「世界で1番、料理がわかりやすい」をテーマに、約10,000件のレシピを掲載する動画サイト「クラシル」。
同アプリは、2017年5月にApp Store総合ランキングとGoogle play(TM)ランキングで同時に1位を獲得しています。
2016年1月にサービスを開始し、2017年8月にはレシピ動画数が世界一になるなど、瞬く間に日本最大のレシピ動画サイトに成長しました。
クラシルを運営するdely株式会社の代表取締役・堀江裕介氏は、2017年4月にForbesが発表した「アジアを代表する30歳以下の30人」メディア・マーケティング・広告部門に唯一の日本人として選出されるなど、まさに破竹の勢いで事業を拡大しています。
今回は、代表・堀江氏とともにクラシルのサービスを形づくってきた、dely株式会社の取締役/営業部統括の柴田快さん(25歳)のキャリアストーリーにスポットを当てます。大手外資系企業をわずか9カ月で退職。エリートコースを潔く捨て、たった2人だけのベンチャー企業に転職した柴田さんは、今どんな未来を描いているのでしょうか?
外資系の大手企業で「サラリーマンの将来像」に感じた焦り
―大学生時代、2度起業した経験を持つ柴田さんが、外資系メーカーに就職されたのはなぜですか?
僕はもともと東大志望で浪人したのですが、それでもうまくいかず早稲田大学に入りました。現役で東大に合格した友人に負けたくないという気持ちから学生時代に2度起業したものの、結局どっちも失敗してしまって……。
その経験からお金を稼ぐ難しさを痛感し、まずはどこかで経営を学ばなければ戦えないと思いました。そこで、あえてこれまで経験したITやベンチャーと真逆のグローバルに展開する大企業、しかもメーカーであるP&G Japanに就職したんです。
―ですが、P&G Japanは9カ月で退職されたのですよね。
P&Gでの仕事自体は刺激にあふれていて、すごくやりがいを感じていました。同社では、入社1年目から新人とは思えないほどの裁量を与えてもらえるんですよ。僕は経営戦略部門に配属されていて、その仕事の任され方は自分のミスで1億円も収支が変わってしまう、というほどのものでした。
でも仕事に慣れ始めると徐々にサラリーマンの限界値が見えてきてしまって。10年後の給料、ポジション、休日などが予想できるようになり、そんな将来像にがくぜんとしてしまったんです。ものすごくがんばっても、少し手を抜いても、結局5年後の僕は「外資系大企業」の会社員のまま。僕はよく、「鎧を着る」と表現するのですが、大企業に入った瞬間に「鎧」を着込んだ状態になるのではと感じたんです。
社会的に認められている大企業だから、そのネームバリューに後押しされて、実力以上に仕事がスムーズに進むし、失敗しても企業がフォローしてくれる。もちろんそれは素晴らしいことでもあるのですが、仮にその鎧が外れたら、自分は生身では戦えないんじゃないかという恐怖を感じていました。そう思ったら、そこでがんばる理由が見つからなくなってしまったんです。
この時点で生身の自分を鍛えていなかったら、数年後の自分はきっと新たな道に挑戦する勇気を持てないだろうと感じました。未来の自分が勇気を持てる選択をしたかったんです。20代前半の今なら失敗しても巻き返せる。それなら「一刻も早く動かないと」と、焦燥感だけが強くありました。ちょうどそんなことを思っていた時期に、dely代表の堀江から「一緒にビジネスをやろう」と誘われて、9カ月で退職という道を選んだんです。
―堀江さんとは、以前からお知り合いだったのですか?
堀江とは、起業した際にベンチャー企業関係のイベントで一度会っただけでした。再会するキッカケになったのは、P&G在籍中に大学時代の起業仲間と一緒に行ったフランス旅行です。P&Gを辞めるかどうか悩んでいて、将来のことをゆっくり考えるための旅でした。
仲間の一人がFacebookにこのフランス旅行のことを投稿したら、それをたまたま堀江が見て、僕に連絡をくれたんです。「柴田さん、最近どうですか?」って。学びたいと思っていた経営のことを聞きたくて帰国後に会ってみたら、そこで堀江に誘われて。P&Gの退社を決めてdelyへ入社したんです。
社員はたった2人だけ。渋谷のボロアパートでつかんだ手応え
―堀江さんは、なぜ柴田さんに「一緒にやろう」と声をかけたのでしょうか?
当時、delyはフードデリバリー事業に失敗して、経営陣以外、十数人の社員が全員辞めてしまった状態でした。なので堀江は「チームづくり」に課題を抱えていて、チームを強化するために僕に声をかけたと言っていましたね。僕が昔の起業仲間と一緒に海外旅行に行っていることを不思議に思ったみたいです。「なんで失敗した仲間同士なのに、一緒に旅行に行けるんだろう?」って(笑)。実際、負の思い出がある仲間とは普通、顔も合わせたくなかったりしますよね。
―では柴田さんは、delyのどこに魅力を感じたのですか?
当時のdelyはこれから何をするかもハッキリ決まっていなくて、そういうゼロからのスタートのほうが手応えをつかめるだろうなって。堀江に当時の事務所に連れて行かれて、「ここが僕の求めていた場所だ!」と思いました。渋谷のボロいアパートで、社員はCTOと社長の2人だけ。自分の力を試すには、汚くて何もないその環境が最適だったんです。
―ハングリー精神に圧倒されます。実際、delyに入社してみて、これまでと何が変わりましたか?
もう、180度違いました。一番驚いたのが、メンバーの仕事に対する気迫。なんていうか、本気度が半端じゃなかった。これまでは社内で評価されるよう、効率的に仕事をすれば認められていましたが、ここでは自分に評価を下すのは社会そのもの。「結果を出すためにすべてを懸けて挑もう」という強い気迫をメンバーから感じました。
その必死さって、何かを捨てないと生まれないものだと思うんです。僕が入ったタイミングで他にも入社したメンバーがいたのですが、彼らは自分で立ち上げた事業を捨てて、ここに集ってきた人ばかり。僕もエリートコースのキャリアを捨ててきたわけだし、すべての力を注ぎ込もうと、仕事に立ち向かう姿勢が一変しました。
―とはいえ転職初期のころは、戸惑うことが多かったとか。柴田さんが書かれたWEB上の記事には、「逃げたいと思ったことがあった」とありましたよね。
それまでは大企業の出世コースにいたので、やっぱりプライドがあったし、うまくいかないことを環境や上司のせいにすることもありました。そのスタンスを変えるのがけっこう大変で……。プライドを捨てる、人のせいにしない、自分の非力さを認め、結果を出すことだけに集中する。そんなスタンスに変わるまでに、3カ月ぐらいの期間を要しました。
―どのようにスタンスを変えていったのですか?
もともとdelyに転職した2016年は「結果を出すことだけにコミットする」と決めていました。その芯があったから、「結果を出すためには、どうするべきなんだ?」と自分に問い続けました。そこで自分のプライドを守るのではなく、会社を成長させることでしか自分が目指す姿にはなれないという結論に至ったんです。
会社がくれるのはお金と経験。それなら僕は「経験」を選ぶ
―柴田さんが入社したのちに動画サービスがスタートしたそうですが、苦労したエピソードなどあれば教えてください。
最初はレシピ動画じゃなくて、ネイルのハウツーや生活の知恵など、とにかくいろいろなジャンルでトライアンドエラーを重ねていました。「クラシル」という名前は「暮らしを知る」からきていて、生活全般に関することを扱っていたんですよ。
父親にカメラを借りて、編集ソフトを買って、参考書で編集を勉強して。教えてくれる人なんていないので、全部手探り。まったく知らないネイルサロンにアポを取って、狭い部屋で初対面のネイリストさんと向かい合いながら8時間ぶっ通しで撮影したり。これはキツかったですね。「俺、何やってんだろう!?」と思うこともありました(笑)。
―今でこそ笑い話ですが、当時は相当な苦労だったと思います。どうやって乗り越えてきたのでしょうか?
何でも経験することが自分を成長させると思っていたし、好奇心旺盛だったので、その状況を楽しめたのかなって。会社がくれるものって“お金”と“経験”じゃないですか。どちらかだったら僕は経験を取るタイプ。本気で立ち向かわないと経験は積めないので、とことん本気でやろうと決めて取り組みました。
―そんな中で、レシピ動画という方向性をつかんだのですね。
試行錯誤する中でさまざまなジャンルの動画をSNSで投稿したところ、レシピ系は安定して数字の伸びが良かったんです。ファッションなどと違い料理はトレンドに左右されにくく、広告需要も見込めたため、途中からレシピ動画に振り切ります。スピード感を持ってレシピ動画の拡大を図る中で、2016年5月には月間1億再生を突破しました。
―「クラシル」は、どんなビジョンで運営されているのですか?
「70億人に1日3回の幸せを届ける」をビジョンに掲げ、「料理」という多くの人にとって一番身近なエンターテインメントを通して、お金では買えない「豊かさ」を人々に届けたいとの思いで運営しています。現在、日々50のレシピを追加して、サービスを拡大しているところです。
―柴田さんご自身が現在、働くうえで大切にしていることを教えてください。
delyでは、「LIGHT」「AMBITIOUS」「BIG」という3つのコーポレートミッションを掲げており、僕もこの価値観を大切にしています。仕事を通して世の中を明るくすること。情熱を持って、挑戦を続けること。そして、自らが中心となって世間に大きく素晴らしい影響を与えることです。そんな気持ちを持って、日々仕事やメンバーと向き合っていますね。
―柴田さんがdelyで成し遂げたいことは何ですか?
まずは日本で「クラシル」を成長させ、いずれは海外進出も視野に入れています。ハングリー精神を失わず、あらゆる経験を積んで、世の中で何が正しいのかを見極められるようになりたい。新しい景色を見ることができるうちはdelyに所属していたいと思っています。いつかは自分で会社をつくりたいとの思いもありますが、まだその答えは出ていませんね。
中途半端じゃ人生はおもしろくない。勇気ある決断を!
大企業を離れ逃げ場のない環境に身を置いたことで、心から打ち込める自分の居場所を見つけた柴田さん。代表の堀江さんから「パッション採用」と言われるほど熱い魂の持ち主である柴田さんは、20代のキャリアコンパス読者に向けてこんなメッセージを送ってくれました。
「プライベートも大事にしてバランスよく働きたいという人は多いと思いますが、中途半端なままでは結局おもしろくならないと思うんです。どこかで虚無感が生まれてしまうというか。それなら職場を自分が楽しめる場所にして、思いっきりやってみたほうが自分の人生に納得できるんじゃないかなって。ものすごく大変ですが、その苦労が気にならないくらい楽しいですよ!」
delyに入社してからというもの、泥臭いことを必死に重ねてきた柴田さん。堀江さんや柴田さんをはじめ、経営陣の執念があったからこそ今の「クラシル」が出来上がり、delyは生まれ変わることができたのでしょう。柴田さんの口から何度も出てきた「勇気」というキーワードも印象的でした。
働く中で心にモヤモヤとした思いを抱えているならば、今の環境や仕事に対する自分のスタンスを一度見つめ直してみるといいかもしれません。そして少しでも新しい何かにチャレンジしてみたいという気持ちが生まれたら、1日でも早く動く。あとは目標に向かってガムシャラに突っ走るだけ。そんな勇気ある選択をすることができたら、柴田さんのように充実感にあふれた毎日が送れるのではないでしょうか。
(取材・文:小林香織)
識者プロフィール
柴田 快(しばた・かい)/dely株式会社 取締役・営業統括
1991年生まれ、25歳。2015年早稲田大学商学部卒業。在学中に2つのサービス立ち上げを経験。卒業後は、プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパンにて経営管理を担当。2016年1月よりdelyにジョインし、映像の撮影・編集作業から人事・広報・営業に至るまで多彩な業務に携わる。2016年10月より執行役員、2017年6月に取締役に就任し、現在はレシピ動画サービス「クラシル」のビジネスサイドにおける統括を担当。
※この記事は2017/09/14にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています
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