ハシヤスメ・アツコがBiSH時代に直面した理想と現実のギャップ。自分の役割との向き合い方

元BiSHメンバーであるハシヤスメ・アツコさんのインタビュー【前編】。最初は違和感があったというメンバー内でのコント担当という役割や、好みと異なる衣装を受け入れられるようになったマインドの変化についてお話を聞きました。

2023年6月、東京ドームでのライブで解散したグループ「BiSH」。そのコント担当として活躍したハシヤスメ・アツコさんにお話を伺いました。ハシヤスメさんの代名詞となったコントも、最初はただ事務所から与えられたものだったと言います。そんなハシヤスメさんに、前半は自分のポジションとの向き合い方をお聞きしました。

※インタビュー後編はこちら
ハシヤスメ・アツコの夢のかなえ方。笑われても目標を口にする

何者にもならずに終われない! 100社以上に履歴書を送ったモチベーション

──最初に、ハシヤスメさんがBiSHさんのオーディションを受けようと思った理由を教えてください。

モーニング娘。さんやAKB48さんなど、キラキラしたアイドルにあこがれて、自分も芸能の世界で輝いてみたいなとずっと思っていたんです。出身は東京ですが、福岡に引っ越したころから履歴書を100社近く送っていました。それでもまったく通らなくて。東京に戻ってきてから一度はグループの経験があったのですが、すぐに解散してしまったんです。

でも、まだまだやりたいことがあったし、自分の思い描く自分になれていないのであきらめられませんでした。そんなときにBiSHのオーディションを見つけました。第一期は落ちましたが、気付いたら二期の募集が始まってもう一度応募したら合格したんです。

BiSHは、「BiSをもう一度始める」ということで始まったグループです。BiSはBiSHプロデューサーの渡辺淳之介さんが以前手掛けていて、エッジの効いた過激なプロモーションをしていたグループ。グループの打ち出し方としても面白そうだし、「いわゆる普通のアイドル人生よりも楽しくなるかもしれない」と思って応募しました。

──100社以上履歴書を送って落ちて、を繰り返してもあきらめなかったのはどうしてだったのでしょうか?

絶対に芸能界に入りたいと思っていましたし、何者でもないまま人生が終わってしまうのは嫌だったからです。なぜか分からないのですが、ずっと自信もあったんですよね。絶対に成功できるし、いつか東京ドームでライブができる人になれると思っていました。根拠のない自信だけはあったので、いつも夢は大きく掲げていました。

理想と現実のギャップをすり合わせていった、グループでのポジション

──その強い気持ちが実り、ハシヤスメさんは2015年8月にBiSHに加入。その後、グループ内の「コント担当」として活躍しますが、その役割はどうやって見つけていったのでしょうか?

プロデューサーの渡辺さんから「コントやってみない?」と提案してもらいました。渡辺さんがどうしてそう思ったのかは分からないですが、やったことのないジャンルだったので、驚きました。最初は「ライブMCがやりたいな」と思っていたのですが、これもチャンスだと思い直してとりあえずやってみることにしました。

まずはやってみて、もしつまらなかったり評判が悪かったりしたら、きっとライブMCになるだろうと思って。結局、解散まで8年間コントをやっていたんですが(笑)。ただ今ではコントが自分の人生を変えてくれたなと思います。

──そう思えるのはどうしてでしょうか?

コントをやるようになってからメンバーとの関係性がガラッと変わったんです。グループに入ったばかりのころは自分の立ち位置も、メンバーのことも分かっていませんでした。私は一人っ子ということもあって、何でも一人でやってしまおうと思うタイプなんです。だからグループにいても「一人でもいいや」と思っていたのでメンバーと距離がありました。でもグループにそういう人が一人いるとまとまりづらいじゃないですか。私は一人のままでも居心地が悪くなかったから、その違和感に気付いていませんでした。

もしかしたら、渡辺さんはそれに気付いてコントという役割を与えてくれたのかもしれないです。当時の距離感のままで、いきなり私が舞台上で面白いことをやってもメンバーは心の底からは笑わないでしょうし、ギクシャクしたコントになってしまうと思いました。

そして、それは見ているお客さんにも伝わってしまう。だからまずはメンバーに「この子は素でこれをやっているんだな、素で笑わせようと思ってやってるんだな」と感じてもらって、自然に笑ってもらわないといけない。そう思って、徐々にグループ活動に対応できる人間になっていきました。

──面白いことをしたり、人を笑わせたりすること自体はもともとお好きだったんですか?

いえいえ。お笑いを見るのは好きでしたけど、まさか自分がやる側になるとは思っていなかったです。

そのほかにも自分の価値観がひっくり返ったなと思ったことがあります。グループに入って最初に与えられた衣装がロングスカートだったんです。同じ時期に入ったもう一人のメンバー・リンリンは、ミニスカートとナポレオンジャケットで、私はそういうかわいい服が好みなので羨ましかった。私服ではヒールのある靴しか履いたことなかったのに、衣装ではぺたんこのスニーカーで、自分の好みと真逆の衣装だったので、最初は「ミニスカートがいい」「なんで私がロングスカートなの?」と思っていました。

ただ衣装さんが一人ひとり違う衣装を作ってくださったので、「まずはこれを大切にしよう、そして次に期待しよう」と思っていました。ただ次の衣装も黒のロングTシャツに黒のロングパンツで「あれ?」と思って。「次に期待、次に期待…」と思っているのに、毎回衣装として与えられるものが自分の理想と違う。1年くらいはずっとそのギャップを受け入れられなくて、毎回「次に期待しよう」と思っていました。

でもその衣装でお客さんの前に立つと、「似合っている」「それいいじゃん」と言われることのほうが圧倒的に多かったんです。それで「そうか、私はこっちのほうが似合っているんだ」と徐々に気付いて、理想と現実のギャップを受け入れていきました。普通の人生を歩んでいると、「その服似合っているよ」なんてそんなに頻繁には言われないじゃないですか。グループにいると、SNSを通じて毎日ファンからお褒めの言葉をいただくので、それが自信につながり、自分の価値観も変わりました。

──衣装のように、コントに手応えを感じたのはいつごろですか?

ずっと感じないままです(笑)。

──解散まででしょうか?

はい。ずっと難しかったです。それでも、だんだんとツアーで新しいコントを披露するたびに「今までのコントでいちばん面白かった」「ハシヤスメ、毎回面白くなってる」というお褒めの言葉をいただくことが増えていきました。だから手応え自体はあまり感じられなかったですが、やりがいは感じていました。

──「コントという役割を見つけた」という手応えはありますか?

最初は与えられた役割でしたが、それに一生懸命向き合うことでテレビに出演したときに「コントの人」として紹介されることも増えました。コントのエピソードを中心にトークが回っていたりしていくうちに「この立ち位置はグループにとって大事なものなんだ」と気付きました。最初の1年はその大事さを理解していませんでした。台本も多くを渡辺さんが考えてくれていたのですが、その大事さを理解してからは、自分で台本を考えてオリジナル性を出していくようになりました。

ハシヤスメ流・理想と違う自分の受け入れ方

──ハシヤスメさん同様に、社内での自分の役割に悩むビジネスパーソンは多いと思います。自分の役割を見つけるためのヒントはどのようなものだと思いますか?

最初は「何でコントなんだろう?」「何でこの衣装なんだろう?」と、「何で?」「どうして?」の繰り返しで悩んでいました。でも、全部に対して「いったんやってみよう」と思ったんです。「今は嫌だけど、もしかしたら3週間後、3カ月後にはどうにかなっているかもしれない」と。

そうやっているうちに、自分では違和感があると思ったものでも人から見たら合っているということに気付いたり、続けているうちに自分のものになっていったりすることもあります。そういう意味で、いったん与えられたもので勝負してみるのは私には合っていたなと思いますね。もちろん「何で?」とか違和感は持っておいていいと思いますが、与えられたものに対して流されてみるのもアリなんじゃないかなと私は思います。

──理想とは違う衣装や環境でも「いったん頑張ってみよう」と思って続けられたモチベーションは何だったのでしょうか?

目標があったからですね。なりたい自分がいたし、東京ドームに立つ自分や『NHK紅白歌合戦』に出る自分。そのころは約束はされていなかったですが、ここ(BiSH)にいたら絶対に大丈夫だという根拠のない自信があったから頑張れたんだと思います。

本当にしんどいと思う瞬間は何度もありました。でももちろん楽しいこともあって。しんどいことと楽しいことの繰り返しで東京ドームまでたどり着けたと思っています。

もし今、お仕事などで悩んでいる方がいらっしゃったら、「自分のやりたかったことや夢を思い出してください」と言いたいですね。今やっていること、与えられた役割が自分の夢に近づける可能性のあるものだったら、嫌でもまずはやり続けたほうが良いと思います。

逆に信じられないほど自分の目標からかけ離れていたら、一度見つめ直してもいいと思います。私は今でも何かに迷ったら「自分が本当にやりたかったことはなんだっけ」と原点を思い返して、初心に戻るようにしています。

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ハシヤスメ・アツコの夢のかなえ方。笑われても目標を口にする

【プロフィール】
ハシヤスメ・アツコ(はしやすめ あつこ)
2015年8月よりBiSHのメンバーとして活動をスタート。BiSHのメガネ担当で、欠かせないムードメーカーとして活躍。2018年にはワンマンライブにてソロデビューを直訴し、翌年ソロシングル「ア・ラ・モード」をリリースした。BiSHは2023年6月29日に東京ドームにて惜しまれつつも解散。2023年、ホリプロに所属。現在はバラエティ番組を中心に活躍中。

取材・文=小林千絵
撮影=前田立
編集=久野剛士

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