「コミュ力」ってなに? 専門家が解説するコミュ力強化の極意

「コミュ力」とは具体的にどのようなスキルを指すのでしょうか。非常にあいまいな「コミュニケーション能力」について、コミュニケーション研究家の藤田尚弓先生にケース別のコミュ力強化テクニックや、オンラインコミュニケーションのコツを教えていただきました。

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ここ数年、オンライン会議や「Slack」や「teams」「backlog」などテキストベースの非対面コミュニケーションツールが圧倒的に市民権を得て、これまでと比べて明らかにコミュニケーションをとることに苦手意識をもつ人が増えていると、藤田先生は言います。

しかし、コミュニケーションの良し悪し、得手不得手とは、なんなのでしょうか。「なんなら私自身も含め、世の中、全員がコミ障。過度に気にすることはない」とも言いきる藤田先生に、コミュニケーションの極意を教えていただきました。

ビジネスシーンで高まる「コミュ力」の重要性

若者を中心に広く使われる「コミュ力」。いわゆる「コミュニケーション能力」が重視されるべきスキルだと認識されたのは、人間が言葉を操り始めた頃まで遡ります。言葉によって文明の発展を遂げてきた人間にとって、非常に重要なスキルだったんです。

ビジネスシーンで必要なスキルと一般的に認識されてきたのは、企業が採用にあたって重視する能力として「コミュニケーション能力」を挙げるようになってきたことが影響しています。

個人の見解としては、平成16年発表の厚生労働省「若年者の就職能力に関する実態調査」で採用にあたり重視する能力においてコミュニケーション能力が1位になったのが決定的だったと感じます。他項目の責任感・積極性・外向性・資格取得・行動力・ビジネスマナーなどをおさえて、多くの企業が学生のコミュニケーション能力を採用可否の大きな柱にしたのです。

コミュ力に対する現代人の苦手意識

コミュ力に影響する非対面ツールの発達

昨今、ビジネス上のコミュニケーションはメールにとどまらず、オンライン会議にはじまり、「Slack」などのチャットツール、プロジェクトを管理する「Backlog」など圧倒的に非対面でのコミュニケーションの機会が増えました。

メールベースでのコミュニケーションでは感情の63%しか伝達できず、オンラインで使われている語彙の数は普段の5分の1、という研究も発表されているように、「非対面」であることが原因で、伝えたいことが相手に伝わらずに失敗を経験した人も多いと思います。こうした失敗経験の積み重ねが苦手意識を生んでいると考えられます。

「オンライン慣れ」による「対面」への苦手意識

ビジネスに限らず、プライベートでもLINEなどのチャットツールでのコミュニケーションが当たり前となり、昔と比べて会話する機会自体がずいぶんと少なくなりました。

非対面コミュニケーション自体の意思疎通の難しさだけでなく、非対面に慣れてしまったことで、かえって対面での苦手意識を助長している側面もあるのではないでしょうか。

コミュ力が試される「雑談力」

オンラインコミュニケーションの発達によって、なくなってしまったもののひとつに「雑談」があります。

チャットツールにも、オンライン会議にも、「雑談」が入り込める余地はなく、コミュ力が試される雑談の機会が減ってしまったことは、さらなるコミュ力に対する苦手意識を生んでいると考えられます。雑談こそ、コミュ力が試される場面であり、その機会を失ったことコミュニケーションより希薄にしてしまっているように思います。

日本で重視されるコミュ力は「文脈を読む力」

コミュニケーションにおいて、日本と海外で大きな相違が見られるのをご存じでしょうか。もっとも明確な相違が「コンテクスト」です。

日本社会で重要な「コンテクスト(文脈)」とは

日本は典型的な「ハイコンテクスト文化」で、文脈を読む力が重要視されています。たとえば、親が子供を叱る「バカ!」と、女性が男性に「ばか〜」とでは、意味は正反対で語感や間合いで真意を汲み取る必要があります。ほかにも、授業中に怒った先生が「もう帰っていいぞ!」と言っても、帰らずに「ごめんなさい」と謝るのが、日本文化の暗黙知です。

これは「様式美」といえるかもしれませんが、文脈を読む力が必要とされますし、言語以外の部分で理解しなければならないことが多くなります。つまり、日本ではその時々の状況から相手の言いたいことや伝えたいニュアンスを推察する能力が求められているのです。これは「共通認識」が成り立っているからこそ、可能なコミュケーションともいえます。

海外のコミュ力はローコンテクスト文化で育まれた

一方、海外ではどうでしょうか。たとえば、音楽を大きな音でかけているルームメイトに対して「明日は試験なんだ」と伝えれば、日本人同士の場合はボリュームを下げてくれることも多いでしょう。しかし、ルームメイトが海外の人の場合には「へぇ、そうなんだ。試験頑張ってね!」という返事が返ってくるだけのケースもしばしば。

こうなってしまう理由は、歴史的な背景が大きく影響していると思います。日本は単一民族の島国です。近隣に言葉の通じない人はいませんし、国境を攻め込んでくる敵もいませんでした。ある程度、知れたもの同士のコミュニケーションですから「共通認識」があります。海外の場合は、察することを期待しない(あるいは期待できない)なか具体的・直接的に意志を伝える「ローコンテクスト文化でないと、コミュニケーションが成立しなかったのでしょう。

コミュ力あり/なしの定義は、業界・業種・立場によって変化する

さきほど解説したように、日本では文脈を読んで相手の言いたいことを推察する「ハイコンテクスト文化」が根付いています。しかし、その他にも共通認識・価値観・嗜好性などもコミュニケーション評価に関連しているため、求められるコミュニケーション能力の定義は自分の所属する組織やグループごとに違いが出るというのが現実です。

また、コミュニケーション能力のあり・なしの定義は業種や業界によっても大きく異なります。たとえば、IT企業で働く職人肌のエンジニアと、社外のさまざまな人たちと関わらなければならない営業マンを比較してみてください。エンジニアに求められる社内を統括するコミュニケーション能力と、顧客のニーズに応え、その内容を自社内に伝達するコミュニケーション能力は別ものですよね。

加えて、エンジニアであっても「顧客のニーズを具現化しなければならない立場」と「職人肌で実直に仕事に向き合う立場」では、周囲から求められるコミュ力が変わってきます。

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では、業種や立場によってコミュ力の定義が異なるのを前提としたうえで、一般的な企業のエンジニアと営業マンを想定して少し強引に定義づけしてみましょう。下記の4項目がコミュニケーション能力を体得するなかでひとつの基準になるものです。

推察力:
相手の伝えたいことを文脈も考慮して推察できる

【エンジニア】スキルや専門性の異なるメンバーのなかで個々の能力を推察する

【営業マン】クライアントの潜在的なニーズを汲み取る推察力や背景まで理解した提案をする

説明力:
事実・推測・感想を分けて、相手の知識レベルに合わせて説明できる

【エンジニア】技術的な側面でどこまで説明が必要/不要か。エンジニア同士かそれ以外の社員か

【営業マン】営業相手によって、経営者なら売上、現場担当者なら効率化など、立場を踏まえた提案

まとめ力:
起きたこと、学んだことなどを自分の言葉で要約できる

【エンジニア】1から10すべてを説明するのではなく、相手の専門知識に応じて掻い摘んで要約できる

【営業マン】現場担当者が上司に報告するまでの過程を考えて、まとまった内容の提案

関わり力:
適切なタイミングで自らコミュニケーションをとりにいける

【エンジニア】専門的な知識がない相手に対して、積極的に内容理解・承認を得れるコミュニケーション

【営業マン】提案がなくても、日常的な付き合いや挨拶まわりをして関係を深める

このように、コミュニティや接する相手が変われば必要な「コミュ力」も変化するもの。たまたまその場で求められているレベルに達していないからといって落ち込む必要はありません。「自分の所属している会社やチームから求められる能力を身につけたい!」と前向きに努力することすばらしい姿勢です。

専門家だからこそ抱く、「コミ障」への違和感

コミュ力は上達するのか

「コミュ力」が人と関わるうえで必要となる「ソーシャルスキル」を指していると考えた場合、対人関係を円滑にするためのソーシャルスキルトレーニングを通じて向上が見られた事例は少なくありません。先行研究でも、トレーニングを通じて以前よりスキルが向上したケースがいくつか発表されています。

しかし、専門領域をまたいだシンポジウムなどでは遺伝要素や生育歴などが要因・障害となり、トレーニングをしてもなかなか改善しないという主張も耳にします。さまざまな意見があるなかで、個人的な見解としては“程度の問題はあるもののトレーニングによって改善できる”と考えているんです。

コミ障は改善する必要があるのか

その一方で、「本当に改善する必要はあるのだろうか?」とも……。私は世間で広く使われている「コミ障」という言葉自体に違和感を抱いているんです。

コミュニケーションがスムーズでない人を「コミ障」というのであれば、流暢に話す人たちの何割かは“話し過ぎ”のコミ障とも言えます。コミュニティによって求められる能力や「普通」の定義は大きく異なるので、中央値から外れた人を「コミ障」と呼ぶのは不自然ですよね。

話下手だからといって「自分は普通とは違う、改善しなくては」と焦る必要はまったくないんです。

コミュ力を上げるためのコツ

コミュ力がない場合の症状は人によって異なります。一般的に多いと思われる現象を例に挙げながら、有効的な対処法をチェックしていきましょう。

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コミュ力UPのコツ①会話を構成するPREP法

話を伝える意思はあるのに、相手に伝わらない場合「会話の構成」を見直すとよいでしょう。ビジネスシーンで「PREP法」と呼ばれているもので、POINT(結論)→REASON(理由)→EXAMPLE(事例)→POINT(結論)の順番で文章を組み立てていきます。ひとつの事柄について具体的に詳しく伝えられるので、相手に“なにを伝えたいのか”を発信しやすくなりますよ。

<例文>
私は、A案を提案します。理由は消費者ニーズの高さにあります。○○の調査でも~~というデータが出ており、最近のニュースでも頻繫に取り上げられていました。以上の理由から、私はA案を提案します。

コミュ力UPのコツ②具体的な数字やデータを使う

「説得力に欠けている」と指摘を受けた経験をお持ちのビジネスパーソンも多いのではないでしょうか。自分の提案や考えに説得力を持たせるためには、具体的な数字やデータを使うのが効果的です。関連する情報を探し、説明時に合わせて紹介することで主張に厚みが出ます。

<例文>
昨年、我が社のサイトにおけるスマートフォン閲覧は全体の34.1%でした。それに対し、今年は前年度比50%増の82.5%となりました。早急にレスポンシブ対応を進めるべきだと考えます。

コミュ力UPのコツ③挨拶+雑談のような一言

「いつも人付き合いがうまくいかない」「もっと積極的にコミュニケーションをとりたい」と考えている方は、ムリに仲良くなることを目標にしなくてOK。相手と深い付き合いになる必要はないので、サッと話せる「挨拶+雑談のような一言」を実践してみると良いでしょう。“こうしなきゃ”と決めすぎずに、自分のペースに合わせてコミュニケーションをとっていきましょう。

<例文>
おはようございます。今日も蒸し暑いですが、梅雨の晴れ間はちょっと嬉しいですね。
お先に失礼します。今夜は夏の大三角形がきれいに見られるみたいですよ。

コミュ力UPのコツ④敬語をくずす

敬語を上手に使えることは、ビジネスマンにとっては必須ですが、ときには敬語をくずすことで円滑なコミュニケーションが生まれます。初対面では基本的に敬語ですが、徐々にくずしていくことで人間関係が縮まります。

この「敬語のくずし」は、多くの人が勘と経験でやっていますが、敬語をくずすのが苦手な人けっこういます。コミュニケーションは相互関係なので、自分からちょっとくずしてみると相手をくずしはじめ、敬語の間柄では踏み込めない、タメ語からこそ踏み込める話題があります。

<例文>
あ!そういうことだったのか。ということは〇〇〇は××ということですか?
髪型変えました? やっぱり! いい感じですね!

コミュ力UPのコツ⑤傾聴の姿勢

上司や取引先とより良い関係性を築きたい場合、ムリに取り入る必要はありません。「若手は目上の人を褒めるもの」と思っている人もいるかもしれませんが、褒めや迎合がなくとも良い関係性は築けます。なにより大切なのは「相手の話を、興味を持って聞くこと」。

傾聴していると表現するためにも、メモをとる・気になることを質問する・頷いて共感することを意識してみてくださいね。また、なにかレクチャーやアドバイスをうけた場合にはお礼と報告を忘れず行いましょう。

オンラインこそ、コミュ力が重要

オンライン会議はお互いさまの精神で乗り切る

現在、テレワークや在宅勤務を利用しているビジネスパーソンも多いですよね。オンラインミーティングはシステムの関係でほんの少しのタイムラグが発生してしまうため、話者交替のタイミングが分かりづらくなってしまいます。

「うまく会話を進められない」と感じることもあると思いますが、話すきっかけを掴みづらいのはお互いさま。誰しもが感じていることなので心配する必要はありません。発言の重なりも起きやすいですが、「オンラインでは当たり前のことだ!」と割り切って、気にしないようにするのがおすすめです。

チャットやメールはいつも以上にていねいに

チャットやメールを使う場合には、相手が理解しづらいことを前提に具体的な伝え方をするよう心がけましょう。対面コミュニケーションと比べて使用語彙が少なくなる傾向があるので、いつも以上に丁寧な説明を意識してください。

また、表情や仕草が見えない分、強すぎる文面にならないように要注意。相手が文面をどう捉えるのかを考えた上でやり取りすると良いでしょう。反対に、チャットでの相手の言動に違和感を覚えた場合も「コミュニケーション特性の問題である可能性」を差し引いて考えると気持ちも楽になります。深刻に悩んだり、傷ついたりする必要はないのです。

【まとめ】コミュ力は完璧を求めず、自分らしいコミュニケーションを

「コミュ力を身に付けたい」と、努力で改善を目指すことは素晴らしいことです。しかし、文脈によって回答や受け取り方が変わるようなコミュニケーション下で、“完璧”を目指すのは難しいもの。

うまくコミュニケーションできないからといって、自分と他者を比較して深く悩みすぎないようにしましょう。「昨日の自分より、少し良くなればよし!」のスタンスで、自分らしいコミュニケーション方法を探してみてください。

 

【監修】
藤田尚弓●株式会社アップウェブ代表取締役、コミュニケーション研究家、コラムニスト。さまざまな領域に散見するコミュニケーション研究の調査整理、アウトリーチ活動を行う。また、テレビ出演・監修、雑誌などへのコンテンツ提供も多数。著書に『銀座で学んだ稼ぐ人のシンプルな習慣(総合法令出版)』『NOと言えないあなたの気くばり交渉術(ダイヤモンド社)』。近著に『いい人間関係は「敬語のくずし方」で決まる(青春出版社)』。

https://naomi-fujita.com/

『いい人間関係は「敬語のくずし方」で決まる』(著・藤田尚弓/青春出版社)

 

文=山本杏奈
編集=五十嵐 大+TAPE

更新日=2022年11月18日

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