DXをしないと仕事がなくなる⁉
――まずDXとは何でしょうか?
「DXとは、デジタルでビジネスモデルを変えることです。例えば、動画配信サービスを提供するNetflixはDXによって躍進した企業と言えます。もともと、DVDの販売・レンタル会社だったNetflixは、ストリーミングサービスを始め、世界的な企業になりました。これこそデジタルを使ったビジネスモデルの変革です」
――なぜいま、DXが話題になっているんでしょうか?
「オーバーな表現をすると、スタートアップ企業が既存の企業を脅かしているからなんです。例えば世界最大級のホテル会社、つまり宿泊先を提供する会社はどこだと思いますか? 答えはAirbnbなんです。以前だったら、老舗のホテル会社がその座に就いていましたが、今は違います。他にも、世界最大級のタクシー会社はUberであり、メディア会社はFacebook。共通点は、2000年以降に設立されたスタートアップ企業であり、資産を持っていないこと。自社でホテルやタクシー自動車、記者を抱えていない。持っているのは、システムだけです」
――スタートアップ企業が、既存の企業を脅かしているんですね。
「ホテルを例にすると、以前は老舗のホテル会社が業界の1位だったのに、たった10年でマーケットを取られてしまった。日本企業には老舗が多いため、マーケットを取られると日本企業の仕事がなくなってしまう。政府はそこに焦っているんです。仕事がなくなると、日本国民の雇用がなくなる。それは国にとって死活問題です。企業だけではなく公共サービスだって同じ状況です。例えば、健康診断。ユーザーの健康状態を24時間365日、データで記録し、AIで診断してくれるウェアラブル機器はこれからたくさん販売されます。そういった機器の性能はまだまだですが、精度が上がり、医師並みの診断結果を出せるようになるかもしれません。そうなった時、年に1度受ける健康診断なんて必要ない。そうなると健康診断で生計を立てている人たちは、働き口がなくなるんです」
ビジネスだけでなく義務教育まで国産でなくなる?
――国内の仕事が奪われる未来が来るとは! うかうかしていられない。
「ビジネスの世界だけでなく、子供たちの教育だって国産でなくなるかもしれません。いま、多くの家庭で配信サービスを利用できる環境が整っています。もし、その配信サービスを通じて、世界中の授業を配信するとなると、誰も学校へ行かなくてもいいとなる。その動画配信の先生が、ハーバードやMITの教授となると、国内の先生は太刀打ちできないかもしれません。翻訳機があれば、言葉の壁は乗り越えられます。義務教育が国産でなくなるということは、日本の未来が大きく変わるということです」
DXによってお客様は世界80億人に広がる
――先ほどから日本企業がピンチ!という話題ばかりですが、DXによって日本企業にメリットもあると思います。いかがでしょうか?
「もちろんそうです。メリットは、消費者の数が圧倒的に増えること。世界人口は約80億人です。数年後には、世界中の全ての人が、ネットにアクセスできると言われています。そうなると80億人がお客様になる。日本の人口は約1.2億人なので、消費者が増えればビジネスチャンスです。アメリカのスタートアップ企業は、この80億人をターゲットにして、ビジネスを考えています。日本にもそういった志を持ったスタートアップ企業はいますが、まだまだ少ない。もっと世界を見据えた方がいい」
――DXが進むビジネスの世界で活躍するために、いま、どんなスキルを身に着けるべきですか?
「人間にしかできないスキルを身に着けるべきです。それは3つあり、1つ目は、時代がどう変化するかを掴むスキル。例えば、翻訳機の精度が高くなっているのだから、翻訳家の仕事はなくなる可能性がある。だったら、翻訳の勉強ではなく、別の勉強をした方がいい。そうやって時代の動きを読む能力は重要です。
2つ目と3つ目は、課題解決能力と行動力。この2つはデジタルにはできません。課題を解決する方法を考えられるのは人間だけ。行動を起こせるのも人間ならでは。DXが進む中で、最後まで残るのは何かを考えると、人間にしかできないことが残る。まずは人間にしかできないことは何なのか、考えてみてください」
撮影協力=キッチン タツヤ ストーリエ
取材・文=野田綾子
編集=TAPE
【プロフィール】
兼安暁
1967年東京生れ。DXTコンサルティング株式会社代表取締役。米国系コンサルティング会社のLA事務所でキャリアをスタート。データサイエンス企業、CCC、CRMベンチャー、大手SI企業を経て独立。CCC時代には、Tポイント事業の立上げに関わる。著書「イラスト&図解でわかるDX」、「成功するDX、失敗するDX」など。
DXTコンサルティング株式会社
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