- 「仕事を教えること」は、実は簡単じゃない!
- 教える力を身につけることは自分の価値を高めること
- 覚えておくべき「教え方」の基本
- 明日から実践できる!体系的な仕事の「教え方」
- 正しい「教え方」を身につけるために、これだけは気をつけて!
- まとめ
「仕事を教えること」は、実は簡単じゃない!
濱田さんは、コミュニケーション講師として年間150回以上、「教え方」についての研修や講演をされているとのこと。
「教え下手」な人は、相手に情報の雨を降らせているだけ
仕事を教えることが下手な人には、共通点があるのでしょうか?
「その場その場で、断片的に教えてしまうことが共通の特徴ですね。
私は以前住宅リフォームの会社に勤めていて、20代で初めて後輩を指導したのですが、今思うとダメな教え方だったと反省しています。
さまざまな専門用語を覚えないと仕事にならないため、現場に後輩を連れて行っては、目についたものの名称を片っ端から教えていました。
こちらとしては熱心に指導しているつもりでしたが、後輩からしたら断片的な情報が雨あられのように降ってくるので受け止めきれないのです。
教え上手は部下への指導を”プロジェクト”だと考えている
物ごとを教えるには、きちんと計画を立てて準備して、体系的に伝えないといけません。
でも、多くの企業で行われているOJT式の指導は、上司が現場で仕事をしながら部下の指導に時間を割く方法ですから、教える側の状況に左右されるので体系化された教え方にはなりづらいのが現状です。
一方で、教えるのが上手な人は部下への指導を1つのプロジェクトと捉えてやっている。プロジェクトだと思えば、準備や進め方などを体系的に考えて行動に移しますよね。
部下への指導を重要な仕事ではなく雑用のように捉えていると、どうしても即興的になってしまいます。そこが大きな差ですね」
教える力を身につけることは自分の価値を高めること
ビジネスパーソンにとって、正しい「教え方」を身につけることは、どのような意味がありますか?
「人を育てる力があることは、ビジネスパーソンの大きな武器になるでしょう。会社が求める人材は、“仕事ができる人”か“仕事ができる人を育てられる人”の2つしかないからです。
人を育てる力があれば会社に対して存在価値を示せます。それに、もしその人がマネージャーだけでなくプレイヤーとしても優秀であれば、鬼に金棒ですよね。
教える技術を向上させることは、ビジネススキルの総合力を上げることにもつながるでしょう。例えば、他者に分かりやすく、体系的に物ごとを伝える力として『発信力』が身につくとプレゼン技術が上がります。
さらには、相手が何を求めているのかを引き出したり、相手の状況や性格に合わせて教えたりすることで『受信力』や『対人関係の対応力』も向上します。
実は、教える力を適切に身につけること、教え上手になることは、自分自身の価値を高めることにもなるのです」
覚えておくべき「教え方」の基本
具体的な教え方のテクニックをご教示いただく前に、前提として覚えておくべき基本とは、どのようなことでしょうか?
「教えることは、“設定したゴールに相手を運ぶため、知識、技術を付与し、意識を高めること”であると理解しておいてください。
例えば、粘土細工はただ粘土をこね続けるだけでは何の形にもなりませんよね。ゴールを設定しないで教えるのは、考えなく粘土をこねているのと同じこと。
自分自身はもちろん、教える相手にもゴールイメージを共有することが重要です。そのうえで、ゴールに到達するために必要なことは何なのかを考えます。
どんな知識、どんな技術が必要で、どんな意識を持って取り組むべきなのか。ゴールから逆算し、整理して、教えます。
“習うより慣れろ”で育ってきた人は、こうしたロジカルな教わり方をしていないので、感覚でやってしまう。それでは失敗につながることが多いのです」
知識・技術・意識は3点セットで初めて意味を成す
濱田さんの著書では、知識(ティーチング)、技術(トレーニング)、意識(コーチング)の3つは関わり合っているため、必ずセットで考えるようにと示されています。
その理由を教えていただけますか?
「自動車などの部品の塗装を手がける企業を例に解説します。
例えば、塗装を担当する技術者は、どんどん性能のいい新しい塗料が出てくるため、さまざまな知識を常にアップデートしていかなければなりません。
とはいえ、そうした知識を蓄えても、塗る技術が低ければベストな作業はできませんよね。その逆も然り、技術が高くても知識がなければ適切な作業はできないのです。
また、もし知識と技術が高かったとしても『見えないところに使われる部品だから、適当に作業すればいいや』という意識を持っていたら、出来はよくなりません。
すなわち、知識・技術・意識が3つセットでなければいい仕事ができないのです。だからこそ、これらをすべて教えることが重要。どの業種にももれなく当てはまります」
明日から実践できる!体系的な仕事の「教え方」
教え方の前提を理解したところで、そろそろ具体的なテクニックについて触れていきます。
知識(ティーチング)、技術(トレーニング)、意識(コーチング)のそれぞれについて、教え方の手順やポイントを教えていただけますか。
知識(ティーチング)は、教える前と後が肝心
知識(ティーチング)は、次のような手順で教えます。手順ごとのポイントについてもそれぞれ見てきましょう。
①動機づけ
②説明
③効果測定
〈手順ごとのポイント〉
・動機づけ
「まずは、『今から教える知識がこの先、どこでどんなふうに役立つのか』を伝えることで、相手のモチベーションを上げます。
最近は、20代前半くらいの世代の『タイパ志向』も話題ですよね。ですから、いつ使うのか分からない知識として伝えると、その場で覚えることに重要性を感じない傾向にあると考えています。
一方、『来週1人でやってもらうから、覚えておいてね』と言われたら、一生懸命に覚えようとしますよね。
動機づけをするかしないかで、その後の集中度が大きく変わります。10秒ほどでできますから、ぜひやってみてください」
・説明
「自社商品の特徴を説明するにしても、客先での営業トークを説明するにしても、情報を単純に羅列するだけでは頭に入りにくいもの。ですから、『全体から話す』『結論から話す』のがポイントです。
例えば、自社商品の特徴を説明する場合。『当社の商品には、◎◎と△△、○○、◇◇があって……』と、一つひとつ説明するのでは情報を整理できません。
そこで、『当社には大きく分けて3つの商品群があります。1つは事務用品で、◎◎と△△、○○など。もう1つは……』と、全体から話せば教えられる側も頭の中を整理し、メモもとりやすくなるでしょう」
・効果測定
「説明したから理解しただろうと思うのは、楽観的過ぎます。説明したあとには、教わった側が理解したかどうかを確認しましょう。
例えば、研修を前半と後半に分け、『前半30分で学んだことを確認しましょう』と後半に参加者に質問したり、問題を出したりして成果をチェックしてください」
技術(トレーニング)は、フィードバックの内容が鍵
技術(トレーニング)は、次のような手順で教えるのがおすすめです。それぞれのポイントについても見ていきましょう。
①動機づけ
②やってみせ
③説いて聞かせて
④させてみて
⑤ほめて
⑥見届ける
〈技術(トレーニング)の手順ごとのポイント〉
・動機づけ
「ティーチングと同様です」
・やってみせ
「言葉通り、実際に自分が教える相手に手本を見せます」
・説いて聞かせて
「ティーチングと同様に、やり方を説明します。ここでおすすめするのは、『なぜこうするのか』の理由を加えて説明すること。
例えば、名刺交換のやり方なら『名刺はこっち向きで差し出して』と言うだけよりも、『相手が自分の名前を読みやすいように、こっちの向きで差しだすんだよ』と理由も添えたほうが納得感を持って覚えることができ、忘れにくくなります」
・させてみて
「教えた相手に、実際にやってみてもらいましょう」
・ほめて
「ここでは『ほめて』となっていますが、ほめるだけでなく、要改善点も知らせる“フィードバック”をします。
このとき、多くの人は『あれがダメ』『これがダメ』と、悪いところばかりを指摘しがちです。しかしそれでは、教わる側は説教をされている気分になってしまいます。
相手のモチベーションを下げないよう、『ここはちゃんとできていたよ』と、まずはできたところをほめてからください。
その後、『もう少しここをこうしたら、よくなるよ』とダメだった点を伝えて反復練習させ、仕上げましょう」
・見届ける
「現場でしっかり実践できているか、見守ってください」
意識(コーチング)は、相手に合わせて引き出すのが肝心
「ティーチングとトレーニングは教える側が発信し、“相手に伝える”ものでした。一方、意識(コーチング)は相手から“意識を引き出す”ものなので、全く別の指導法です。
コーチングに必要な『質問』と『傾聴』について意識すべきポイントを見ていきましょう」
・質問
「答えやすい質問を投げかけて、教わる側の本音を引き出します。
質問で大切なのは、『オープン質問』をすること。例えば、『分からないことはありますか?』と聞くと、もしあっても相手は『特にないです』などと答えてしまいがちです。
でも、『強いて言えば気になることは何ですか?』と困りごとがある前提で聞くと、『そうですね……。強いて言えば、〇〇でしょうか』と自然と話を引き出すことができます。
まずは、『ありますか?』を『何ですか?』に変えていくことから始めてみましょう。
慣れてきたら、5W2H(When・Where・Who・What・Why・How・How many)を意識して質問をするように心がけてください」
・傾聴
「教える側が丁寧に話を聞くことによって、教わる側が安心して話しやすい状態をつくります。傾聴には、『しっかり相手の目を見て話す』『相手のペースに合わせて相づちを打つ』の2点が大切です。
相手のペースに合わせた相づちのコツをつかむには、YouTubeなどの動画を見ながら練習をするのがおすすめです。カメラに向かって、話している出演者の顔の上下に合わせてうなずくようにしてみてください。
また、『質問』のポイントで挙げたオープン質問と傾聴を組み合わせると、相乗効果が生まれます。
オープン質問をすると、相手は自分の考えを話すようになるので、それを傾聴すれば、相手は「丁寧に聞いてくれるし、話しやすい」と感じて、さらにたくさん話してくれるでしょう。
こうして、いいループに入っていき、教える側は相手から多くを引き出すことができるのです。
傾聴を続ける中で何かしらの課題を見つけた時、『これからどうする?』『何がしたい?』などと尋ねても、相手が『分かりません』と答える場合もあるでしょう。
そのときは、解決を急ぐ必要はありません。
『難しいよね。じゃあ一緒に考えていこう』と会話を終わらせてもいいのです。課題や悩みを共有できただけでも大成功なので、相手に少し時間を与えて、考えてもらいましょう」
正しい「教え方」を身につけるために、これだけは気をつけて!
今までのことを踏まえて実際に教える際に注意すべきことは何かありますか?
「“教えてあげる”という姿勢では、すべてがうまくいきません。そういったマインドでは準備もしないでしょうし、教える相手にダメ出しばかりするでしょう。
例えば、『新入社員を3年でここまで成長させる』といったプロジェクトだと考え、成功のために段取りを組んで教えていく。それが結果的に、自分の指導力とビジネススキルを高めることにもつながります。
積極的に取り組む姿勢で教えてみてください」
リモート環境で教える場合には、工夫が必要
最近はリモートでの研修なども増えていますが、オンラインで教える際のコツはありますか?
「まず、ティーチングは、内容の細分化がポイント。伝えることが多いとWebセミナーを聞いているだけのような状態になってしまいがちです。
1テーマを15分くらいで伝えるようにして、1度説明を止めて効果測定をはさむなど工夫してみましょう。
次にトレーニングは、やってみせたり、相手にやってみてもらったりと互いに動作を見せ合う必要がありますから、カメラの位置を調整するなど環境をしっかりと整えてください。
コーチングでは、リモートであることのデメリットを、むしろメリットとして活用しましょう。
リモートでの会話は合間でリアクションをとったり、話を遮ったりすることがしづらいため、相手の話をじっくりと聞くことができます。
なので、リモート環境はコーチングで肝心な『傾聴』がしやすい環境なのです。この環境を利活用し、リモートでのコーチングでは聞くことに徹して、相手の本音を引き出しましょう」
まとめ
教えることが上手になれば、確実に自分も成長できると濱田さんは言います。
「教える立場の人は、教わる側よりも数段上の知識や技術、意識を持っていなくてはなりません。だからこそ自分自身があらためて学ぶことにつながり、成長できるのです。
それに後輩や部下から『あの人に教わりたい』と言ってもらえたら、うれしいですよね。ぜひともそこを目指すようにしてみましょう」
著 濱田 秀彦
発行 アルク
話を聞いた人:濱田秀彦
株式会社ヒューマンテック代表取締役。早稲田大学教育学部卒業後、住宅リフォーム会社に就職し、最年少支店長を経て大手人材開発会社に転職。トップセールスマンとなり、平成9年に独立。現在では、マネジメント、コミュニケーション研修講師として、階層別教育やプレゼンテーション、話し方などの分野で年間150回以上の講演やセミナーを行っている。主な著書は『仕事を教えることになったら読む本』(アルク)など多数。
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