一番にプライベートを充実させる。日本とは違う「フランスの働き方」

近年、仕事の効率化やワーク・ライフ・バランスの見直しといった話題の中で、日本の比較対象としてよく取り上げられている国、フランス。

一番にプライベートを充実させる。日本とは違う「フランスの働き方」

近年、仕事の効率化やワーク・ライフ・バランスの見直しといった話題の中で、日本の比較対象としてよく取り上げられている国、フランス。

単純に労働時間を比較しても、法定労働時間は日本より5時間も短い、週35時間と定められていますし、仕事が終わればプライベートの時間を尊重するなど、フランス人は余暇をきちんと楽しむ人が多いようです。

これだけ聞くと「フランスは何て素晴らしい国なのだろうか」と思うかもしれませんが、実際そこには、数字だけでは測れない長短さまざまな日本との違いが横たわっています。フランスでの働き方とは実際にどのような感じなのでしょうか?

フランス人の性格は大阪人に似ている?


パリに住む日本人はパリジャンのことを、よく「大阪人みたい」といいます。おしゃべり好きで、おせっかい焼き。そして、せっかちで運転が荒い……。

規則はあるものの、「他人に迷惑をかけなければ」という自分の判断でルールを破ることも多いよう(ただし大抵は、結果的に他人が迷惑を被ることも……)。また自己主張したもの勝ちであるため、黙っていると損をする社会です。

実際に日本人の中でも関西出身者のほうが、フランスの水になじめる人が多いようです。

もちろん、これらは典型的なイメージで、誰にでもそっくり当てはまるわけではありません。ただパリをイメージする際に、東京の人は大阪の人を、大阪の人は地元を思い浮かべてみると、何となくパリにおける生活の輪郭が見えてきます。

フランスの見どころといえば、美しく気高き凱旋門

 

日本とはここが違う! 仏ビジネスパーソンの仕組み


フランスの被雇用者は、「カードルか、カードルでないか」でその身分が大きく2つに分かれます。カードルとは、簡単にいうと管理職のことを指します。

これは「課長」「部長」といったような、会社によって定められた役職ではなく、法律上の一身分です。カードルであるかどうかにより、就業体系や社会保障などのシステムが異なります。

まず非カードルの場合、労働時間は週35時間ときっちり決められています。週5日出勤とすると、1日7時間働けば、あとは残業に悩まされることなく自分の時間を過ごすことができます。

一方で給料は職種別最低賃金に均しい金額となり、職種別最低賃金は各職業により上下します。ただし、少なくとも全体の最低賃金は2017年で年額1万7763.23ユーロ(約220万円)ですので、それ以上の額になります。加えて所得が低い場合、住宅・子育て手当てなど国からの手厚い社会保障があります。結果、大きなぜいたくはできないけれど、それなりの文化的生活と余暇を過ごせるのです。

カードルになると、労働時間も週35時間に収まらないことも。当然、給料は非カードルと比べて高く、社会保障面ではカードルのみ加入できる共済組合なども存在します。

生活における仕事の比重は大きくなりますが、その分、もらえる額は多くなり、社会的な権利の選択肢も多くなるのがカードルです(ただし、社会保障を充実させているフランスでは、稼げば稼ぐほど日本以上に税金を差し引かれます)。

パリの隣ラ・デファンスにあるビジネス街

 

学歴社会・フランスの転職事情


フランスでは一度、企業が無期契約として人を雇うと、基本的にその人を容易に解雇することができません。法律上は可能とされていますが、実際に行うことはかなり難しいことと見なされています。

それなら「無期」にしなければいいのではと思うかもしれませんが、仮に有期契約で雇っても、有期契約の期間は最長1年半と決められているため、その期間を超えて誰かを雇用したい場合は、新たに求人募集をかけて有期契約をするか、もしくは現在、有期契約している人を無期契約に変えなければいけません。

このように一度、無期契約を手に入れられれば日本以上に職は安定しますが、同じ会社に長くいても給料が劇的に上がることはありません。

そのため収入を増やしたいと思う人は、今の会社よりもっと自分のことを高く買ってくれる場所へ転職をするのが一般的です。

フランスは学歴社会。どのレベルの学位を持っているかで、就職面はずいぶん変わってきます。転職する際にもそれは大きく関係するため、新たに何か資格を取ったり、大学院へ進学して1つ上の学位を取得する人もいます。日本のように学位と就職先の職種が全く異なることはまれで、持っている学位に沿った就職をします。

今までの職歴とともに新たな学歴を加えて、新しい会社と今より良い条件で契約する、フランスの転職。そして転職を繰り返し、契約ごとに給料を増やしていきます。

パリ市内をデモ行進する労働組合

 

バカンス好きのフランス人が大事にしていること


フランス人は仕事とプライベートをきっちり分けます。

フランスの会社でも日本のように社内の親睦会はありますが、職場主催の場合、多くは木曜日の仕事終わりに開かれます。というのも、金曜夜から週末はプライベートの時間と考えられているため、職場のパーティーを木曜に設けるのが常識とされているからです。

付き合いで遅くまで飲むようなことはなく、グラス1、2杯ほどで、会社としての場はお開きになります。

フランス人のもっとも大きな関心事がバカンス。大体の人は1年に30日間の有給休暇があり、休む期間は職場内で相談しつつ決めますが、日本のように忙しくて消化できないということはまずありません。フランス人は自らが持つ権利はきっちりと行使します。子どもがいる人の場合は、有給休暇を子どもの学校が休みの期間に合わせて、休暇を子どもと一緒に過ごします。

多くのフランス人にとって、仕事とは余暇を充実させるためにあるものです。そして休暇や待遇など、自分が今持っている権利を侵すものについては、大きく反発します。そのためフランスでは、デモやストライキなどがよく行われます。

フランスにおいて労働者の権利は法的にとても強固に守られていますが、その一方で残念ながらその厚遇に甘んじて、やる気が低くなっている人が多いのも事実。

その影響は社会の各所に現れ、フランスでは日本のようにすべての物事がちゃんと動くことはまれなのです。

ラ・デファンスには仏大手企業のオフィスが集まる

 

フランスの良さを取り入れるには


各国・地域にはそれぞれの環境と、そこで培われてきた文化があります。数字だけを比較して、それをそのまま違う社会に当てはめても、うまくはいきません。ある面では短所に見えることが、じつは別の面でその社会の長所として働いているときもありますし、その逆もまた然り。

例えば、フランスの会社はきっちり休みを取れますが、その代わり多くの人の休暇が重なる8月は、社会全体がほぼ動かなくなり不便を感じることも。

日本のように、どこを切り取っても常に高いレベルで要求を満たしてくれる社会は便利ですが、自分たちもその社会の一員として、同じようにその要求にどこかの場面で応えることが求められます。


社会を取り巻く環境を含めて他国の働き方を理解し、見習うべき制度を自分たちの社会に取り入れ、どのように適応していくか。それを繰り返すことで社会は前進し、より良い職場環境につながっていくのではないでしょうか。

一方向からの考え方を押し付けるのではなく、日本とフランス、両方の観点から見つめることで、よりスマートな働き方をつくっていけるかもしれませんね。

識者プロフィール


加藤亨延(かとう・ゆきのぶ)
ジャーナリスト。日本の雑誌に海外事情を寄稿。テレビでは報道に携わる。取材等での渡航国数は約60カ国。取材テーマは比較文化、および社会・政治。ロンドンでの生活を経て現在パリ在住。


※この記事は2017/02/07にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています

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