デザイン思考とは? 注目される理由や、思考のステップを紹介

近年よく耳にする「デザイン思考」。その意味は何なのでしょうか? 今回はデザイン思考が目指すもの、身に付けるメリット、そして、どうビジネスに活かせるかなどをクリエイティブマネージャー・柴田雄一郎さんに伺いました。

デザイン思考とは

デザイン思考とは「ユーザーのニーズから出発する思考」です。「デザイン」という単語が入っていますが、商品開発や営業、経理などの職種でも活かせる思考のフレームワークだと柴田さんは言います。

「多くの人はデザインとデザイン思考とを混同しているので、その違いについてまず説明します。デザインは形状や美しさ、機能美や使いやすさ、わかりやすさなどを表現することを指します。

デザイン思考はその一つ前の段階。デザイナーがデザインを考える上での思考プロセスと捉えてほしいです。デザイン思考とは、お客さんが本質的に求めているものを洞察することからスタートします。お客さんのニーズに共感し、そのニーズを満たすサービスや製品を生み出していくために活かしていきます」(柴田さん、以下同)

アート思考との違いとは?

「デザイン思考がユーザーのニーズから出発するものである一方、アート思考は自分の思いやひらめき、内発的な動機から出発する思考を指します。アーティストや芸術家は自分が作りたいから作品を創造しますよね。一方でデザイナーは消費者やクライアントのニーズから出発してデザインをする。それが最大の違いです」

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デザイン思考が注目されている理由とは?

デザイン思考が注目されるのはどのような理由からでしょうか? 柴田さんは「ものが売れない時代になった」ことを理由として挙げます。ものが売れなくなったことはなぜデザイン思考の注目と関係があるのでしょうか。

デザイン思考が注目される理由①人口の減少

その理由の一つとして「人口の減少」が挙げられます。

「かつて日本では生産性が重視されていました。なぜなら人口も増加し、生産者・消費者も拡大しており、その結果、日本は経済成長を果たしました。当時の日本では、商品を作れば売れる時代だったんです。

しかし人口が減少し、経済成長しない時代に突入しました。すると商品を作っても売れない。そうなると売れる商品を生み出すために、今まで以上に消費者のニーズを深掘りする必要が生まれてきたんです。」

デザイン思考が注目される理由②価値観の変化

二つ目の理由として、消費に関する価値観が変化したことがあります。

「商品を作っても売れない要因は、人口の減少のほかに価値観の変化も挙げられます。年配の世代は『高級車に乗って、大きい家に住むのが人生の成功』という理想や価値観を持つ人が多い世代でもあるでしょう。

しかし、若い世代はシェアリングエコノミーが当たり前です。メルカリなどのリサイクルサービスを使ってものを買い、車もカーシェアを利用する。ものを所有することの価値が下がった結果、これまでのように『同じものを大量生産する時代』が終わってしまったんです。さらに物が溢れ顧客のニーズも多様化した。その結果、ユーザーの深層的なニーズを見極める必要が出てきたと言えます」

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デザイン思考のメリット

ものが思うように売れない時代。デザイン思考を身につけると、どんなメリットがあるのでしょうか。

デザイン思考のメリット①潜在的なニーズに目を向けられる

一つ目のメリットに「潜在的なニーズに目を向けられる」があります。

「多くの場合、人が『ほしい』と言えてしまうものは、すでにほとんどのものがこの世に存在しています。だからお客さんの潜在的なニーズを探る必要があります。インタビューなどを行って、表面的にほしいものを聞き出すだけでは十分と言えません。

ある石鹸メーカーでは、キッチンの様子を動画で撮影し、消費者がどうキッチンの中で動くかを観察するそうです。その挙動のどこかにユーザーの言葉にはならない潜在的なニーズが隠れていないかを探っているんです」

デザイン思考のメリット②独りよがりにならない

メリットの二つ目は、アイデアが独りよがりにならない点が挙げられます。

「もちろん思いつきのサービスや商品が成功する場合も稀にあります。ただし、新しいサービスの開発になると、思いつきのアイデアではメーカー側の独りよがりになってしまいがちです。そのためユーザーが本質的にほしいと思うものを把握することで独りよがりにならず、新しいサービスや商品を世の中に提供できます」

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デザイン思考の注意点

デザイン思考はメリットだけではありません。柴田さんはデザイン思考の限界も感じているそうです。デザイン思考を身に付ける上での注意点を紹介します。

デザイン思考の注意点①内発的な動機が生まれづらい

一つ目の注意点は、デザイン思考では内発的な動機が生まれづらい点にあります。

「知り合いが動画のクリエイターに好きな動画を作っていいよと言ったことがあるんです。でも、そうすると全然作れないらしくて。なぜ作れないかと言えば、お客さんのニーズばかり考えて動画を作ってきたからです。そのせいで自分の本当に作りたいものがわからなくなってしまったのだと言います。

同じことをさまざまなメーカーの方も言っています。お客さんのニーズに沿うサービスばかり生み出していると、自分が本当にやりたいことを見失ってしまう危険性があります。そうなると創造的で独創的なアイデアは生まれてきません」

デザイン思考の注意点②無用なものが増える

二つ目の注意点は、無用なものが増えていく可能性がある点です。

「例えばお客さんがあれもほしい、これもほしいと言うと、求めているものをまとめて多機能な商品・サービスを作ろうとする。しかし多機能にしたところで、お客さんにとって、ほとんどの機能は結局のところ不要な場合もあります。さらに、その商品やサービスの本質的な魅力からズレていってしまう。お客さんの視点だけを頼りにするには限界もあるのだと思います」

デザイン思考の5つのステップ

デザイン思考を実践するための5つのステップがあります。そのステップをそれぞれ簡単に紹介します。

共感(Empathize)

最初のステップは「共感(Empathize)」です。共感のためには、ユーザーの行動を観察、継続的にインタビューを行うなどによって、顧客の感情に寄り添い、本質的なニーズを発見します。

定義(Define)

ニーズを把握したら、「定義(Define)」のステップに移りましょう。ユーザーの視点から問題を設定します。共感のステップで理解できた、ユーザーのニーズに対応する課題として定義します。

概念化(Ideate)

次のステップは「概念化(Ideate)」です。設定した問題について、解決策を検討します。できるだけ数多くのアイデアを生み出せるように、ブレインストーミングなどを行います。

試作(Prototype)

「試作(Prototype)」では、概念化のステップで出てきたアイデアについて試作品を開発します。試作のステップで大切なのは、質にこだわりすぎず、手軽に開発することです。

テスト(Test)

試作品を使用して、実際にユーザーテストを行います。試作品の長所や欠点などのフィードバックを参考に、試作品に改良を加えてテストを続けるのがポイントです。ユーザーのニーズを満たしたサービスかを検討しましょう。

以上の5ステップを経て、新しいサービスや商品を生み出していきます。

デザイン思考の活用方法

デザイン思考を表面的に導入しても、仕事の質が突然高まるわけではありません。より効果的にデザイン思考を活かすためにどうすればよいでしょうか。

アート思考・ロジカル思考と組み合わせる

柴田さんはアート思考やロジカル思考と組み合わせることを提案しています。

「まず、アート思考を使って『こんなサービスをやってみたい』『こんな商品を作ってみたい』と内発的な動機から妄想を膨らませます。しかし、その妄想に対してユーザーのニーズがあるかはわかりません。そこでデザイン思考を利用してユーザーのニーズを把握します。

その結果、ユーザーのニーズもあると把握できたら、ロジカル思考を活用しましょう。生み出したサービスをどう生産し流通させるのか、どう広めていくのか、どうやって売り上げるのかを論理的に組み立てていく。その3つを組み合わせると、新しいサービスや商品を生み出す上でそれぞれの手法はより大きな効果を発揮するはずです。このプロセスが大切だと思います」

デザイン思考はみんな意識せずにやっている

「デザイン」と言われると、馴染みのない分野の人は身構えてしまうかもしれません。しかし柴田さんは「実はデザイン思考は普段からみんな意識せずにやっていること」と言います。友人とごはんに行くときに、想像(イマジネーション)を働かせて相手がどんなものが好きか気にしていれば、それもデザイン思考の一種です。ぜひ記事を参考に、ビジネスの場でもその思考方法を実践してみてください。

【プロフィール】
柴田雄一郎(しばた ゆういちろう)
新規事業専門のクリエイティブマネージャー。アート思考×デザイン思考を活用しトヨタ自動車のメタバース、経産省の「地域経済分析システム:RESAS」他、新規事業の企画・PMを担当。新規事業のアイデア創発、人才・組織開発などの研修実績9000人以上。「正解の見えない」時代で多くの企業に新規事業の開発やリスキリングが求められている中、 ビジネスフレームワークとしてクリエイティブ・マネジメント(アート思考×デザイン思考×ロジカル思考)の活用を推進している。

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