- その疲れの原因は? 「正しく休む」ために、理解を深めよう
- 「何もできない」になる前に。自分の疲れを自覚しよう
- 休むための環境を確保するために。勇気と判断力を持とう
- 自分だけの休養メソッドを作ろう
- まとめ
待ちに待った休日、やりたいことはたくさんあるのに、夜までダラダラと過ごしてしまう。休み明けもスッキリしないままで仕事のパフォーマンスが出せず、疲ればかりが溜まっていく……。こんな悪循環に陥っていませんか? 実はこれ、「休み方」が原因かもしれません。
今回は、『心療内科医が教える本当の休み方』(アスコム)の著者、秋葉原saveクリニックの鈴木裕介院長に「正しい休み方」を伺います。
その疲れの原因は? 「正しく休む」ために、理解を深めよう
休日、横になっている時間は長いはずなのに、疲れが取れている気がしない……。ビジネスパーソンがそんなお悩みを抱えがちなのは、なぜなのでしょうか。まずはその理由について、鈴木先生に解説いただきました。
真面目で気遣いができる人ほど疲れてしまう
「疲れには、大きく分けて『身体の疲れ』と『精神面の疲れ』の2種類があり、ビジネスパーソンが仕事で溜めがちなのは後者です。特に、仕事を任される有能な人や周囲との調和を意識しながら動く人など、一般的に『仕事ができる』と評価される人ほど疲れてしまう傾向にあります。これには、他者のニーズと自分のニーズのバランスがうまく取れず、他者のニーズにばかり応えてしまうという背景があります。
問題なのは、そういった人は周囲からの評価が高いため、バランスが悪い状態でもそれなりにやりがいや満足感を得られてしまうこと。けれど、そんな状態を続けていれば確実に心身を壊してしまいます」(鈴木先生・以下同)
「休めない」刺激は、自宅の中にも潜んでいる
「精神面の疲れ」が溜まったとしても、休日に自宅にこもって過ごせば回復できるのでは? と思いますよね。しかし鈴木先生によると、それには自分に合った休息方法を見極める「高度なスキルが必要」で、実行できている人は少ないのだそうです。
「人間の自律神経は『交感神経』と『副交感神経』の2つに分かれている、ということをご存知の方は多いかもしれませんね。簡単に言えば、交感神経には心身のアクセルを入れる働きがあり、副交感神経には心身に対するブレーキの役割があります。
本来なら、朝起きたら交感神経が優位になって行動を開始でき、夜になったら副交感神経が優位になって休めるといった具合で、心身のモードは自動的に切り替わるもの。しかし、スマホやPCで見ることの多い音楽や映像などのコンテンツの多くは、気持ちを高揚させる交感神経を優位にするものが多いです。
これらはストレス発散には役立ちますが、そういったものに没頭するあまり自宅にいても心身を休めることができていないケースが少なくありません。その場合、まずは今の自分に合った休み方を知って、疲労から抜け出す策を考えていく必要が出てきます」
「正しく休む」ためのプロセスを把握しよう
職場で知らず知らずに疲労を溜め込み、休日も心身に負担をかけ続けてしまう。そして、疲労により仕事のパフォーマンスが上がらず、さらに疲労が増大する。そんな悪循環から抜け出すには、「正しく休む」ためのプロセスを知ることが必要だと、鈴木先生は指摘します。
「ビジネスパーソンの方に実践いただきたいのは、こちらの3つのプロセスです。
- 「休みが必要」と自覚する
- 休める環境を確保する
- 自分に適した休養の仕方を選ぶ
それぞれについて、詳しく解説していきますね」
「何もできない」になる前に。自分の疲れを自覚しよう
まずは『「休みが必要」と自覚する』に関して、その重要性や自覚するためのポイントなどを、鈴木先生に解説していただきました。
「休まない」と、じきに「休めなくなる」?
「休んでいるはずなのに、なぜか調子が悪い……そう感じている方は多いと思います。この場合、精神面の疲れが蓄積している可能性が高いです。精神面での疲れの原因は、周囲からのストレス刺激によるもの。上司からの叱責や人間関係の悪化などはもちろん、昇進、結婚など、一見ハッピーな状況であっても、それによって引き起こされる環境変化がストレス刺激となっている場合もあります。
心身に不調を感じながらも、その原因が疲れだと自覚しないまま、適切な休養をせず無理を続けていると、『解離』と呼ばれる状態に陥ってしまいます。これは、その場をやり過ごすために、疲れやストレスに対する感度が鈍くなるという現象です。こうなるとさらに疲労が蓄積してしまい、回復までに長い時間が必要になるので、早めに疲れに気づくことが大切というわけです」
心身が発する「休みたい!」のサインを見逃さない
「意識できない疲れやストレスが溜まると、人それぞれではありますが、心理面、身体面、行動面のそれぞれに、マイナス要素が現れることが多いです。このマイナス要素を、心身が発するSOSサインとして、きちんと認識できるようにしておきましょう。
まず心理面であれば、落ち込んだり集中力がなくなったりイライラしたりします。そして身体面であれば、腹痛や頭痛、生理痛などの痛みとして現れることや、もともと持っているアレルギー反応が強く出ることも。さらに行動面の場合は、ミスが増える、お酒や食事の量が増える、言動が攻撃的になる、部屋が散らかる、といったことなどが挙げられます。こういったサインを感じたら、できるだけ早く休養をとるようにしましょう」
休むための環境を確保するために。勇気と判断力を持とう
自分の心身の状態を把握して、回復のための休みが必要だと判断したら、次は休むための環境を確保する必要があります。ただ、仕事をしているとどうしても周囲への忖度があったり、時にはプレッシャーを受けたりすることもあるでしょう。鈴木先生が掲げるポイントは、「勇気を持つこと」と「相談する相手を選ぶこと」の2つです。
「休みたい」と伝える勇気を持とう
「真面目な性格であればあるほど、自分の判断で休みたいと考えることに対して、甘えではないか……という不安や、引け目をもってしまいがち。けれど、先にもお話ししたように他者の期待に応えるだけでは自分がどんどんすり減ってしまい、そんな状態を続ければ必ず心身を壊してしまいます。繰り返しますが“必ず”です。その前に、休みたいと伝える勇気を持ってください」
上司や医師など、信頼できる相手を選んで相談をしよう!
「職場で心身の回復のための休みを取得する場合、上司や関連部署に相談をする必要がありますよね。また、職場での相談の前に、心療内科医や産業医など、プロの診断を仰ぐ場合もあるでしょう。そうした時に重要なのは、信頼できる相手を選ぶということです。
あなたの『休みたい』という訴えを、無視せずに聞いてくれる相手は誰なのか。ピンチの時に真摯に対応してくれる人を見極めることができれば、職場での人間関係の質の向上にもつながります。また、医師を頼る場合も同じことです。『あまり親身になってくれない』と感じたら、セカンドオピニオンも視野に入れるべきでしょう。とにかく、あなたのことをしっかりと慮ってくれる、信頼に足る相手を選ぶことを意識してください」
「正しく休む」ことができるのは、ビジネスパーソンの必須スキル
「ビジネスパーソンにとって、休むことはキャリアダウンに感じてしまうかもしれません。しかし、逆に私は『自分の限界に対する認知スキルが手に入った』という意味で、レベルアップにつながると感じています。必要な時に適切に休めれば、ビジネスパーソンとしての持続可能性だって高まるはずです。長い目で見てパフォーマンスを発揮できるのは、必要に応じて休む方法を身につけているビジネスパーソンだと思います」
自分だけの休養メソッドを作ろう
最後に、自分に適した休養の方法を考案するために、鈴木先生の提唱する方法をピックアップしてご紹介します。ただ、何よりもまず頼ってほしいのは医師、と鈴木先生は強調します。
「どのような休養の仕方が適しているのかは、個々人の性格や時々の状況により千差万別。もし、既に仕事をすることができないほど心身に深刻な影響が出ている状況であれば、自己判断はせず、心療内科医などプロに相談することが手堅い方法です」
これを踏まえた上で、休むためのさまざまな手法について、詳しく見ていきましょう。
「氷」と「炎」、自分のモードを把握してみる
「さきほど交感神経と副交感神経のお話をしましたが、実は最近の研究で、副交感神経は『背側迷走神経』と『腹側迷走神経』の2つに細分化できる、ということがわかってきました。副交感神経は心身のブレーキをかける役割を持っていますが、中でも腹側迷走神経が優位になると心身が安全・安心を感じてリラックスし、背側迷走神経が優位になると、さらに強いブレーキがかかり、無気力に近い状態になる、という説です。
私は、この背側迷走神経が優位の状態を『氷のモード』、交感神経が優位の状態を『炎のモード』と呼んでいます。どちらかのモードに振り切れたままだと心身が疲れてしまう可能性があるので、そこをうまく調整し、腹側迷走神経が優位な状態に持っていくことが重要、というわけです。
氷のモードの時は、ぼんやりしてしまう、目が開きづらくなる、といったケースがあります。この場合、軽い運動をして心拍数を上げたり、ゲームをしたり音楽を聴いたり、太陽の光を浴びたりなど、気分が高揚するような方法を取るとよいでしょう。
一方、炎のモードの場合は、ピリピリしてしまう、落ち着かない、といった状態に陥ることがあります。その時は、ゆっくりと呼吸をしたり、温かい湯船に浸かったり、静かな曲を聴いたりといった、リラックスするための手法をとることをおすすめします」
「BASIC Ph」をもとに、適切な回復行動について考える
「疲れやストレスで仕事のパフォーマンスが低下していることはなんとなく自覚できたけれど、休むための方法まではわからない……といった場合は、『BASIC Ph』と呼ばれる考え方を試してみてもいいかもしれません。
『BASIC Ph』は、
- Belief(信念)
- Affect(感情)
- Social(社会)
- Imagination(想像/創造)
- Cognition(認知)
- Physiology(身体)
の頭文字。簡単に言えば、『人が持つ、社会とのつながり方のタイプ』を端的に示したものです。例えば、自分は○○タイプだ!と把握できれば、自分に適した回復行動を見つけやすくなる、ということです。それぞれに適した行動は、下記の通りです。
- Belief:自分は大丈夫だと強く信じたり、なりたい姿を思い浮かべたりする
- Affect:喜怒哀楽などの感情を表現したり、楽しいことを見つけたりする
- Social:自分の能力を発揮したり、安らげるコミュニティとつながったりする
- Imagination:ドラマや映画の世界に没頭したり、絵や物語を創造したりする
- Cognition:情報を集め、物事の解決手段を考える
- Physiology:運動をしたりおいしいものを食べたりして身体にアプローチする
これらはあくまで可能性の話なので、いろんな方法を試してみて、自分にしっくりくるものを探してみるといいでしょう。こうした『自分助けの方法』を探したり開発したりするのに、医療や心理の専門家を頼るのも一つの方法です。」
引きこもるのは悪いことではない、と心得る
「ここまで挙げてきた休養方法を試したり、行動したりするにはある程度の体力や気力が必要です。休むことを考えるのもしんどくなり、何もできずに周囲をシャットアウトして、引きこもってしまうこともあるでしょう。実は、それも一種の回復行動です。何もできない状態になっても、決して自分を責めないでください。心身がリラックスして落ち着くまで時間をかけて着実に、気力と体力を回復していくことが何より大切なのです」
まとめ
さまざまなストレスにさらされることの多い、ビジネスの環境。残念ながら、心身の疲労を回避するのはなかなか難しいでしょう。だからこそ、自分の疲れを自覚し、疲れを溜めずにうまく休養していくことは、ビジネスパーソンにとって大切なスキルです。仕事で長く、良いパフォーマンスを発揮し続けるために、自分にとっての「正しい休み方」を模索してみてはいかがですか。
話を聞いた人:鈴木裕介 院長
内科医・心療内科医・産業医・公認心理師。2008年に高知大学医学部卒業後、一般内科、へき地医療などを経て、マネジメントを学びコンサルタントとして病院の組織改革に関わる。2018年、安心の拠点をコンセプトとした秋葉原saveクリニックを開院。
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