“現代の魔法使い”メディアアーティスト落合陽一の人生に影響を与えた3冊とは?

メディアアーティスト、研究者、実業家……。若干28歳にしてさまざまな分野で活躍し、“現代の魔法使い”という異名を持つ落合陽一さん。

“現代の魔法使い”メディアアーティスト落合陽一の人生に影響を与えた3冊とは?

メディアアーティスト、研究者、実業家……。若干28歳にしてさまざまな分野で活躍し、“現代の魔法使い”という異名を持つ落合陽一さん。

昨年には、「現代」を人々が映像を通して現実を共有することでつながる「映像の世紀」から、環境に溶け込んだメディアが偏在する「魔法の世紀」への転換点として分析した『魔法の世紀』を発売し、話題となりました。

そんな落合さんはこれまで、どのような本を読んできたのでしょうか。自身の人生に影響を与えた3冊を聞いてみました。

読書は「飲み食い」よりコストが低い娯楽


─メディアアーティストという肩書きを名乗るようになったのは、いつからですか?

「小さいときから科学とアートが好きで、熱心にのめり込んでいました。大学時代にメディアアーティストという、科学とアートがどちらも出来るような職業があることを知り、『表現するための工学/工学を使った表現』の面白さを感じました。

それからはずっとコンピュータと工学と作品制作をしています。海外で展示をしたり、作品を作ったり、論文を書いたりしているうちに、現在の教員と実業とアーティストというポジションになりました。

好きなことをやれているという感覚があるため、1日中仕事のことだけを考えていても苦にならないところがいいなと思っています」


─これまでどのような本を読みどんな作家に影響を受けましたか?


「10代のころは自分がいったい何になるのかよく分からなかったのでニーチェとかゲーテとか読んでましたね。あと原稿の進みとか論文の進みが悪いとき、は村上春樹さんの小説を読んでいました。村上さんの本って読むと“言葉の出”が良くなるんですよ。一人称で語られ続ける文章なので、こっちも語りたくなるというか(笑)。

大学のころは文庫本を1日1冊くらいは読んでいましたが、それでもかかる費用はせいぜい一冊1,000円くらいのもの。お酒飲みに行ったりご飯食べに行ったりするより安上がりな上に、すごく楽しい娯楽だなぁと思います」


─20代の読者が面白いと思える本に巡り合うためのヒントがあれば教えてください。


「面白い本を探すより、面白い作家を探すのがコツだと思っています。毎日1冊読み終えると考えると、1週間は付き合える作家が欲しくなる。そうすると必然的に作家選びが大切になってくるのです。

面白い作家を見つけるコツは、やっぱりある程度の作品の量がある作家と思っています。ある程度の量を書き、出版しているということは、時の選別を超えて支持されているということです。そんな作家の代表作から読み出せばハズレはないかなと思いますよ」

若さゆえの危なげな覚悟が必要なときが人生にはあるんです


イリヤの空、UFOの夏』秋山瑞人著 アスキー・メディアワークス


「表紙のイラストを見て、ライトノベルと侮ることなかれ。著者である秋山瑞人の文体は秀逸で、有名文芸誌に作品の書評が載るほどです。

UFOの研究がされているといううわさの空軍基地の町、園原町が舞台で、主人公の少年浅羽が夏休みの最後の日にプールに忍び込んだことで、ある不思議な少女と出会うという物語。『オカルトとSFと夏休みと恋が嫌いな男の子はいない』と言わんばかりに、10代の少年がときめくあらゆるものを詰め込んだボーイ・ミーツ・ガールの小説です。

主人公・浅羽と同い年の中学生2年生のときに初めて読んだのですが、そのときは主人公に、20歳を迎えるころには主人公の先輩の水前寺に、ハタチを越えてからは、自衛官の榎本に感情移入して読みました。飛行機移動が多いのですが、Kindleに入れていつも持ち歩いています。最後に小説から好きな一節を紹介します。

『今さら後には引けず、絶対に怯んではならず、一歩たりとも譲ってはならない』

こういう青い覚悟が重要なときって、人生に必ずあると思うんですよね」

今ニーチェが生きていたら……と想像して読みます


ツァラトゥストラかく語りき』ニーチェ著 佐々木中訳 河出書房新社


「ニーチェの思想の“マッチョ感“が好きで、励ましてほしいときや覚悟が足らないときにこの本を手に取ります。これもKindleに入れていつも持ち歩いていますね。

ニーチェは主体的に自らの価値観を肯定していけるような人を『超人』と表現していましたが、今この時代に生きていたらメディアだったりインターネットだったり、集合的知性にまつわるルサンチマン(同調圧力)を分析していった可能性や、インターネット社会の神を仮定したりしていた可能性があると思うんですよね」

『魔法の世紀』を記す上で指針とした本


デカルトからベイトソンへ 世界の再魔術化』モリス・バーマン著 柴田元幸訳 国文社


「『魔法』という言葉でコンピュータと社会変化をつなげようと思ったきっかけの本です。拙書『魔法の世紀』もこの引用から始まっていますし、僕のここ数年の行動指針になっています。

1989年に発売されたこの本は、16世紀から現代に至るまでのデカルト的近代合理主義・近代科学思想と、それに対抗しうるベイトソンの思想や解釈を体系的に表した本で、『高度に専門化していく社会は徐々に“魔術化”(※)していく』というテーゼのもと、記されています。

発売から20年近く経ったいまこの本を読むと、コンピュータ・インターネット・スマホなど、そして情報サービスや労働環境と、あらゆる側面でこの社会が“再魔術化”していると思えるでしょうし、きっと人間中心主義を離脱し、納得できるような部分がたくさんある気がします。精神・物質・身体を合一化させて記述していこうとする本書の世界観に強く共感します」

※魔術化:理由は分からないが結果が使えること。ブラックボックス化・API化。

まとめ


いかがでしたでしょうか? 落合陽一さんの人生や価値観に影響を与えた本や読書観を参考に、これからの社会や自分の未来の空想にふけってみてはいかがでしょうか?


※この記事は2016/03/30にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています

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