同じ職場の仲間と決められたものを決められた通りにつくる。そんな毎日の繰り返しを脱し、外部のクリエイターと交流することで刺激を得たいと考える人々が増えています。
そして、昨今よく耳にするようになった「ハッカソン」も、そうした人々の思いに応える形で生まれたイベントの一つ。
今回は、今後ますます盛り上がりを見せると予想される「ハッカソン」について、ハッカソンイベントの企画・運営などを行っている株式会社HackCamp取締役副社長の矢吹博和さんに伺いました。
ハッカソンとは
まず、「ハッカソン」とはどのようなイベントなのでしょうか。
「ハッカソンとは、コンピューターに習熟した人が技術力を生かしてプログラムの改良やソフトウェア開発を行うことを意味する「ハック」と、長距離走の「マラソン」を掛け合わせた造語です。基本的にはエンジニアやデザイナー、クリエイターなどがチームを組んで、定まった期間内にアプリケーションを開発するイベントのことを指します」(矢吹さん:以下同じ)
しかし、矢吹さんによると、日本でのハッカソンの在り方は近年徐々に変わってきているそうです。
日本で多様化するハッカソン
「もともとハッカソンは、アプリの改善や新しいサービスの開発という目的に対して、『今回はHTML5を使いましょう』『この開発言語を使いましょう』と使用する技術やプラットフォームが指定されて行われるなど、エンジニアのための『技術特化型』イベントとして生まれたようです。海外では今でも、参加者にはエンジニアが中心のものが多く催されていると聞いています。
しかし、日本国内で現在開催されているハッカソンには、設けられたテーマに興味を持つ人が分野を問わず集まる『テーマ主体型』のものが多く、非エンジニアが多く参加しています。例えば『ダイバーシティ』をテーマにしたハッカソンを催す場合、そのテーマに興味を持つ人ならデザイナーやプランナーなどの非エンジニアでも参加ができ、エンジニアと一緒にアプリやサービス開発に取り組みます」
また、好き勝手にものをつくるのではなく、「現場の人が困っている課題を明確にした上で、その解決策として新しいものをつくる」といったように、社会問題の解決の場としてハッカソンを使おうとする傾向が強いのも日本のハッカソンの特徴だと矢吹さんは語ります。
最近では、あえて参加者のターゲットを絞った学生限定のハッカソンや、ハッカソンの前段階として、アイデア出しを目的とする「アイデアソン」なども多く開催されているそうです。
新たな出会いと刺激が得られる場
日本では2012年ごろから本格的に普及し始めたハッカソン。株式会社HackCampがハッカソンを開催するようになった経緯について、矢吹さんは次のように語ります。
「2012年にNASAが主催するハッカソンイベント『NASA Space Apps Challenge Tokyo』が開催され、そのイベントで代表の関と私が共にアイデアソンとハッカソンを行ったのですが、従来は知らない人同士で集まっていきなり開発を始めるハッカソンが多かったなか、前段階としてアイデアソンを設けたことで参加者からとても良い評判を得られたんです。
それ以降、個別の依頼をいただくようになったことで2013年から企業向けのハッカソンを始め、2014年に株式会社HackCampを設立しました」
また、近年ハッカソンが人気を集めている理由について、「普段の職場では得られない出会いや刺激的な体験が得られることにある」と矢吹さん。
「参加者にとってのメリットとしては、普段は出会えない分野の人々と出会える点だと思います。職場にいるときは決まったメンバーと仕事をして、物事を計画通りに進めるというあまり自由度のない仕事をしている人が多いと思うのですが、ハッカソンではチームを組んで、1~2日間で自分たちが考えたものを自分たちのやりたい方法で開発していくので、参加者からは『とても刺激的で今までにない経験』という声がよく聞かれます」
国内におけるハッカソンの事例
それでは実際に、日本ではどのようなハッカソンが開催されているのでしょうか。
1.THE FASHION HACK TOKYO
「2015年の夏に、ハースト婦人画報社、小学館、集英社、講談社の競合4社が連携したハッカソン『THE FASHION HACK TOKYO』が、虎ノ門ヒルズのアンダーズ東京と、六本木ヒルズ森タワーの内のGoogle社で開催されました。
雑誌媒体の売り上げが下降するなか、雑誌を活用してどうデジタル化に対応していくか、どう新しい客層を引き出していくかを議題に、雑誌のデータを使ったアプリ開発が行われました。参加者の半分以上が女性で、NHKの取材も入ったりと大きな注目を集めました」
2.ダイバーシティハッカソン
「2015年6月に読売新聞社が主催の『ダイバーシティハッカソン』が、MONO モノづくりコワーキングスペースで開催されました。2020年のオリンピック・パラリンピックを視野に入れて、訪日外国人向けのダイバーシティを実現するためのアプリを開発しようという内容です。
このイベントでは、審査で1位になった商品・サービスに、秋に開催されるアジア最大級の最先端IT・エレクトロニクス総合展『CEATEC JAPAN』への出店権利が与えられるのですが、出店したことでスポンサーやメーカーがついて、実際に製品化されたという流れも生まれています」
3.宮崎と東京をつなぐハッカソン
「今年3月にNTTデータが主催の地方創生ハッカソン『宮崎と東京をつなぐハッカソン』が、豊洲INFORIUM・宮崎県にしもろ地方農家・3×3Labo Futureにて行われました。
これは宮崎県にある、しもろ地方の市区町村(小林市・えびの市・高原町)が推進する農家民泊をテーマにしたハッカソンで、開発したものを実際に宮崎でユーザーに使ってもらうという実地検証を伴ったイベントです。
これまでのハッカソンは、開発したものを審査員が審査して終わり、というものが多かったのですが、実際に現場で使ってもらう実証実験を伴ったイベントを増やしていきたいという思いから、その一つ目の例として開催されました」
今後求められるのはニーズに応える力
最後に、「今のハッカソンはまだ、土日に集まって『楽しかった』『新しい人と出会えた』という感想で終わってしまいがちなので、今後はそこからお客さんのニーズに応えられる本当の商品・サービスが生まれてくることが求められています」と語った矢吹さん。社会問題解決の可能性をも秘めたハッカソンは、今後もさらなる多様化と発展を遂げそうです。
識者プロフィール
矢吹博和(やぶき・ひろかず) 株式会社HackCamp取締役副社長。イノベーションファシリテーター。視覚会議(R)の開発者。見える化を活用した思考法、発想法、会議ファシリテーションのスペシャリスト。アイデアソン用に最適化されたプロセスを開発、数多くのアイデアソンを成功させている。
※この記事は2016/05/06にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。
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