【今回の訪ね人】
凸ノ高秀
過去に週刊少年ジャンプにて『アリスと太陽』を連載。著作に『童貞骨稗』、短編集『蝉の恋』。また、Web にてオリジナル作品を多数発表するなど、幅広く活躍中。Twitter のフォロワー数は 73,000 以上の人気漫画家。
凸ノ高秀さんTwitter
【今回の仕事人】
湯毛
ニコニコ動画や YouTube などの動画投稿サイトを中心に活動するシンガーであり、ゲーム実況者、ラジオパーソナリティとしても活躍中。シーンのクリエーターで結成された"ゲーム実況者わくわくバンド"ではVoとGtを担当し、2018年3月にTVアニメ『BORUTO-ボルト-NARUTO NEXT GENERATIONS』EDテーマのシングル「デンシンタマシイ」をリリース。
湯毛さんTwitter
自分のアーティスト活動が動画配信の波と噛み合った
幼馴染の安井(※湯毛さんの本名)と取材されるなんて感慨深いなあ。
本名で呼ぶんや(笑)。でもほんと幼稚園から一緒やったし、大阪の実家は徒歩5分ぐらいやしな。
安井のライブの写真、こないだ帰省したとき安井のおばちゃんに見せたわ。
恥ずかしいな(笑)。俺も親から、「凸ノくん今度これに載るらしいよ」っていう情報入ってくるよ。
親同士でチェックしてるよな(笑)。でもまさか俺が漫画家になって、安井がアーティストになるとは思わんかったわ。だって、安井ってあんまり人前に出るようなタイプじゃなかったやん。
昔はなるべく目立たないようにしてたからね。どちらかというと凸ノの方が、目立ちたがりだったんちゃうかな。
俺はそうやね、芸人とかミュージシャンとか人前に出る仕事に憧れてたな。あとは競馬の実況する人。
なんで競馬の実況(笑)?
だって、あんなに難しい馬の名前を噛まずに言えるのかっこよくない(笑)? もちろん一番になりたかったのは漫画家やったけど。

昔さ、ノートにクラスメイトの何人かで漫画描いてたやん? あれ凸ノが圧倒的に絵が上手かったの今でも覚えてるわ。
それなら安井もカラオケいったときずば抜けて上手かったよな。
でも恥ずかしいから、たくさんの人前で歌ったのは修学旅行のバスの中ぐらいやったな〜(笑)。3年分の人前で歌いたい気持ちをそこで出してたわ。
「CMのあとついに……!?」みたいなタメが3年も続いたんや(笑)。でも当時はアーティストになりたかったわけじゃないでしょ? どうやって仕事にしていったの?
そうやな。あの頃はやりたいことは特になかったからなあ。声優さんのラジオを聞いていたから、「ラジオパーソナリティになりたい」っていうのは漠然とあったけど。
今FMラジオで番組やってるじゃん! すごいな、ちゃんと叶えてるわあ。

そのあと「俺って意外と歌えるんだな」というのを高校ぐらいから自覚し出して。大学でもあまり人前で歌う機会はなかったんやけど、アニソン縛りのカラオケオフ会というのがあるのを知って、よく参加して人前で歌を歌ったりしてたんよね。そのうち、アニソンのコピーバンドとかをやりたいなと思って、バンドや弾き語りをやるようになっていったな。
その頃はあまり会わなくなってたけど、安井が大阪の日本橋でストリートライブやってるのを風の噂で聞いてびっくりしたもんな。「え、あの安井が人前で歌ってるの!?」って。
そうそう。しかもその流れで、インターネットの動画投稿サイトが時代的に重なって、『ニコニコ動画』でもアニソンの路上弾き語りとかをアップし始めたんよね。
ニコニコ動画のサービス開始がちょうど俺ら大学生のときやんな。
ニコニコ動画が流行るタイミングと、ちょうど噛み合ったと思う。ものすごい人気があるわけではなかったけど、アップしていくうちに徐々に見てもらえるようになって。そしたらイベントとか生放送とかに呼ばれ始めて、出演料を貰えだしたりしたね。
決断のタイミングが人より遅かった分、やり方を工夫しなければならなかった
凸ノはどういう経緯で漫画家になったの?
実は本当に漫画家になれるとは思ってなかってん。大学がデザイン学科だったから、卒業後は大阪でデザイナーをしていたんだけど、漫画家は無理だと諦めてんな。でもあるとき、Webメディアの『オモコロ』のコンテストに漫画出してみようと思って、それが結果的に大賞をもらえたのよ。しかも書籍化までされてさ。
おお、ええやん!
そう。それで、いいタイミングだし「漫画家になるか!」と上京してきたの。それでも29歳だったから遅かったけどね。
そっか、そんなもんやったか。
そう、20歳の子が夢を追いかけるのとは意味合いが違うじゃん。その子たちと同じ条件でやったってしょうがないから、上京後も「アルバイトは絶対しない」と決めて、貯金を切り崩しながら漫画や絵のお金でしか生活をしないようにしたんだよ。もしアルバイトをするようになったら大阪に帰るって決めてた。
なるほど。相当な覚悟が決まってたと。
それで絵の仕事をしつつ、『週刊少年ジャンプ(以下、ジャンプ)』で連載をするために、担当に見てもらってたね。ただ連載までは本当に大変で、連載ネームに落ちまくりながら、やっと2018年に『アリスと太陽』で連載してもらえたのよ。結果的に打ち切りになったけど、今もまた新しい連載ができるように漫画を描いてる。
すごい世界よなー。まさか幼馴染があのジャンプで連載するなんてほんますごい。で、俺が上京したのは31歳のときだから、凸ノより決断は遅かった。
そうやんな。安井はどんなきっかけで上京してきたの?
元々ミュージシャン一本でやっていくのはなかなかつらいなと思っていたんだけど、縁あってネット配信とかをやってる会社に所属できる話がきて、これは東京でも生きていけそうだなと。そもそも俺は「生きていけそう」という保険がないと厳しいと思う性格やし、年齢も30代やったしね。
たしかに。年齢は関係ないのかもしれないけど、条件付けをしたり、やり方は変えたりしないと難しいと思う。
そうよな。そのあとゲーム実況で知り合ったメンバーと『ゲーム実況者わくわくバンド』というバンドをやることになって。2018年にアニメ『BORUTO』のエンディングで使ってもらった!
いやあ、『BORUTO』のエンディングを歌うのはすごいわ。しかも武道館も立ってるんでしょ?
ほんとタイミングに恵まれてるな、と思う。
「勘所」をみつけると歌や楽器は格段に上手くなる
武道館とか、あんな大きなステージに立ったら気持ちええんやろなあ。あの量の拍手や歓声って、普通に生きてたらもらえないじゃん。俺、一度でもあれを味わったら人生狂いそう(笑)。
でも漫画も多くの人に見てもらえるやん。しかもあのジャンプだったらなおさら。
漫画はみんなで一緒に読むわけではないから、やっぱり最大瞬間風速が違うよ。ライブってその瞬間しかないじゃん。それに、もし演奏間違えたらどうするのって怖くなるよ。
例えばライブで多少間違えてもMCでいじられて、味付けになる可能性があるのよ。そういったアクシデントも楽しむというか……。それでいうと、俺は作品が残り続ける方が怖いけどなあ。「映像作品として収録します」ってときが一番緊張するもん。
そういうものかあ。そうだ、俺ちょっと疑ってる部分があってさ。
なに急に(笑)。
いろんなライブを見てきたけど、ギター弾きながらあんなに歌えるわけないだろって(笑)。
(笑)。あれはね、勘所をいかに掴むかやと俺は思う! 初めて逆上がりをするとか自転車に乗るときも、一回コツを掴んだらその後結構できるようになるやん。それが音楽にもあって、今でもその「勘所をいかに見つけられるか」を練習のとき意識してる。そこを見つけられると、演奏や歌は格段に上手くなるね。絵でもそういう経験ない?

ちょっと違うかもしれないけれど、絵はね、上手くなる直前にものすごく下手になんねんな。
下手になる? どういうこと?
自分の絵を見る目が上がっていく感覚なのかな。他の人がみたら、多分気づかないようなことなんやけど、ここの描き方が良くないってわかるようになるんよね。だから最近は下手だと感じても「これは上手くなる前触れなんだな」と考えるようにしてる。
へ〜それは面白い。
毎日のように絵を描いていてもそういう発見があるのはすごく楽しいよ。
40歳までに、一生自分を食わせてくれる作品を生みたい
漫画家の生活って徹夜が当たり前で不規則なイメージがあるけど実際どうなん?
いや、そんなことないかな。それこそ前までは、疲れるまでひたすら描いてたんだけど、去年からはなるべく夜の0時までに終えるようにしてる。どんなに遅くても2時までしか描かないルールを決めたの。
偉いなー。ちゃんと身体のこと考えてる!
それまでは昼夜逆転の生活続けて、それで身体を壊したんだよね。まじで地獄を見たんだよ。しかもこの先は体力的に今以上に描けなくなると思うから、「40歳までに一生自分を食わせてくれる漫画を1、2本作らないと」って毎日焦ってるかな。安井はどんな生活してるの?
けっこう不規則かな。動画配信するときは夜だから、それまでに弾き語りの譜面を準備したり、バンド練習とかライブが入ってきたり。番組やイベントの依頼を受けることも多いから、毎日同じ仕事をし続けるっていうのはないね。
ちゃんと休めてるの?
結構休んでるけどな! 長期休みみたいなのはなかなかないけど、ゲームしたり、楽器屋うろちょろしたりしてるよ。でもこのままだと俺もいつか身体壊す気がする(笑)。
メンタルとか自律神経やっちゃったら、日光浴びながら噴水見てほしい。
なにそれ(笑)。
公園行って噴水を見るとめっちゃ癒されるのよ。通勤してる人はいつも日光浴びてると思うけど、俺とか安井みたいな仕事してると日光浴びなくなっちゃうから。
たしかに日の光浴びないなあ。今度行ってみるか。
インチキおじさん二人で行こう(笑)。
(文章/高山諒 カメラ/Hide Watanabe 編集/サカイエヒタ)
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