- 指示された作業をこなすことが目的になっていませんか?
- なぜ図で考えると本質が理解できるのか?
- 図で考えることのメリットは?
- 図を描くときにパソコンを使ってはいけない理由
- 2種類の図を使い分けて考えよう
- 基本を押さえて思考を見える化!使える4つの構成図を紹介
- 図で考える習慣を身につけるには、とにかくやってみることが大事
- まとめ
指示された作業をこなすことが目的になっていませんか?
新規プロジェクトの提案や課題の洗い出しなどを行う際、深く考えることができない、議論が深まらない、本質を見誤ってしまう……。仕事をしながら、このような悩みを抱えている人は多いでしょう。
なぜこうした弊害が生まれてしまうのでしょうか?
「その原因として考えられるのは、目的を考えずに、ただ目の前の作業をこなそうとしているから。
このような悩みを抱えている人は、企画を考えたり、課題の解決策を考えたりする際に、『これとこれを確認すればいいですよね』とか『どんな情報を集めればいいですか』と、作業の内容だけを上司に聞いてしまう傾向があります。
ですが、大切なのはどんな作業をするのかではなくて、最終的に何を達成するか。つまり、深く考えるためには何のためにこの作業をするのかという本質を理解する必要があるのです。
例えば、顧客に対して提案をするときでも転職先を選ぶときでも、何のためにそれをするのかということにフォーカスできれば成果はまるで変わります。
本質を理解していれば、指示されたやり方では効率が悪いから変えてみようとか、10個情報を集めろと言われたけれど、意味のある1個を深掘りすることで目標を達成できるとか、そういった気づきにもつながると思います」(平井さん・以下同)
なぜ図で考えると本質が理解できるのか?
確かに指示された作業をやるだけなら楽ですし、やり切ったことに満足できますが、深く考える姿勢は身につかない気がしますね。
「指示された作業をこなすことを優先して繰り返していると、深く考える姿勢はいつまでたっても身につかないでしょう。
効率を重視したいがために、そのようなスタンスをとっているのかもしれません。ですが、90%の意味のないことをやるよりも、10%の意味のあることを深掘りしたほうが、よっぽど効率的だと思いませんか。
そして、その際に役立つのが『図で考える』ことなんです。
図で考える場合、まずは現状の課題や問題点、これから何を考えなければいけないかを整理して書き出す必要があります。必然的に、その物事について深く考えることになるんです」
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図で考えることのメリットは?
平井さんは、深く考えてこれまでとは違ったやり方を発見したり、いいアイデアを生み出したりするために、図を使って考えることをおすすめしています。実際にどのようなメリットがあるのでしょうか?
「まず、物事の全体像を把握するのに役立つということです。図は、物事の関係性やメカニズム、論理のつながりなどを全体像で読み解くことができるものだと思っています。
図で表せるのは考えるべきことの全体であり、目の前で起きている現象の原因を探ることが可能です。
例えば、文章は一次元の鎖のようなもので、1行目と8行目が密接に関係していたとしても、よっぽど注意して読まないと気がつきません。
しかし、図に描き起こして物事や現象を構成する要素が見える化された状態であれば、全体を俯瞰して見ることができます。その結果、細かなつながりや問題点などに気づきやすくなるんです。
もう一つは、考える時間が増えるということです。深く考えるにはそれなりの時間が必要ですが、コピー用紙10枚分の文章を頭の中に入れておいて、それを取り出して考えるのは無理ですよね。
でも、1枚の紙に四角や三角で図を描いて考えれば、パッと思い出しやすい。移動中や入浴中など、どこでも考えられます。
大事なものを抽出し、抽象化していく図式化は、深く考えるプロセスに最も適した手法ではないでしょうか」
図で考えると世の中のあらゆる事象を理解できる
図式化するという思考プロセスは、ビジネス以外でも活用できるものなのでしょうか?
「図で考えると、目の前の現象だけでなくその裏にあるもの、例えばそれが生まれた背景や社会的な課題などが見えてきて、本当の意味での考える力が身につくはずです。
つまり、図を使って抽象化することによって、世の中のあらゆる事象に対して『これとこれは同じ構造をしていたんだ!』と気づけるようになるのです。
例えば、バブル崩壊はいろいろな分野で起こっていますよね。あれらには共通のメカニズムがある。それを理解できれば、似た現象が起きたときに、それに対処する方法が見えてくる。
実は、過去に起こった出来事と同じ構造の出来事が、現代でもたくさん起きています。
図で考えるクセがつくと、表面的な情報に振り回されず、本当は何を考えるべきかを探れるようになると考えています」
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図を描くときにパソコンを使ってはいけない理由
では、図で考える際にはどのような図を描けばよいのでしょうか?
「具体的なことは四角で、抽象的なことは丸で描くなど、私なりのルールがありますが、それは皆さんそれぞれがやりやすいようにアレンジすればいいですよ。
大切なのは、手で描くこと。
パワーポイントなどを用いてパソコンでも図は描けますが、そうすると丸をセンターに置くことや、図を塗りつぶすか塗りつぶさないかなど、どうしても作業に意識が向いてしまいます。
手で紙に思いついたままに描いていくのがポイントです。脳科学の分野でも、イメージの定着には手を使うのがいいとされています。
客観的に考えてみたい場合には、ホワイトボードも便利です。私はよく、図を描いたホワイトボードの前でウロウロして、考えることが多いですね」
2種類の図を使い分けて考えよう
思いつくままに描くと言われても、初心者はどうやればいいのか迷ってしまうかもしれません。どのような図を使えばよいのでしょうか?
「図には、大きく分けて概念図と構成図があります。概念図は形の決まっていない、自由演技の図とでも呼べるでしょうか。
例えば、考えなくてはいけないテーマがあったとして、それはどんな理論構造なのか、どんな軸で考えるといいか、テーマとの関係性はどうなのか。
そういったことを、一つひとつ、頭に浮かんだら描いていくのです。
つまり、頭の中のイメージを書き出していく、いわば落書きに近いイメージですね。ただし概念図は、図の完成に意味があるわけではなく、図を使いながら考えることに意味があるのが特徴です。
一方で、構成図は規定演技。型がいくつかあって、それをうまく使って議論を整理したり、関係性を明らかにしたり、全体像を把握したりすることができます。
型があることで、より効率的に思考や議論を深めることが可能になるんです」
基本を押さえて思考を見える化!使える4つの構成図を紹介
構成図には型があるとのことですが、具体的にはどのようなものなのでしょうか?
「初心者でも比較的使いやすい、ピラミッド、田の字、矢バネ、ループの4つを紹介しましょう。慣れてきたらこれらを組み合わせたり、行ったり来たりしながら考えたりして使ってみてください」
ピラミッド
「原因の把握や仮説の構築にとても適した図です。物事や現象を構成しているものを分解していくことで、真理に迫るアプローチができます。
例えば、『営業成績がなかなか上がらない』という課題があったときに、その課題を頂点として、考え得る原因をピラミッドの下にいくつも出していく。その中で果たしてどれが重要なのかを見極めるのです。
『これは重要だけれど、これはそうでもない』といったように、挙げた原因を分別することもできる。
そうすれば、力を入れるべきこと、そうでないことが明確になって、仕事の効率が上がります」
田の字
「読んで字のごとく、正方形を4つに区切った『田』の字のような図形です。
これは、現状を整理するのに適しています。今の状況を何と何の軸で見るのがいいのかを考えることができ、大事な軸を浮かび上がらせることができます。
ビジネスで使うならば、例えば新規事業の可能性を探る際などに有効です。
縦軸に『市場の大きさ』、横軸に『自社の強み』を置くと、『市場が大きく、自社の強みも大きい分野でやってみよう』とか『市場は小さいけれど、自社の強みが生かせるニッチな分野で攻めよう』といった方向性を定めることができるでしょう。
いろいろな軸を試して、議論を深めていくのがおすすめです。
パッと見て分かりやすいので、他者との共通認識をつくりやすいのも特徴。田の字を用いてコミュニケーションをしながら、議論を進めるといいと思います」
矢バネ
「尖っている方向を進行方向として、物事の流れを捉えることに適した図形です。
ピラミッドや田の字は静的な図形といえますが、矢バネは動的。過程を分解したり、過程における課題を抽出したりする際に便利です。
例えばビジネスで計画を策定・実行していく場面。この過程を分解すると、現状分析、あるべき姿の設定、打ち手の検討、意思決定、実行、モニタリングと6段階に分かれます。
このうち、どこに課題があるのかを見つけることができるのです。ビジネスシーンでも、業務フローの改善点を見つけることなどができるでしょう。
改善点を見つけるだけでなく、非効率な過程をなくしてしまう、順番を入れ替えてみる、人材や予算の分配を変えてみるなど、さまざまな課題解決が可能です。
企業にとっても個人にとっても、現状のフローにメスを入れることは、大きな変化をもたらすもの。静的な視点で物事を見がちなビジネスシーンにおいて、矢バネがもつ動的な視点は、ダイナミックかつ新鮮な効果を生みます」
ループ
出典『武器としての図で考える習慣 「抽象化思考」のレッスン』東洋経済新報社
「4つの型の中で、どれが最も重要かと聞かれたら、私はループと答えるでしょう。ループを使うと物事の本質や構造、因果を読み解くことができます。
つまり、図で考えることのメリットである、全体像や関係性の把握、メカニズム、現象と現象のつながりなどを端的に表すことができるのが、この型です。
ループで描いたものから重要なところを抽出して、ピラミッドや田の字で考えるといった発展的な使い方もできるでしょう。
世の中のあらゆる現象には、何らかのメカニズムが存在します。
それはたいてい、インプットとアウトプットでつながっている。インプットしてアウトプットしたものが、またインプットに戻っていくような、複雑な構造をしているのです」
図で考える習慣を身につけるには、とにかくやってみることが大事
図で考える習慣を身につけるために、普段からできることはありますか?
「鉛筆1本、紙1枚を持って、とにかくやってみてください。
物事を深く考えるということは、問題を与えられて、どう解こうか考えることとは違い、前提となる問題設定から自分でしなければならない。だからとても苦しいし、難しいことなのです。
それに少し話を聞いたからといって、すぐできるようになるものでもありません。私自身、いまだに苦しみながらずっとチャレンジし続けています。きっと定年するまで続くんでしょうね。
でも、図で考えることによって、意思決定のクオリティが高まったり、できることの価値が増大したり、イノベーティブなアイデアが生み出せたりする可能性がある。
だとすれば、やる意味は大きいのではないでしょうか」
まとめ
最後に、「図を描くことをゴールにしないで」と平井さんはアドバイスします。
「プロセスから学び、新しい気づきを得ることが重要です。
繰り返しになりますが、図で考えることは一朝一夕でできることではありませんから、ぜひ継続してください。簡単にできることだったら差別化になりませんよね。
誰にでも容易くできないことだからこそ、身につける価値があるのです。
ビジネスにおいては、いろんな本を読んで左脳的に知識を吸収することはもちろん大切です。でも、もし現状を変えたい、もっと成長したいと思うのなら、右脳的に図で考えることにも挑戦してみてください」
話を聞いた人:平井孝志さん
筑波大学大学院ビジネスサイエンス系教授。東京大学教養学部卒、同大学院理学系研究科修士課程を修了。その後マサチューセッツ工科大学(MIT)MBA。早稲田大学より博士(学術)。ベイン・アンド・カンパニー(シニアコンサルタント)、デル株式会社(法人マーケティングディレクター)、スターバックス(経営企画部門長)、ローランド・ベルガー(執行役員シニアパートナー)などを経て現職。現在では、経営戦略などをはじめとした企業研修なども手がけている。近著には『武器としての図で考える経営』(東洋経済新報社)がある。
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