「やる気」は無理に出さなくてもいい!? 頑張らなくても仕事に取りかかれる新常識

「リモートワーク中にとりあえず机に向かってみても、実際に始業をするまで時間がかかる」「いろいろなルーティーンを試しているけど、仕事を始める際にやる気が出ない」といったように、日々やる気が出ないことに悩んでいるビジネスパーソンは少なくないでしょう。そんな人たちに朗報です。実は、やる気がなくても行動できるし、成果を出すことはできるんです。そう語るのは、『神モチベーション「やる気」しだいで人生は思い通り』がベストセラーになっている著者で、ビジネスコンサルタント・麗澤大学客員教授の星渉さん。「やる気」に囚われずに行動を起こせる、目からウロコの行動論について伺います。

前向きに出社する様子

「やる気」は行動を生む要因の1つに過ぎない

行動を示したイラスト

メンタルやモチベーションに関する数々のベストセラー著書をお持ちの星さんには、若手ビジネスパーソンから「やる気」に関わるお悩みがたくさん届いているのではないでしょうか。

「そうですね。仕事に行きたくない、任された仕事に一生懸命になれない……など、さまざまな声が寄せられます。そういう人たちに共通しているのが、『やる気』がないとダメだと思ってしまっていること。“すべてはやる気さえあればうまくいく”、“やる気さえ出せれば未来は明るい”と思い込んでいるから、そうでない自分を責めたり、それを言い訳にしたりしてしまうのです」(星さん・以下同)

なるほど。過度な「やる気信仰」のようなものがあるんですね。でもやはり、やる気は必要なものではないんですか?

「いいえ、そんなことはありません。やる気なんてなくても、行動さえできればいい。“やる気はあふれているのに、全然行動しない”のと、“やる気がなくてもきちんと行動する”のとでは、どちらが良いでしょうか。断然、後者ですよね。後者のほうが成果を出せるし、実際に評価されている。それに、それが仕事であれば収入も得られます。私が言いたいのは、行動とやる気を切り分けて考えるべきだということ。本質はやる気の有無ではないと知るべきなのです

やる気がなくてもいいというのは、これまでになかった考え方なので、驚きです。

「確かに、やる気があるに越したことはありませんが、ビジネスパーソンにとって必要なのは、行動して成果を生むことです。やる気は、行動につながる1つの方法としてあるだけと認識してください。行動を起こすための方法としては、例えば締め切りに間に合わせたいと思う気持ちや周囲からの期待の声、集団心理を用いたチームでの行動、リマインドなど、ほかにもたくさんあるので、やる気に頼らずともそれ以外の選択肢をうまく使えばいいのです」

3種類の行動原理を理解して、簡単なものを試すべし

やるべきことを選択して行動に移すイメージ

やる気に頼らずに行動を起こすためには、どのようなことを意識すればいいのでしょうか。

「行動につながる要因(行動原理)を仮に『モチベーション』と呼ぶとすると、それには3つの種類があると私は考えています。やる気に起因する『ハイモチベーション』と、行動がさらなる行動を生む『アクションモチベーション』。そして、理想と現実の差を埋めようとする『ギャップモチベーション』です

それぞれ、どんなものなのか、教えていただけますか?

継続が難しい「ハイモチベーション」と「アクションモチベーション」

「『ハイモチベーション』は、何かに感化されて“よし、やるぞ!”と上がったテンションを燃料に行動を起こすようなモチベーションです。皆さんがこれまでなんとかテンションを上げて行動を起こしてきたように、やる気が必要となります。

ただし、三日坊主はこのパターンなんです。人間には恒常性機能という、身体のあらゆるものを常に一定の状態に保っておこうとする機能が備わっています。熱が上がると汗をかいて体温を下げようとするのはこの機能のおかげ。それと同様に、テンションが一時的に上がると身体が反応して、それを元に戻そうと働きます。だから、『ハイモチベーション』では、瞬間的に行動は起こせても長続きしないのです」

三日坊主は生理反応だったわけですね。続かない理由がよく分かりました。

「次に、『アクションモチベーション』は、まず何かしら行動を起こせば、さらに行動が促されていくというもの。これは最も生み出しにくいモチベーションだと思います。そもそも、最初の行動ができないから困っているのに、まず行動しろというのはハードルが高いですよね」

脳の原理を利用した「ギャップモチベーション」ならうまくいく

そうすると、「ギャップモチベーション」がベストなのですね。これはどのようなものなのでしょうか?

「人間の脳には、理想の未来や過去の経験と現在を比較して、その差(ギャップ)を埋めようとする癖が備わっています。それをうまく活用するのが、『ギャップモチベーション』です。

例えば、最終電車が出るギリギリの時間に帰っているとしましょう。無事に電車に間に合っている状態が理想ですから、それができなさそうならば、自然と駅まで走りますよね。そこで 、“やる気が出ないから”走らないなんてことはなりません。つまり、そこにやる気はまったく関係していないわけです。

また、ビジネスシーンで例えると、過去に何かのプレゼンで上司に叱られたことがあったとします。次のプレゼンでは同じ指摘をされないように、自然と叱られたポイントを回避・改善して臨みますよね。過去に叱られたけど“やる気が出ないから”、改善せずにプレゼンを行うということにはなりません。つまり、これもやる気を使ってしている行動ではないんです。

どちらも、終電を逃すという未来や、叱られた経験という過去と現在のギャップを埋めるために、自然としている行動ですよね。この原理を用いれば、無理に頑張らなくとも行動を起こすことができるんです」

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「やる気」がなくても行動できる!「ギャップモチベーション」の活用方法

スキルアップのため行動に移している様子

「ギャップモチベーション」を駆使して、やる気を用いずに行動を起こす方法を教えていただけますか。

現在とのギャップを生み出す

「行動の起点となるギャップには、未来と過去の2つがあると説明しました。私はこれを、それぞれ『未来記憶』『過去記憶』と呼んでいます。これらをどれだけ具体的に持っておくかが、『ギャップモチベーション』を活用するポイントです。

まずは、自分にとって理想の未来の姿である『未来記憶』、もしくは過去の経験や実績から『過去記憶』を設定しましょう。

例えば、『未来記憶』であれば“自分が出した新規企画が実現し、多くの反響を得て昇給につながる”、『過去記憶』であれば“過去に自分が提案した企画が通って上司によろこばれた上、自分もうれしかったから、今回はよりブラッシュアップした企画を提案する”など。このように記憶を設定し、現在とのギャップを生み出します」

「未来記憶」「過去記憶」は“五感”を使った鮮明なイメージのこと

「『未来記憶』は“なりたい理想の未来”ですから、『目標』と近いかもしれません。でも、同じものではないと考えています。『目標』が文字で表す未来だとしたら、『未来記憶』は五感を使った鮮明なイメージです。

それを達成したときに、“目の前に喜んでいる人がいる(視覚)”、“胸がドキドキして興奮している(触覚)”、“みんなに『おめでとう!』と言われ、拍手を浴びている(聴覚)”といったように、なるべく五感情報で未来を想像して記憶する。それによって、未来の状態とのギャップがより明確になり、行動につながりやすくなります。

『過去記憶』も同様です。成功体験も失敗体験も、五感でしっかり記憶しておくことによって、それを起点にギャップを埋めようとする意識が働きやすくなるんです」

つまり、人は『未来記憶』『過去記憶』のどちらにしても、そのギャップを埋めようと、自然と行動を起こせるということなんですね。

「そうです。例えば、“商談がうまくいって成約数が増え、上司が褒めてくれている”という『未来記憶』を設定するとします。その理想の未来の実現のためのギャップを埋めるべく、“専門知識を深めるために参考書を通勤時間に少しずつ読もう”、“コミュニケーション力を上げるために日ごろから相手の目を見てあいさつするように心がけよう”などを、やる気に頼ることなく、行動を起こせるんです」

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「やる気」ゼロのままで最初の一歩を踏み出すコツは?

ビジネスで最初の一歩を踏み出す様子

なるほど。では、「ギャップモチベーション」を活用して、やる気を使わずに行動を起こす際の、“最初の一歩”を踏み出すコツについて教えていただけますか。

プロセスを「分解」すれば、心理的負担が解消される

まずは、設定した記憶の達成までのプロセスを分解しましょう。例えば、いきなり自動車を作るのはハードルが高いですが、自動車に使うネジを1つ作るなら、できそうに思えますよね。同じように、新規の企画を立てる際も、過去の企画のリサーチをする、アンケートを作成する、市場分析をする……といったように、プロセスを細かく分けて1つずつ取り組むことを理解すれば、気持ちが楽になるはずです

プロセスを「簡略化」すれば、1歩目がラクに踏み出せる

「そして、『簡略化』です。文字通り、行動を簡単なものにすること。私は腕立て伏せ、腹筋、スクワットを日課にしているけれど、やる気はまったく使っていません。腕立て伏せは毎日30回を2セットやっていますが、やる際には“1回だけやろう”という気持ちで臨みます。1回なら簡単だから、やろうと思えますよね。そしていざ床に四つ這いになったら、“せっかく四つ這いになったんだから、1回だけじゃもったいないよな”と思い、数をこなそうとするのです。

人間には、かけた労力や費用を回収しようとする習性があり、それを利用しているんです。例えば、“新規企画提案のための最新情報やトレンド調査のインプットをしたいけどその時間がとれない”のならば、『インプットの時間を、出勤前にしっかり30分間とろう』と心がけるのではなく、通勤中にスマホでニュースアプリを開いてしまう。そうしたら、“せっかく開いたし、見てみるか”という気持ちが起こるはずです」

すでに「一歩踏み出している人」の近くに行く

「ほかには、行動できている人たちの中に身を置くこともおすすめです。人間は社会的動物ですから、なんとか環境に適応しようとします。すでに一歩を踏み出して、成果を出している人たちが近くにいることで、その人たちと自分とのギャップを感じ、それを埋めようと彼らの行動を真似たり、自ら行動したりするようになるものなのです」

知っておきたい!「やる気」ゼロで行動を継続するポイント

前向きに行動に移す若手社員の様子

行動を起こせても、それを継続することはまた別の話のような気がします。継続のためのポイントはありますか?

成果ではなくプロセスを見て、自分を褒める

「どんなささいなことでも、何か行動したらその都度、大げさに自分を褒めてあげてください。プロセスをポジティブに捉えることができれば、次の行動につながりやすくなります。

私はセミナーのスライドを作成し終えたとか、スタッフに事務連絡のメールを送ったとか、そうした一つひとつの行動に対して、“よくやった!”“えらい!”と口に出し、時には拍手までして自分を褒めたたえているんです。

これは、自分で自分を褒めた言葉の記憶(聴覚)、拍手した時の感覚(触覚)など、五感を使ってポジティブな『過去記憶』を重ねていることでもあると言えます」

日々の習慣に「+α」してセットで習慣化する

「新しい習慣を作ろうとするとハードルが高いですよね。でも、すでに習慣化されているものにくっつけてしまえば、それほど難しくありません。私の場合は、歯磨きをしながらスクワットをしているんです。歯磨きは毎日必ずする行為ですから、そこにスクワットを加えて習慣化しました。

ほかの例としては、VoicyやYouTubeなどでも定期的に情報発信をしているのですが、リスナーの中には、“ランチの時には必ず星さんのVoicyを聞いて、インプットの時間にしています”と言ってくれる人もいます。このように、あらためて学びの時間を設けるのではなく、ランチタイムについでに学ぶ。こうしたやり方がおすすめです」

まとめ

今の自分を変えたい、このままでいいのかと不安に思っている読者の皆さんに、星さんからメッセージをお願いします。

「だんだんと任される仕事が多くなってきて、忙しく過ごしているビシネスパーソンも多いでしょう。でも、目の前のことばかりを見ていては、『未来記憶』も『過去記憶』も生み出せません。だからこそ、少し立ち止まって考えてみてください。重要なのは、目の前にあるタスクをひたすらこなすのではなく、理想的な成果を得ることではないですか?

“やって良かった!”と思えるような成果を得るためには、どういう未来を望んでいるのかを明確にすることが大切です。『未来記憶』を鮮明にし、時には『過去記憶』も用いて行動を積み重ねていく。その先に、より良い未来が待っているはずです」

話を聞いた人:星渉さん
連続ベストセラー作家(著書累計9冊55万部)、麗澤大学客員教授、株式会社Rising Star代表取締役。大学卒業後、大手損害保険会社に入社。その後、岩手県で東日本大震災で被災し「いつ死ぬのか分からないのなら、自分の人生は自分が楽しいと思うこと以外には費やさない」と決意し、独立。その後、個人の起業家を対象に、科学的メンタル思考をベースとしたビジネス構築理論を確立。講演会・勉強会には5万7,200人が参加。手がけたビジネスプロデュース事例や育成した経営者は623名にものぼる。主な著書は、『神メンタル「心が強い人」の人生は思い通り』(KADOKAWA)や『神モチベーション 「やる気」しだいで人生は思い通り』(SBクリエイティブ)、『神時間力』(飛鳥新社)など多数。

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