「おはようございます。今日の気分はいかがですか? 今、何かに悩んでいませんか? そう、あなたのことです。今朝はこの曲をお届けしましょう」
優しい声で誰でもない誰かに語りかけていたのは、東京のラジオ局J-WAVEのナビゲーター、ジョン・カビラさん。
J-WAVEは1988年に開局されて以来、洗練された音楽と速報性のある情報を24時間、毎日発信し続けています。ナビゲーターには、アンジャッシュの渡部建さん、渡辺直美さん、水曜日のカンパネラほか、旬の面々がそろいます。
最近ではインターネットやスマートフォンからでも気軽に楽しめるようになったことから、20代の間でラジオ熱が再燃しています。仕事にも生きる知識や情報収集、気晴らしに聞く音楽、そしてナビゲーターとの掛け合いをおのおのに楽しんでいるそう。
今回は、開局30周年を目前に控えたJ-WAVEのオフィスを訪問し、編成局 編成部の玉野淳さんと、番組プロデューサーの小松さんのお二人からお話を伺いました。
仕切りのない風通しの良いオフィスと33階からの絶景
深海を想起させる受付。光の波がオフィスへ誘導する。
窓から目一杯のまぶい光が差し込むロビー。窓の向こうは東京タワー。
現在、J-WAVEがオフィスを構えているのは、六本木ヒルズの33階。エントランスではWAVE(波)をイメージした波流線状の光が、来客者を社内へ招待するかのように誘導し、ロビーに入ると、目の前に東京タワーと六本木の街を一望できる絶景が広がります。
会議室からは東京タワーと六本木の街が見下ろせる。
J-WAVEのオフィスは半面がすべてガラス張り。驚くのは、役員室がオフィスの奥にある窓一つない小さな部屋だということ。一番見晴らしの良い窓側は全て会議室になっており、来社したゲストを大切にする、という姿勢を感じます。
J-WAVEの社員数は約50人ですが、関連会社、制作会社やフリーランス、アルバイトのスタッフらを含めた常時200人以上がJ-WAVEの番組制作に関わっています。
オフィスの中はオフィス・スペースとスタジオ・スペースの2つに大きく分かれていますが、壁や仕切りはありません。
「オフィスと制作現場のスタジオ側を仕切らないことで、いつでもお互いの顔を見ながらコミュニケーションができるようになっています。そのため、社員同士の風通しは良いですね。ナビゲーターがスタジオからオフィスに遊びに来ることもしばしばありますよ」(玉野さん、以下同)
また、J-WAVEのオフィスでは、いわゆる“部長席”のような特別席がありません。
フラットで風通しのいいオフィスは和気あいあいとした空気。
「役職によってデスクやチェアを区別せず、局長、部長、一般社員も全て同じデスクです。役職に就いている人も一般社員の席で肩を並べて仕事をすることで、序列をつけずに『仲間』という意識を持ちながら、チームとして機能させることを大切にしています」
チェアは全てアーロン・チェアを使用。高級チェアの導入は社員への思いやりが感じられます。3つずつのデスクが向き合うように配置されていることには、こんな理由もあるそう。
「丸いフロアなので死角ができやすいのですが、その曲線を生かしてデスクが向き合うように配置されており、目線が合わない工夫がされています。これは、目線が合ってしまうと心理的に対抗心が生まれるためです」
ラジオ番組制作の裏話
実はJ-WAVEのオフィスで働くほとんどの社員が中途入社なんだそう。金融業界や人材派遣業界、スキーメーカーなど、業界も出身もみんなバラバラ。もともと広告代理店でJ-WAVEの担当をしていた方が転職してJ-WAVEで社員として働くことになり、今は局長になっている……というケースも。
働くスタッフ全員に共通しているのは「J-WAVEが好き」ということ。ある深夜番組を担当していたナビゲーターは、J-WAVE愛が高じてお昼過ぎからスタジオに来ていたこともあったそうです。それほど社内外から愛されているJ-WAVE。
そこで中途入社された方の中から、元映像制作会社、現在は番組プロデューサーとして活躍している小松祐太さんに、J-WAVEのこだわりやラジオの良さについてお話を伺いました。ラジオ番組を制作するにあたって、日頃から気をつけていることは何なのでしょうか。
番組プロデューサーとして活躍中の小松祐太さん。
「例えば企画づくりのために日常から新しいものや情報にアンテナを立てて、実際に足を運んでいます。また、普段は自分が読まない女性誌や車の雑誌を読んだりするなど、いろいろなものに興味を持つようにしています」(小松さん:以下同)
ここがナビゲーターとリスナーのつながる場所。
J-WAVEにゲスト出演されたアーティストのCD。レコード会社から贈られたサイン入りのものも多数並ぶ。
J-WAVEは洗練されたセンスの良い選曲にも定評がありますが、番組づくりだけではなく、流す音楽に関しても深いこだわりがありました。
「レコード会社の方が直接持って来てくださるアーティストの新譜を発表前から大量に聴くことができるのは、この仕事の特権といえるかもしれませんね。大きなCDショップはもちろん、町の小さなレコード屋さんへ足を運んだり、メジャーではないアーティストの情報や、海外の音楽事情も常に追っています。
ただ新譜をかけるだけならiTunesのプレイリストを流すことと大差がなくなってしまう。だから、そこにアナログな人間の力が大切なんです。天気、季節、気温、世の中の出来事に合うような曲を、毎日その場で機転を利かせて選曲し、流しています。
音楽をかける際に利用するCDが入った棚には10万枚以上のCDが。中にはレアな廃盤のCDも!
事前にオンエアする曲は決まっているのですが、生放送中に雨が降ってきたら雨に合うような曲に急遽変更する、そんなライブ感を大切にしています。そして、新譜・旧譜・洋楽・邦楽、男性・女性の曲もまんべんなく織り込むように心がけています。クラブでDJがライブをしている感覚に近いかもしれません」
リスナーとの距離が近いこと。それもラジオの大きな魅力です。
「ラジオはリスナーの一人ひとりに向けて届けるものなので距離があってはいけません。ですので、リスナーに寄り添うような番組づくりを心がけています。
また、リスナーとのやりとりができるライブ感もラジオならでは。昔はファックスやハガキを送っていましたが、今はメールやツイッターなどが主流なため、問いかけに対して意見が瞬時に返ってきます。それにラジオは何かをしながら聴くメディアなので、インターネットやSNSとも相性が良いんですよ」
リアルタイムで放送中!の風景。
好きだからこそ、業務にしたくない
24時間体制のラジオ番組。小松さんに制作で一番大変なことも聞いてみました。
「突き詰めれば終わりがないことです。
より良い番組をつくろうとしたら30分の番組制作に時間はいくらでもかけられます。編集次第で面白くもつまらなくもなってしまうので。好きだからこそ業務ではなく、クリエイティブでありたいという気持ちが強いんです。そのため、日々、時間の制約がある中で自分の理想と納得のラインを行き来して頭を悩ませていますね」
そんなラジオ愛に溢れた制作者が考える「ラジオの魅力」とは何なのでしょうか。
「偶然の出会いがあるところかな、と思います。
ラジオは『この番組を聴こう』と決めてから聴く方はほんの一部で、ほとんどの方が運転中や部屋でリラックスしているときなど、何かをしながら聴いていることが多いと思うんです。そんなときに、偶然ラジオから流れていた曲に何かを感じたり、ハッと気づいたり、そういう思いがけない出会いがあったりするんです。
そしてリスナーとナビゲーターとの距離が近いこともラジオの魅力ですね。
イヤホンをすれば自分とナビゲーター、二人の世界。ナビゲーターは基本的に語りかけるように“みんな”ではなく“あなた”と呼びかけますので」
ラジオは「伝えられるメディア」
時代はスマートフォンが主流になり、アプリで気軽に聞けるようになったことから再び注目を集めるようになったラジオ。そんなラジオの未来について、最後に玉野さんからこんな言葉をいただきました。
「ラジオって防災や速報性の高いニュースなど、何かあったときに情報を得るためのツールの一つだと思われがちですが、アーティストなどが何か重要なことを伝える時って、自分の声と言葉で伝えたいので、昔からラジオで発表することも多いんです。
だからラジオは “伝えられるメディア”なのかもしれません。そんな伝えられるメディアとしては、これからまだまだできることがたくさんあると思っています」
ラジオはテレビやネットと違い、シンプルだけに、だからこそ、音や声の中に力強いメッセージ性を持っているようです。新しい発見や出会いがあるラジオ、あなたも今日から聴いてみませんか?
取材協力
J-WAVE https://www.j-wave.co.jp/
(取材・文:ケンジパーマ/写真:菊池貴裕)
※この記事は2017/07/14にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています
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