女性社長のパイオニア! アパホテル元谷社長の経営メソッドと尊敬する5人の女性

女性の社会進出が遅れている日本。組織の要職や管理職に女性が就くにはいくつものハードルが立ちふさがります。国際労働機関(ILO)が公表している最新の報告書では、日本の女性の管理職の割合は11.1%にとどまり、先進国の中でも低い部類に入ります。

女性社長のパイオニア! アパホテル元谷社長の経営メソッドと尊敬する5人の女性

女性の社会進出が遅れている日本。組織の要職や管理職に女性が就くにはいくつものハードルが立ちふさがります。国際労働機関(ILO)が公表している最新の報告書では、日本の女性の管理職の割合は11.1%にとどまり、先進国の中でも低い部類に入ります。

男性社会の中で働こうとする女性たちの苦労が描かれたドラマ『問題のあるレストラン』が多くの共感を呼んだことは記憶に新しいですが、それだけ働く女性にとっては指針や応援が必要不可欠ということ。そこで女性社長のパイオニアの一人、アパホテルの元谷芙美子社長にお話を伺いました。

人目を引きやすい衣装と帽子に身を包み、自らが広告塔となってホテルの名前をアピール。賛否両論にめげずに続けたことで知名度をアップさせ、集客効果につなげたエピソードはあまりにも有名ですが、元谷社長は女性の社会進出をどのように考えているのでしょうか。働く女性に、未来を担う若いビジネスパーソンに、アドバイスをいただきました。

会社のお荷物だったホテル部門……まずは知名度アップ


――1980年に創設し1984年に第1号ホテルをつくったアパホテル。1994年に当時の代表から社長就任を命じられたとき、どのようなお気持ちでしたか。

「大きく驚いたと同時に大変うれしく、ぜひお引き受けしたいと思い、心が躍りましたね。私は人と接することが大好きで、住宅部門にいたときも率先してお客さまのところへ行って営業をしていたんです。そのため、毎日たくさんのお客さまをお迎えするホテルは、私にとってきっと天職だろうと感じました。その一方で、当時のホテル部門はグループの中では赤字に近い状況だったんです。ホテルの従業員の間には『ホテルがあるのは住宅部門のおかげ』と思っているような雰囲気が濃くありました。その姿を見ているとかわいそうで、『社長としてこれからホテルを大きくして、アパグループを支える存在になろう』と強く意気込んだことを思い出しますね」

――どのような事業戦略で、元谷社長ご自身が広告塔となったのでしょうか。

「アパホテルは、インターネットからの宿泊予約が主流になることを見越して早くからさまざまな取り組みを行っていました。その中でも最も重視していたのは、まず『アパホテル』の名前を知っていただくこと。だって名前も知らないホテルを、インターネットで検索できるはずがありませんから。まずは私が社長として広告の前面に出ることで、ホテルの知名度をアップすることができたと思います」

――元谷社長が考えるアパホテルのミッションとは一体何でしょう? 今後はどのような事業を考えていますか。

「日本経済が成長、発展していくためには、日本が観光大国となることが不可欠です。日本には世界に誇れる素晴らしいものがたくさんありますよね。アパホテルは観光大国を目指す国策に沿って、訪日外国人の受け皿となるホテルをこれからも増やしていく考えです。現在アパホテルが展開中なのは、『新都市型ホテル』、『高機能・高品質・環境対応型』という新しいコンセプトのホテルです。お客さまの満足度を向上させながらも地球環境に配慮し、それでいて宿泊することに誇りを持てるホテルを目指す。この日本初のホテルコンセプトを、世界にも広めていきたいと考えています」

男性社会にいるなら男性を立てながらうまくやるべし


――元谷社長ご自身は、これからやってみたいことはありますか。

「事業を拡大させるだけでなく、人材の育成にも力を入れていきたいですね。将来的には『ホテル大学』をつくりたい。ホテルのサービスから経営に至るまで、アパホテルで培ったノウハウに基づく実践的な教育を行い、業界の発展のために人材を輩出していきたいと思っています」

――社長として、女性の社会進出をどう捉えていますか?

「当然のことながら、女性が社会進出していくことはとてもいいことだと思います。男女関係なく、働く機会の平等は確保されるべきですよね。ただ、最近は男女の区別までなくすような風潮があることに危惧を感じます。男性らしさ、女性らしさといったそれぞれの持ち味を生かしながら、社会に貢献していけるのが理想ではないでしょうか。

私は社長として自ら先頭に立って社員を引っ張ってきましたが、プライベートでは良き妻、良き母の顔も持っていますよ。家事も絶対に手を抜かず、それぞれの役割を果たしてきたと自負しています。古風な考え方かもしれませんが、ビジネスの世界ではまだまだ古い男性社会の体質が残っています。それに立ち向かうだけではなく、男性を立てつつみんなとうまくやっていくことも、女性として働くにあたり重要なことだと思いますね」

――自分の働き方、仕事について悩む20代にアドバイスをいただけますか。

「必ず目標を持って生きてください。そして決して諦めないことが大切です。苦い経験はきっと自分を磨いてくれます。若さは武器だからこそ、若いうちに死ぬような思いで努力したほうがいい。自分に投資する努力をやめないでください。

実体験になりますが、私は18歳で信用金庫に入庫しました。そのときは女性初の支店長になると決意し、会社に骨を埋めるつもりで働き始めました。結果的に違う世界に行きましたが、自分でこの道と決めたらブレずに最後までやり抜く気持ちは、心の支えになっています。

最後に、私が講演でよくお話しする『成功の三要素』を紹介しますね。

① いつも前向きにプラス思考で考えること
② 人や物のせいにせず、全て自分に帰結するものとして責任を持つこと
③ 全力で頑張れば達成できる目標より少し高い目標を立て、期限を設けて実行すること

この3つを実践し続ければ成功を得られるはずです。努力は必ず報われますよ」

華やかなイメージだった元谷社長でしたが、お話を聞くと、仕事が大好きで家庭も大切にする、とても努力家な方だということがよく分かりました。自分の個性や女性らしさを重視して、業界を盛り上げていく。これからのご活躍も楽しみでなりません。

元谷社長が選ぶ5人の女性パイオニア


これまで国内でも女性社長のパイオニアとして事業を成功させてきた元谷社長に、「5人のパイオニア女性」を聞いてみました。同時代でどのような人に元谷さんは刺激を受けてきたのか。ぜひ心に留めておいてください。

桂由美さん/株式会社ユミカツラインターナショナル 代表取締役社長


「ブライダルファッション業界の第一人者として業界をけん引され、多くの人に愛されるブランドをお築きになられた方。ショーやイベントを世界各国でお開きになるなど、活躍されるフィールドは日本に限らない。世界中の多くの人々に夢を与えておられるのではないでしょうか。アパホテルが今後海外展開を検討していく上でも、お手本とさせていただきたいと思っています」

コシノジュンコさん/JUNKO KOSHINO株式会社 ファッションデザイナー


「コシノさんは学生のころからご活躍されており、強烈なパッションをお持ちの女性。ファッション業界の最前線に立ち、常に新しい世界を切り開いてこられました。ずいぶんと前になりますが、1994年、弊社の月刊誌『Apple Town』にご登場いただき、ファッションを通して金沢の魅力やコシノさんの宇宙観についてお話をいただいたこともあります。コシノさんからは自分を表現する上でのファッションの大切さを学ばせてもらい、また物事に対して前向きに取り組むエネルギーもいただきました」

寺田千代乃さん/アートコーポレーション株式会社 代表取締役社長


「国内で初めて引っ越しを専業とする会社を始められ、女性の目線で新しいサービスをどんどん取り入れ、引っ越しを『運送業』から『サービス業』へ進化させた寺田さん。『ホテルに革命を起こす』という思いで既成概念を打ち破り、『新都市型ホテル』という新しいジャンルを切り開いてきた私共と相通じるものがあると感じております。お客さまの多様なニーズを捉え、そのニーズに応えるために新たなサービスを開発してこられた姿勢は素晴らしいです」

秋田一惠さん/弁護士


「経営者ではありませんが、私がビジネスの世界で最も尊敬している女性のひとりです。明るくざっくばらんなところがありながら、大変芯の強く、頭の切れる女性。その知性と行動力、判断力には敬服いたしております。明るく凛としていて、オンとオフのメリハリをつけていらっしゃる。仕事には情熱を持って取り組まれる秋田弁護士から、私自身も大いに刺激を受けました。私もこんな知的な女性になりたいと、憧れを持って見ています」

中丸三千繪さん/オペラ歌手


「オペラ歌手として世界中のコンサートなどでご活躍され、多くの方に美しい歌声を届けておられる中丸さんですが、その素晴らしい才能を生かしてチャリティー活動にも積極的に取り組んでいらっしゃいます。容姿の美しさは言うまでもありませんが、こうした内面の美しさが歌声や表現力にも表れているのだなと思いました。これまで中丸さんの美しい歌声を何度も聴かせていただきましたが、その度に深い感動をいただいています」


いかがでしたでしょうか? これから継続的にキャリアを積んでいきたいと考える女性はもちろん、男性にとっても、元谷社長が切り開いてきた道や彼女が影響を受けてきたパイオニア的女性の働き方は示唆に富んでいるといえますね。

識者プロフィール


元谷芙美子(もとや・ふみこ)/福井県福井市生まれ。福井県立藤島高校卒業後、福井信用金庫に入庫。22才で結婚し、翌年、夫の元谷外志雄が興した信金開発株式会社(現アパ株式会社)の取締役に就任する。1994年にはアパホテル株式会社の取締役社長に就任、全国規模のホテルチェーンへと成長させる。53才で法政大学人間環境学部へ入学。早稲田大学大学院へ進み修士号を取得、2011年3月には同博士課程を修了。東京国際大学客員教授、日台文化協会理事。


※この記事は2015/04/28にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。

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