先延ばし癖はなおる? 先延ばしにしてしまう仕組みと改善方法

やらなければならないことをついつい後回しにしてしまう「先延ばし癖」。改めたいと思っていても、どうして繰り返してしまうのでしょうか。先延ばし癖がある人の特徴や、先延ばし癖をやめにくい理由について公認心理師の大美賀直子さんにお聞きしました。

一日、また一日とやるべきことを先延ばしにし、気が付けばいつも締切に間に合わずに後悔する……。このような先延ばし癖があると、仕事における成長が滞ってしまうだけでなく、周りの人にも信頼されなくなってしまいます。そもそも先延ばし癖は、なぜ身に付いてしまうのでしょう?

「先延ばし癖」の原因には、そこに潜む無意識の心理作用、「すぐやる人」との行動の差、先延ばし癖が生じやすい環境要因などがあります。それらをきちんと理解することができれば「すぐやる人」になることも難しくはありません。「すぐやる人」も、やりたくないことは先延ばしにしたいのが本音。先延ばし癖についての理解を深め、効果的なやめ方のコツをマスターしておきましょう。

物事を先延ばしにする人の特徴

やるべきことを先延ばしにする人には、「回避欲求に流される」「自信を失う」「現実逃避を強める」という三つの特徴があります。まずは、それぞれの特徴について把握しておきましょう。

先延ばしにする人の特徴①「今はやりたくない」という回避欲求

先延ばし癖のある人は、回避欲求に流されやすいという特徴を持っています。つまり、無意識のうちにやりたくないことを見ないようにして、やるべきことに向き合うストレスから逃れようとしているのです。

そもそも、苦手な仕事こそ早めに進めれば、時間に余裕をもって取り組むことができるはず。先延ばし癖のある人は、理性面ではそのことをわかっていても、感情面で回避欲求に流されてしまうのです。

先延ばしにする人の特徴②ネガティブな感情から自信を失っていく

回避欲求に流されてやるべきことを先延ばしにしていると、「私は自分に甘い人間だ」「いつも欲望に負けてしまう」というようにネガティブな感情が募る一方になり、しまいには自信まで失ってしまいます。

そのため、「すぐやる人」を見ると「あの人に比べて自分はなんてダメなんだろう。この先、何をやってもうまくいく気がしない」というように劣等感が強く刺激され、自分のことを過剰に悲観的に捉えるようになってしまいます。

先延ばしにする人の特徴③他のことに熱中して現実逃避を強めてしまう

頭では「先延ばしする自分を変えていかなければ」と思っているのに、いざやるべきことをやろうとすると、いつも他のことに意識がとらわれ、熱中してしまう。この繰り返しによって現実逃避を強めていくのが、先延ばし癖のある人の行動パターンです。

他の仕事に熱中したり、デスクや共用スペースの掃除に夢中になったりすることで、一見、真面目にはたらきながら、現実逃避している人も少なくありません。

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なぜ物事を先延ばしにしてしまうのか

先延ばし癖は、無意識のうちに繰り返してしまう行動であるため、「次こそ先延ばしにせず、早いうちから取り組もう」と決意しても、なかなかその癖を改められないものです。先延ばし癖に潜む無意識の心理作用、「すぐやる人」との行動の差、先延ばし癖が生じやすい環境要因について把握し、頑固な先延ばし癖の特性を理解しておきましょう。

先延ばし癖の原因①先延ばし癖に潜む無意識の心理作用

何度反省しても先延ばしを繰り返してしまうのは、心の中に潜む「防衛機制」という心理メカニズムのはたらきによって、「やりたくないことに向き合う」というストレスを回避してしまうからです。

そのため、「今度こそ、早めに取り組もう」と思っていても、直前になると何も考えられなくなり、他人や状況などを言い訳にして、やりたくないことから徹底的に逃れようとします。

先延ばし癖の原因②「先延ばし癖のある人」と「すぐやる人」の差

先述したように、回避欲求に流されるとネガティブな感情に取り巻かれ、挑戦意欲も湧かなくなってしまいます。先延ばし癖のある人は、このような心理的ダメージを何度も味わいながらも、結局は回避欲求に勝てずに、現実逃避を繰り返してしまいます

一方で「すぐやる人」は、この心理的ダメージによって自信を喪失し、自分を保てなくなるリスクを十分に認識しているため、そんな自分にならないように気を付け、やるべきことに逃げずに取り組むようにしているのです。

先延ばし癖の原因③先延ばし癖が生じやすい環境要因

いつでも気晴らしができる環境に身を置いていると、先延ばし癖は生じやすくなってしまいます。疲れたときに、すぐにゴロッと横になれる場所がある、デスクの上に、趣味のアイテムが並んでいる、ネットや動画を見続けてしまう。

特にリモートワークでは、このような環境で仕事をしている人が多いため、先延ばし癖がエスカレートしがちになってしまいます。

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「すぐやる人」が実践している時間の使い方

「すぐやる人」も、やりたくないことは先延ばしにしたいのが本音です。それでも「すぐやる人」はどのように工夫して、やるべきことに取り組んでいるのでしょう? 下記の三つは、「すぐやる人」の多くが実践している仕事の取り組み方の一例です。

負担なくすぐにできることから始める

やりたくないことのなかにも、負担なくすぐにできることは必ずあります。「すぐやる人」はまずそうしたことから取り組んでいます。例えば、苦手な分野の資料を通読するのは大変でも、章ごとにインデックスラベルを貼ることなら、すぐにできるでしょう。ダウンロードした文献を印刷し、重要キーワードにマーカーを付ける、といったこともすぐにできます。

このように、簡単なことからスモールステップで始めていくと、やりたくない仕事にも少しずつ取り組んでいくことができます

「15分の集中タイム」に全力で取り組む

人間の集中力は、せいぜい15分程度しか続かないと言われますが、「すぐやる人」は1日に数回、15分程度の短い時間を「集中タイム」として設定し、その時間内にやりたくない仕事に取り組んでいます

このように、細切れの集中タイムをいくつも設定することで、やりたくない仕事に長時間拘束され、疲弊するリスクを防いでいます。またやりたくない仕事の資料こそ、いつもデスク上に置いておき、合間に目を通しておくことで、やりたくない仕事を放置しないようにしています。

「5分のブレイク」で現実逃避を回避する

やりたくないことにストレスを溜めずに取り組むには、こまめに気分転換を取り入れることが重要です。ただし「すぐやる人」は、気分転換から現実逃避へと流れていかないように、時間の使い方に気を付けています

例えば、15分の「集中タイム」に取り組んだら、5分ほどのブレイクを入れてリフレッシュしますが、それ以上長く休憩をとることで、気持ちにゆるみが生じないように気を付けています。

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先延ばし癖を改善する方法

頑固な先延ばし癖を改善して、自分に自信を持ちたい。回避欲求に打ち勝ち、現実逃避に流されない自分になりたい――。本気でそう思うなら、さっそく先延ばし癖を改善していきましょう! とはいえ、ハードな目標を課してしまうと計画倒れになり、さらに自信を失ってしまうかもしれません。下記の三つの方法なら、誰でもすぐに負担なく取り組めます。今日からぜひスタートしてみましょう。

先延ばし癖を改善する方法①どんな自分になりたいのか明確にイメージする

「先延ばし癖をやめられたら」と漠然と思うだけでは、頑固な癖を克服するのは難しいでしょう。なりたい自分像を明確にイメージすると、そのイメージが前向きなエネルギーを喚起し、自分を変えるための行動を促してくれます。

あなたは先延ばし癖をやめることで、どんな自分になりたいですか?

「難しいプロジェクトをいくつもこなし、プロとして信頼される自分になりたい」
「多数のクライアントを持ち、海外出張にも飛び回る自分になりたい」

このように、「なりたい自分」のイメージを遠慮せずに、はっきりと思い描いてみましょう。すると目指すべきゴールが明確になり、なりたい自分を実現するための具体的行動を起こしやすくなります。

先延ばし癖を改善する方法②「先延ばし克服体験」をまずは一つ作る

目指すべきゴールが明確になったら、まずは一つ、「先延ばし克服体験」を作ってみましょう。

例えば、前章の「『すぐやる人』が実践している時間の使い方」を参考にして、1日のワーキングタイムに「15分の集中タイム」を4回設定し、やりたくない仕事に集中して取り組んでみてください。

すると、1日に1時間、週に5時間も、やりたくない仕事に取り組むことができるのです。このようにして「先延ばし克服体験」の成功事例を一つ作れば、「自分にはできる!」という自信も湧いてくるでしょう。

先延ばし癖を改善する方法③ビジネスパーソンが集まる場で仕事をする

先延ばし癖を直すには、「現実逃避との闘い」の戦略も同時に考えていく必要があります。前章でお伝えした「5分のブレイク」もその一つですが、もう一つ考えたいのが「はたらく場所」の検討です。

例えば、いつもの場所では気が緩みすぎてしまうと感じるなら、あえてビジネス街の重厚感のあるコワーキングスペースの会員になってみたり、出社したときには自分のデスクではなくフリースペースで仕事をしてみたり、環境に変化を加えてやりたくない仕事に取り組んでみてはどうでしょう。適度な緊張感が良い刺激となり、先延ばし癖に負けそうな自分を諫めることができるでしょう。

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先延ばし癖の人が持つ能力

先延ばし癖の特徴や改善方法についてお伝えしてきましたが、実は先延ばし癖は、必ずしも悪いものとは限りません。そもそも物事を先延ばしにするのは、取り組む期間を最短にしてエネルギーを温存し、「ここ一番」のときにフルパワーで挑むためでもあるのです。

したがって、先延ばし癖のある人には、土壇場で集中力を発揮し、猛烈な勢いで追い上げる「突破力」に優れている人も少なくありません。

とはいえ、現実は理想通りに進まないことが多く、いくら土壇場で頑張っても締め切りに間に合わず、必ずしも望んだ結果が得られないのが世の常です。「先延ばし癖」について理解ができたら、まずは自身が持つ優れた能力である「突破力」を大切にしながらも、先延ばし癖のデメリットをしっかりと自覚すること。そして、先延ばし癖をコツコツと改めていくことによって、はたらく自分が自信を持っていけるように努力することが大切です。

【プロフィール】
大美賀 直子(おおみか なおこ)
メンタルケア・コンサルタント。公認心理師、精神保健福祉士(以上、国家資格)、産業カウンセラーの資格を持つ。「こころと人生と人間関係のベストバランス」をテーマに、カウンセリング、講演、執筆活動を行う。働く人のメンタルケアに関する造詣も深く、テレビ、新聞、雑誌、インターネットを中心に情報を発信。企業研修でも好評を得ている。『なぜあの人の働き方は「強くて美しい」のか?』『サイボーグを目指さないことにした働く私の「自分時間」』(アスカビジネス)、『どうして会社に行くのが嫌なのか?』(アスキー新書)などの仕事に関する著書も出版。

大美賀直子|メンタルケア・コンサルタントーこころと人生と人間関係のベストバランスを提案 - 大美賀直子(メンタルケア・コンサルタント)の公式HP (mentalcare555.com)

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