました。

仕事で求められる「言語化力」。モヤモヤを言葉にするコツとは?

多くの人が陥るコミュニケーションについての勘違い

多くの人が陥るコミュニケーションについての勘違い

職場で意見を求められたとき、すぐに言葉が出てこなくて黙り込んでしまった。焦って話し始めたら的外れな発言をしてしまった。実はそうした失敗の背景には、多くの人が陥りがちなコミュニケーションについての勘違いが潜んでいると荒木さんは指摘します。

「多くの人は、『コミュニケーション力』=『どう言うか(伝え方)』と考えてしまいがちです。

例えば、後輩から『この資料どう思いますか?』とメールをもらったとき、あなたはどう答えるでしょうか。この時、後輩としては資料をもっと良くしたいと思って先輩(あなた)に見せているはずですね。あなたがどう思ったのか、どう感じたのかを聞くことで、新しい視点や気づきを得られることを期待している。

にもかかわらず、『どう言うか』という伝え方にばかり意識が向いていると、『頑張ったね』『良いと思うよ』など、後輩のモチベーションを上げるような声かけを優先してしまったりする。もちろんそれも大事ですが、それだけでは仕事の質は高まらず、コミュニケーションにもズレが生じてしまいます。

相手の期待に応えられるように、自分の思いや意見をしっかりと『言語化』することが、職場でのコミュニケーションの円滑化に効果的です」(荒木さん・以下同)

大事なのは「何を言うか」という内容そのもの

大事なのは「何を言うか」という内容そのもの

職場でのコミュニケーションのカギとなるのが「言語化力」です。まずは、その定義を確認しておきましょう。

「『言語化力』とは、会議などで意見を求められたときに、自分の思いや意見を言葉にする力のことです。そこで大事なのは、『どう言うか』という伝え方ではなく、『何を言うか』という内容そのものです。

『この問題について、あなたはどう思う?』と聞かれたとき、そもそも『何を言うか』という伝えたい内容がなければ、それを言葉にすることはできませんよね。まずは、日ごろから自分の意見を持つことが大切で、言い回しを丁寧にしたり、言葉を飾ったりして伝え方を工夫するのは、自分の言いたいことを言語化した後の工程なのです。

料理で例えるなら、いくらレシピを学んだところで食材がなければ料理は作れません。どのように料理するかの前に、どれだけ良い食材を持っているかが重要なわけで、言語化もそれと同じです」

言語化力の大切さに気づいたある技術者の言葉

言語化力の大切さに気づいたある技術者の言葉

「どう伝えるか」の前に「何を伝えるか」こそが大切。荒木さんがそう考えるようになったのは、仕事でのある出来事がきっかけだったそうです。

「コピーライターという仕事は、商品の開発者など現場で働いている人を取材する機会が多いんですね。僕はコピーライターになりたての頃、『うまく書かないといけない』という意識がどうしても強くて、『どう言うか』ばかりを気にしていました。

なかなかうまくいかず苦心していたときに、ある自動車メーカーの仕事で技術者のリーダー(Aさん)を取材しました。なぜその車を作ったのかという話をお聞きしていたとき、周りにいた部下の方たちに『Aさんはどんなリーダーですか』と尋ねてみました。すると、Aさんのある口癖を教えてくれたんです。それが『かっこ悪くなったら(このプロジェクトを)やめるからね』というものでした。

そのときに、これをそのままキャッチコピーにしようと思いました。僕が自分の言葉で表現するよりも、車を作った人の思いがこの言葉に集約されていると感じたからです。この出来事があってからは、気持ちが少し楽になりました。『これを伝えたい』という強い思いがあれば、言葉を綺麗に整えたりせず、そのまま差し出しても相手にちゃんと届くのだと」

言語化力は、日常のさまざまな場面で鍛えられる

言語化力は、日常のさまざまな場面で鍛えられる

言語化力の重要性に多くの人が気づいていないのは、自分の意見を言葉にする力を意識的に磨けるような教育の機会が少ないことも原因だと、荒木さんは指摘します。自ら言語化力を鍛えることはできるのでしょうか?

言語化がうまくできない原因の1つは、頭の中にあるモヤモヤをそのまま放置していること。普段、僕たちがぼんやりと考えていることのほとんどは、言葉の形を取ることなく、曖昧なイメージや感覚のまま頭の中に放置されています。言語化の第一歩は、このようなモヤモヤに気づくことです。

例えば、映画を観に行ったときに、『ああ、面白かった』と思ったとします。でも、そのとき僕たちは、『面白かった』という感想以上の何かを絶対に感じているはずなんです。それが言語化されていない状態で頭の中にあるから、何に対して面白いと思ったのか自分でも気づいていない。こうした場面こそ、言語化力を鍛えるチャンスです。

映画館からの帰り道で、なぜ自分はその映画を面白いと思ったのか、なぜあのシーンで涙を流したのか、面倒くさがらずに振り返ってみましょう。それを習慣化するだけで、言語化力は高まります。

これは仕事に置き換えても同じです。上司から言われた一言にイラっとしたとか、マイナスでもプラスでも自分の感情が揺れ動いた瞬間に、なぜそのような感情になったのかを一歩踏み込んで考えてみる。このように、日常のさまざまな瞬間を利用して言語化力を鍛えることができるのです」

日ごろから言語化力を鍛えておくメリットとは?

日ごろから言語化力を鍛えておくメリットとは?

日常の出来事を利用する方法以外にも、荒木さんは著書の中でより意識的に言語化力を鍛えるトレーニングを提唱しています。それは、自分に対する問いをひとつ立てて、それに対して「頭に思い浮かぶこと」をA4用紙に書き出していくというもの。一枚につき2分で、一日3枚を書くことを毎日の習慣にすると良いそうです。

「日ごろから物事を一歩踏み込んで考えるクセをつけることで、会議で意見を求められたりした場面でも、瞬時に適切な言葉が出てくるようになります。

こうしたトレーニングの重要な点は、言葉にする『速さ』だけでなく『深さ』も最大限高められること。自分の好きなことや興味があることには、自分なりの意見や思いがあるからすぐに言葉が出てくるし、常にそのことを考えているから、人が思いもよらないような視点や思考で話をすることができますよね。

これが、速さと深さが両立している状態です。こうした状態を作れるようになると、本質をついた意見をポロっと言えたりするようになるわけです」

ここで何より大事なのはトレーニングの継続。実際、トレーニングを続けることで、言語化力の向上を感じたという声も届いているそうです。

「最初は『2分間では全然書けません』と言っていた人も、毎日続けることで言語化された言葉が頭の中に蓄積されていき、必ず2分で書けるようになります。

つい先日、僕の言語化トレーニングのセミナーを受講してくださった年配の方からメールをいただきました。『数十年間、会社に勤めていてまったく自分の意見が話せないと悩んでいたのが、トレーニングをしたことで意見を言えるようになりました』と。個人的にすごくうれしい言葉でしたね」

自分の「ミッション」「ビジョン」「バリュー」を言語化しよう

自分の「ミッション」「ビジョン」「バリュー」を言語化しよう

言語化力は、今後のキャリアを考えるうえでも役立つスキルです。40歳を過ぎ、仕事への向き合い方を考えることが増えたという荒木さんも、最近「自分はこの先どうなりたいのか」を言語化し、考える機会があったといいます。

「言語化したことで、僕の場合は『人の成長を助ける』ということが軸にあると気づきました。その仕事がちゃんと相手の成長に役立っているのか、お客様の何かしらの気づきや成長につながっているのか。そうした視点で、企画やコピーライティングの仕事をしていきたいのだと。

言語化力というのは「導いてくれる力」でもあると思っています。それは、コミュニケーションがうまくなるという相手との関係性だけでなく、自分の人生を後押しする力にもなる。会社にミッション・ビジョン・バリューがあるように、個人でも仕事に対する自分なりの基準を言語化してみることで、今後のキャリアの道しるべになるかもしれません」

まとめ

言語化力とは「どう言うか」ではなく「何を言うか」。言い回しの工夫ではなく、伝えたい内容そのものを言葉にする力のこと。それは自分の意見をすぐに言葉にできるという実務的な効果のみならず、自分自身の生き方や働き方を捉え直す力にもなります。

「うまく言えない」と悩む前に、まずは言葉にしてみましょう。恥ずかしがらずに言葉にしてみることで、思いがけない自分の気持ちと出会え、今後のキャリアなど人生を考えるきっかけとなるかもしれませんよ。

話を聞いた人:荒木俊哉さん

1980年、宮崎県生まれ。一橋大卒。2005年に株式会社電通へ入社。コピーライターとして商品、企業、自治体のブランディングに取り組み、これまで手掛けたプロジェクトの数は100以上、活動は5大陸20か国以上にのぼる。世界三大広告賞のうちCannes LionsとThe One Showのダブル入賞をはじめ、ACC賞、TCC新人賞、毎日新聞広告賞、日経広告賞、広告電通賞など、国内外で20以上のアワードを獲得。また、毎年一橋大学でコピーライティングやアイデア発想のゼミも開講している。

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