ただ物語を書くだけじゃない。企画する「シナリオライター」の仕事

ドラマや映画、アニメなど、さまざまな場面で必要とされるシナリオライター。具体的にはどのような仕事なのでしょうか。

ただ物語を書くだけじゃない。企画する「シナリオライター」の仕事

ドラマや映画、アニメなど、さまざまな場面で必要とされるシナリオライター。具体的にはどのような仕事なのでしょうか。

今回はドラマ『結婚できない男』や『梅ちゃん先生』などで知られるシナリオライター・尾崎将也さんに、仕事についてお伺いします。

物語の企画書を書き、脚本を作る


――尾崎さんの仕事について教えてください。

尾崎将也さん(以下、尾崎):当たり前ですが、脚本を書いています。脚本はテレビドラマや映画には欠かせないもの。脚本の中にはセリフだけでなく、登場人物の動きや表情なども細かく書かれており、それらすべてを作るのがシナリオライターの仕事となります。

ドラマには2種類あります。一つ目は原作のあるドラマ。この場合、既に原作者と原作のファンの方々がいますよね。この方たちが不満に思うものを作ってはいけません。原作を読み込んで物語の本質や世界観を生かすようにしています。

ときどき、「原作があるなら何でシナリオライターが必要なのか」と聞かれます。一般の人は、原作があるならそれをそのまま使えばいいのでは、と思ってしまうんですね。

しかし、原作をドラマにするにあたって、限られた時間の中で配分やストーリーの再構成をしなければなりません。多くのドラマは全10話。1時間のドラマだとしたら、その尺の中に物語を落とし込むように、原作をもとに脚本を書いていきます。

二つ目は、原作のないドラマです。私にオファーがくる段階で、だいたい主役の俳優がすでに決まっています。そのため、「この俳優を主役にするならどんなストーリーがよいだろうか」と考えるところから始まります。自分とその俳優の持ち味が一番生かせる作品はどんなものかということを、俳優の色や過去の出演作品を見ながら判断するんですよ。

――最初から脚本を書くのですか?

尾崎:そうではありません。仕事のオファーをいただいたら、まず企画書をおこします。企画書は、プロデューサーと相談しながら作成していきます。そして、企画書ができたら局の責任者や俳優さんに見せ、了承をもらいます。

そういった段階を経てはじめて、脚本を作り始めることができるんです。

制限のある中でドラマを作ることが楽しい


――尾崎さんがシナリオライターになった経緯を教えてください。

尾崎:僕がシナリオライターになった理由は、中学のときから映画オタクで、将来は映画監督かシナリオライターになりたいと考えていたからです。

大学を卒業して広告制作会社に就職するもシナリオライターの夢を諦められず、仕事をしながら脚本のコンクールに応募していました。

そして、1992年にフジテレビヤングシナリオ大賞を受賞したことをきっかけに、シナリオライターとしての活動が始まったんです。

――シナリオライターとしてのやりがいはどこにありますか?

尾崎:僕にとって、脚本を書く作業自体がやりがいです。もうひとつやりがいを挙げるとすると、さまざまな制限の中でドラマを作ることでしょうか。

ドラマを制作するにあたり、多くの人が関わります。そのため、さまざまな都合が絡んできます。たとえば、俳優さん。彼らにはそれぞれスケジュールがあります。ふたりの俳優さんが登場して撮影するシーンがあるのに、お互いの都合がつく時間は限られてきます。

だから、脚本を書く段階で、撮影時にお互いのスケジュール内で調整できるようストーリーを書くんですよ。


自分が書きたいままに勝手にできるわけではありませんが、その制約の中で物語を作ることが脚本を書く上での楽しさでもあります。

――シナリオライターに求められるスキルについて教えてください。

尾崎:面白い脚本を書くスキルが必要なのは当然として、自分で仕事を管理することも重要です。シナリオライターは、限られた時間の中で脚本を書かなくてはなりません。

仕事を受けた以上、私にはスケジュール内で一定のクオリティーのものを書く責任があります。その責任をきちんとまっとうできるかどうかが大事だと思います。

――尾崎さん自身は、どのように仕事を管理されていますか?

尾崎:僕は、〆切間際にならないとやらないタイプなんです(笑)。10の作業を4日でやるとしたら、1日目は「1」、2日目も「1」、3日目に「3」となり、最終日は「5」をやって仕上げます。

〆切間際で必死になって書いています(笑)。そんなときは、始めから均等に仕事しなかったことを後悔してしまうんですよね。

生活の中で「面白い」と思ったものに着目し、理由を考えることが脚本作りにつながる


――シナリオライターに求められる素質は何でしょうか?

尾崎:シナリオライターには、物語のベースになる「経験」が必要です。これまでの人生でどんな映画を見て、本を読んで、何を体験して生きてきたか、ということですね。

ドラマを作る際は、無から有を生み出しているのではありません。ほぼすべて、記憶を組み合わせて作られます。そのため、ストーリーのパターンやセオリー、ネタになる経験がどれだけ自分の中に蓄積されているかが大事なんです。

もうひとつ大事なことは、考えることです。僕は日常の中で「面白い」と思ったとき、「なぜそれが面白いのか」を考えるようにしています。

この間、数人で焼き肉を食べに行ったときにも考えましたよ。注文をするとき、あるひとりの女性だけがライスを頼んだんですよ。なぜか、それに対して異常に面白さを感じたんです。なんで女性ひとりだけがライスを頼むと「面白い」と感じるのか、そのとき僕は考えました。

多分、女性がサンチュを頼んでも別に面白くない。男性がライスを頼んでも別に面白くないんですよ。

おそらく、女性は男性に比べて「小食」というイメージがあるでしょう。さらに、男性すらライスを頼まない状況で一般的には「小食」である女性が「ライス」という「大食漢」の象徴を頼む(食べる)ことが面白みを与えるのかもしれない、と考えられます。

そういった答えやシチュエーションをいくつも自分の中にストックしておくことで、脚本に生かすことができるんです。

――シナリオライターのお仕事は今後どうなっていくのでしょうか。

尾崎:「若者のテレビ離れ」という言葉をよく耳にしますが、シナリオライターにはあまり関係ないように思います。なぜなら、テレビにはある程度決まった枠があるからです。ドラマの視聴率が下がっているからといって、シナリオライターの仕事が減るようなことはありません。また、地上波に限らず、オンデマンドでもオリジナルドラマの制作が始まっており、可能性は広がっています。

シナリオライターの仕事は大変ですけど、毎朝満員電車に乗る必要もなく、嫌な上司と付き合う必要もない。時間は自由だし、収入は普通のサラリーマンよりもある。楽しい仕事ですよ。

私たちの娯楽には欠かせない「シナリオ」


「シナリオライターになりたい」という夢をかなえて、「書くこと自体が楽しい」と言っていた尾崎さん。

ドラマや映画、舞台など、私たちの周りにある娯楽の中には全て「シナリオ」があります。 限られた時間と限られた条件の中で、シナリオライターが物語を組み立て、私たちに日々感動を与えてくれているのです。時間が自由でやりがいのあるシナリオライター、とても魅力的な仕事だと思いませんか?

<仕事の概要>

 


■職業名:シナリオライター

■仕事内容:脚本の執筆、企画書の作成

■求められる要素:スケジュールを調整し脚本に落としこむスキル、人の感情が揺れ動く理由を考える力、自己管理能力

■こんな人に向いている:「求められる要素」を苦と感じない人



識者プロフィール
尾崎将也(おざき・まさや) 兵庫県出身。関西学院大学文学部を卒業したのち、広告制作会社に就職。シナリオライターの夢を諦めきれず、脚本のコンクールに応募し続ける。1992年『屋根の上の花火』で第5回フジテレビヤングシナリオ大賞を受賞し、シナリオライターとしての道を歩み始める。代表作は『アットホーム・ダッド』『結婚できない男』『特命係長 只野仁』『お迎えデス。』など。

※この記事は2016/08/24にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。

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