男性の育休における問題点。立ちはだかる職場の理解の壁

2017年に「ワンオペ育児」という言葉が流行語大賞を獲得し、子育てを1人で行うことの大変さが、日本中でようやく重要な課題として知られるようになりました。しかし、母親のみが育休を取得し、母親中心に子育てを行う家庭も多いのが事実。父親も母親も同程度に育児参加していくことが求められる時代ですが、まだまだ父親の育児休業が受け入れられづらい状況があるようです。今回は、ご自身もパートナーの育児休業取得に奮闘し、取得することができた経験を持つ、キャリアコンサルタントの境野今日子さんに、男性の育児休業の難しさと、取得するべき理由を教えていただきました。

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育休についての誤解。法的に認められた労働者の権利

昨今、国内でどれくらいの男性が育休を取っているかご存知でしょうか。2020年に行った、厚生労働省の調べによると、育休が取れる条件下にいる男性のうち、取得した人はわずか7.48%でした。また、日本労働組合総連合会が昨年行った調査では、4人に1人が「勤め先に育児休業がない」と回答しているようです。育休は、会社が個別で定めるものではなく、育児・介護休業法という法律で定められた労働者の権利。会社によっては、法律以上に充実した制度設計をしているところもありますが、そういった制度が特に決められていない会社は、法律にのっとって取得することができます。

 

男性の育休取得の難しさ。夫の育休取得への奮闘を経て気付いたこと

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我が家は昨年7月に出産しましたが、コロナ禍で里帰りを控えることになりました。両親の助けがない環境では夫の助けが必要不可欠だと考え、夫も育休を取得することに決めました。しかし、夫の会社から「育児は1人でもできる」という理由により拒否されてしまいました。拒否は違法であることを伝えましたが、認めてもらえない期間が続き、子どもが生まれた後にようやく取得できることが決定しました。この経験から男性の育休取得の難しさを身をもって実感し、それは想像以上のものでした。

育休を取って育児にコミットした夫も、「これは1人では無理だ」と言っていましたが、経験することでその大変さがようやく分かるもの。男性が育休を取りたくても、それを拒否されたり、そもそも申し出ることすらできない会社の空気があれば、男性の育休取得率は上がっていかないでしょう。

 

必要なのは育児の大変さを夫婦共に知ること

つい最近、あるご夫婦から育休についての相談を受けました。第二子を出産予定で、パパが育休を取るか悩んでいたのです。そこで、ママが第一子を産んだ後のワンオペ育児がどれほど大変だったかを打ち明けてくれました。パパはその大変さに気付き、長期で育休を取ることに決めました。すでに子育てをしていても、育児の大変さについてパパとママの間に大きな認識のズレがあったのです。

取得率を上げるポイントは、男性が育児についての知識をもっと得ることだと思います。母親は出産後、病院から退院する際に医師から、出産後の身体がどんな状態で、すぐに家事や育児をすると身体にどういったダメージがあるのか、ということを教えてもらう場合がありますが、それの内容を夫が妻から聞くだけでも、産後の女性のつらさがどれほどのものか理解につながるのではないでしょうか。また、YouTubeなどにもお産や育児についての情報や体験談が上がっています。そうした情報に触れたり、育児関連のイベントに参加したりすることで男性も育児の知識を身につけることができるのではないでしょうか。

 

妻から見た、夫婦で育休を取得する利点

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私自身の妻の視点で、夫が育休を取って良かったと思っていることは、育児のスキルが平等についたことです。お産を終えて、病院から初めて赤ちゃんを家に連れてきてから、夫と一緒にあたふたして、一緒に解決してきました。私に分かることは夫も分かるし、その逆もしかり。私も夫も、自分で解決できることは自分で解決する癖がつきました。ですから子どもを夫に預けてどこかへ行くにも、全く不安は感じませんし、何より、育児について妻である私に依存されていないことで、夫婦関係も対等なままいられたと考えています。もし「泣き止まないからママが抱っこしてあげて」「吐いちゃったからママが拭いてくれる?」と全てのことを夫からお願いされていたら、「それくらい自分でやってよ!」とキレていたかもしれません。

 

育休を認めてもらえない場合は専門家に相談を

男性には、育休を取りたくても会社に言える雰囲気がなかったり、取得までに高いハードルを感じたりしている方もいらっしゃるでしょう。そういう時は是非、取得に向けアドバイスを受けることをおすすめします。身近にいる育休を取得した男性や、男性育休を推進している団体に連絡をとってみてもいいかもしれません。会社が拒否し続け、労働問題に発展しそうな場合は、社外のユニオンや労働基準監督署に相談することもできます。

誰かに相談することで、育休に関する法的な内容や、会社への交渉術などの知識が得られるだけでなく、精神的にも楽になる部分があると思います。パートナーのためにも、生まれてきた子どものためにも、育休を取ることを諦めないでください。

 

文=境野今日子
編集=矢澤拓

【プロフィール】
境野今日子
キャリアコンサルタント、ライター。中央大学卒業後、NTT東日本へ入社し、秋田支店にて法人営業を担当。その後、帝人の採用担当へ転職し、在籍中に国家資格キャリアコンサルタントを取得。会社のセクハラ・パワハラ問題や、夫の育休が拒否された経験について、記事やSNSを通じて発信している。

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