多くの場合、仕事は社内外の関係者と協力し合って進めていきます。ひとりでできることには限界がありますが、大勢の得手・不得手を踏まえて協力し合えば、思った以上の成果を上げられるでしょう。そこで必要になってくるのが、周囲とともに目標を達成するための「巻き込み力」です。
このスキルにどのようなメリットがあるのか、その力を身につけるには何が必要なのか、相手によってどう使い分けるべきなのかなど、ビジネスに必要な巻き込み力について、社会人基礎力協議会の代表理事である長尾素子さんに伺いました。
巻き込み力とは?
巻き込み力とは、周囲の人に協力を求め、その力を結集し、ともに目標を達成しようとするスキルのことです。ビジネスはひとりではできません。さまざまな目標に向けて複数の人たちの協力を得ながら成し遂げていく必要があります。そのため、うまく周囲の信頼や支援を受け、より大きな成果を上げるためにも巻き込んでいく力が重要となるのです。
巻き込み力は経済産業省が提唱する社会人基礎力の一部
経済産業省が提唱する社会人基礎力には「前に踏み出す力」を構成する要素の一つに「働きかけ力」があります。その説明には「多様な人と繋がる」「パートナー力」「信頼を勝ち得る力(周囲を巻き込む力)」などがあることから、巻き込み力は働きかけ力の一部ということができるでしょう。
働きかけ力では、協力を求めるなど巻き込む前に必要なアクションを含みますが、それだけでは巻き込むところまで到達しない可能性があります。ビジネスにおいて多くの人を巻き込むためには、さらなる説得力や信頼の醸成といったスキルが必要になってくるのです。
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巻き込み力は特にリーダーに求められるスキル
リーダーや管理職になると、責任ある決断を下す場面が多くなります。そのときに重要なのが、協力的だったり、有用な情報を提供してくれたりする他者の存在です。こうした他者に働きかけるには、関わっている仕事や思いを共有し、早くから関心をもってもらえるよう積極的にアピールすることが必要です。また、若手であっても、ネットワークが広く他者の協力を得られる人の方が成果を出せる可能性は高くなるでしょう。
巻き込み力を身につけるメリットは?
ビジネスマンにとって重要なスキルである巻き込み力。では、その力を身につけるとどのようなメリットがあるのか、それぞれ見ていきましょう。
アイデアが広がり、よりよい企画を立てることができる
ビジネスにおいてアイデアが重要となるシーンは多いでしょう。ひとりで出せるアイデアには限りがありますが、巻き込み力が身についていれば複数の人と意見交換をすることができます。そうなれば、行き詰まった企画が前進したり、思ってもみなかった新しい商品開発につながったりと、企画がより練られていく可能性があります。
失敗を未然に防ぎ、より質の高い成果につながる
どんなにいい企画やアイデアがあっても、ひとりで抱えてしまうとどこかで行き詰まってしまうもの。しかし、複数の視点で確認すれば、計画やスケジュールの漏れ、誤り、矛盾などが発見しやすくなります。それによって、無駄な時間を短縮できたり、失敗を未然に防いだりすることができると、より質の高い成果につながります。
安心して仕事に取り組むことができる
孤立していたり、人間関係に悩んでいたりすると、ビジネスは思うように進みません。しかし、周囲にいつでも相談できる人がいる、協力してくれる人がいるという状況は精神的に安定し、仕事の成功につながりやすくなります。また、仲間と達成感を共有することで、仕事のやりがいを強く感じられるようになるのもメリットといえるでしょう。
ビジネスチャンスが広がる
人とのつながりが広がるということは、その分コミュニケーションが増えるということです。仕事の内容についてはもちろん、話題のニュースや趣味の話などの何気ない会話が増えると、そこから新しいアイデアが生まれるケースも多々あります。さらに、人脈が広がると、他の案件やプロジェクトで課題が発生して困った場合に相談できる人が増えるため、ビジネスチャンスが広がることにもつながるのです。
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巻き込み力を身につける方法は?
巻き込み力のある人とは、常に物事や人に関心をもち、他者とコミュニケーションを積極的に取ろうとする人です。巻き込み力を身につけるには、下記の4つのサイクルを回すことが重要になります。それぞれ見ていきましょう。
1. 巻き込みたい人を信頼する
巻き込み力を身につける上で重要なのは、信頼関係の構築です。そのためには自分が抱えている課題などを率直に話して相談をもちかけ、巻き込みたい上司や同僚、部下に対して「信頼している」という印象を与えましょう。また、相談相手をすぐに巻き込めなくても、協力してくれそうな人を紹介してくれたり、後で協力してくれるケースにつながることもあります。
2. 情報と思いを共有する
人は自分が信頼や期待をされていると感じれば、「期待に応えたい」という返報性の原理に基づいて行動する傾向があります。例えば、まず自分が取り組んでいることや関心のあること、さらにはビジョンや思いなどを巻き込みたい相手に話し、お互いの共有事項を増やします。その上で相手の関心事項を引き出して意見を求めると、相手にもこちらの情報や思いを自分事として感じてもらえるようになるのです。
3. 相談したことの結果を報告する
上司や同僚、部下などに相談をし、協力や助言を受けたら、その結果どのような効果があったかについても必ず報告しましょう。そうすることで、自分に対する信頼を得られるうえ、相談した相手の方も役に立てたという気持ちになり、継続的な関係性を育むことにつながります。また、結果が悪かった場合でも、そこから問題点や改善点などのアイデアが出てくることもあるため、しっかりと報告するのがおすすめです。
4. 感謝の言葉を述べる
相談を持ち掛け、その結果を報告したら、必ず最後に感謝の言葉も忘れずに述べましょう。これにより相手との信頼関係はさらに深まり、今後のビジネスに好循環をもたらします。そして、この1〜4のサイクルを回していくことによってさらに巻き込み力が身につき、その後も継続的に協力を得られる可能性が高まります。
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どうやって使う?巻き込み力の実践テクニック
巻き込み力が身についたら、具体的にどのように使っていくのがいいでしょうか。ここでは活用するコツについて、巻き込みたい相手別に解説します。
上司の場合
巻き込みたい相手が上司の場合、いきなり相談して協力を仰ぐのは難しい場合もあるでしょう。普段から意識してコミュニケーションを取っておきましょう。そうしておくと、スムーズに協力を得られやすくなります。また、相談をする際にはその経緯や最終的にどうしたいのか、協力してもらいたいことを整理して伝え、同時に自分の思いなども伝えるとより効果的です。結果についても早めに報告し、感謝も述べるといいでしょう。
同僚や部下の場合
巻き込みたい相手が同僚や部下の場合、日頃から信頼関係を築いた上で、情報を詳細に共有しましょう。共有の際の説明は丁寧に行い、相手が本当に理解してくれているか、協力してくれるほどのモチベーションがあるかなども合わせて確認することが重要です。また、相手のモチベーションがあまり感じられない場合には、相手の能力を信頼していることや、「なぜあなたに協力してほしいか」を示すようにしましょう。
他部署の人の場合
巻き込みたい相手が他部署の人の場合、相手の立場に立って説明する必要があります。なぜその人の協力が必要なのか、その部署にどのようなメリットがあるのかを合理的に説明し、理解や共感を得ることが大切です。また、他部署とはその後も継続して協力できる体制を築くのが理想的です。お互いの部署のミッションや背景を理解した上で協力を仰ぐようにしましょう。
外部の人の場合
巻き込みたい相手が外部の人の場合、普段から信頼関係を築き、場合によっては相手の反応を想定し、次の一手を用意しておくのがいいでしょう。目的やビジョン、思いを伝えるのはもちろん、利害関係を明確に説明して相手のメリットを理解してもらえるよう、活動の意義を共有することが大切です。
巻き込み力を高めるために磨くべきスキルとは?
巻き込み力を高めるためにはどのようなスキルが必要なのでしょうか。日頃から意識して磨いておくべきスキルを3つ紹介します。
正確に言語化し伝えるコミュニケーション力
コミュニケーション力は巻き込み力を高めるために必須のスキルです。日常的に人とコミュニケーションを取っていれば、ある程度磨かれていくものというイメージがあるかと思いますが、ビジネスにおけるコミュニケーション力は家族や友人に対するものとは違い、業務に関する情報やこちらの考えを、正確に言語化することで磨かれていきます。この力を磨くためには、上司や同僚などに対して日ごろから「報告・連絡・相談(ホウ・レン・ソウ)」を意識的に実践していくようにしましょう。
相手を気づかえる関係構築力
巻きこみ力には人間関係を良好に保つための関係構築力も必要です。一方的に巻き込んでいくだけでなく、上司や同僚、部下などと積極的にコミュニケーションをとって巻き込まれた相手の立場に立って必要な対応をしていきましょう。例えば、不明点がないかをヒアリングしたり、メンタル面を気づかったりと、細やかな気づかいが求められます。職場で会うたびに明るく挨拶をする、といったことだけでも関係構築の基盤をつくる上では効果的なので、ぜひ試してみてください。
周囲からの信頼を得る力
主体的に物事を進め、巻き込み力を発揮しても、そこに信頼がなければ関係性は長続きしません。例えば、信頼を得るために自分の「人となり」や真剣度を知ってもらえるように、口だけでなく、誠実で責任ある行動を意識するなどが挙げられます。上司や同僚、部下だけでなく、取引先といった社外の関係者に対しても常に誠実に向き合い、最後まで責任感をもって仕事にあたる姿勢を示すことが大切です。周囲の信頼を得てこそ、巻き込み力は絶大な効果を発揮するでしょう。
相手の心を動かす説得力
協力を仰ぐための提案や交渉には、相手の心が動くほどの説得力が欠かせません。例えば、巻き込みたい相手に説明を行う際に、裏付けがされたリサーチ結果を、まとめ、自信を持って伝えると説得力が生まれます。加えて、ピンポイントに刺さるように相手の立場や背景を理解し、話の道筋を組み立てた上で説明を行えると、説得力をより強くすることができるでしょう。
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巻き込み力はビジネス成功の鍵になる
ビジネスはひとりでは回っていきません。必ず、複数の関係者たちの協力で成り立ち、成功へと進んでいきます。いかに他者の協力や信頼を得られるか、周囲が積極的に関与する状況をつくれるか、それがビジネスの成否を方向付けるといっても過言ではないでしょう。だからこそ、巻き込み力が重要となるのです。また、人と人がつながるということは、視野が広がり、心に豊かさをもたらします。巻き込み力は、ビジネスの成否だけでなく、人生をも豊かにしてくれるスキルの一つといえるでしょう。
監修:一般社団法人 社会人基礎力協議会
経済産業省が立ち上げた「社会人基礎力育成グランプリ」の開催を引き継ぐために2013年に大学教職員の有志で設立された団体。2018年に経済産業省が「新社会人基礎力」を発表すると同時に、リカレント教育および研究部門を加え、「人生100年時代の社会人基礎力」の普及を目指し、一般社団法人となった。代表理事は拓殖大学商学部教授兼株式会社TOKYO GLOBAL GATEWAY取締役COOの長尾素子。
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