嫌いな人・苦手な人と上手に付き合うには?専門家に聞く、苦手と感じる理由や対処法

「職場に嫌いな人がいて困っている」という人はいませんか? 本記事は公認心理士監修のもと、嫌いな人・苦手な人と上手に付き合う方法やポイントなどを解説します。

職場に嫌いな人がいてストレスを抱えるイメージ

「職場に苦手な人がいて、ストレスを感じる」と悩んだ経験はありませんか? 仕事をスムーズに進めるためにも、こうしたストレスは解消したいものです。

そこで今回は、コミュニケーションや対人関係に関する講座を1万人以上の受講者に向けて行ってきた公認心理師の川島達史さんに伺った話をもとに、嫌いな人・苦手な人との上手な付き合い方について解説します。「嫌い」「苦手」という感情を抱く心理学的な理由やストレス緩和に役立つセルフケアについても紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。

職場に嫌いな人や苦手な人はいませんか?

職場に嫌いな人や苦手な人がいると、「ストレスを感じる」「仕事に対するモチベーションが下がる」という人も多いのではないでしょうか。

厚生労働省の調査※1によると、約8割もの人が仕事に対して強い不安や悩み、ストレスを抱えており、その原因の約3割を「対人関係」が占めています。また、同省による働きやすさに関する調査※2では、人間関係が良好になると「働きやすい」と感じる人が増え、悪化すると「働きにくい」と感じる人が増えることが分かっています。

こうした調査からも分かるように、職場の人間関係はメンタルヘルスや働きやすさに大きく影響する要素です。嫌いな人や苦手な人が職場にいると、「働きづらい」「仕事に行くのがつらい」と思う場面も少なくありません。

公認心理師の川島さんによると、そうした場合でも、自身のコミュニケーションやストレスに対処するスキルを高めることで、嫌いな人や苦手な人と上手く付き合えるようになるケースも多く見られるそうです。また、これらは前向きに仕事に取り組む上で欠かせないスキルでもあります。この記事で紹介する方法などを参考に少しずつスキルを高めていきましょう。

※1 「令和5年労働安全衛生調査(実際調査)」(厚生労働省)

※2 「令和元年版 労働経済の分析-人手不足の下での『働き方』をめぐる課題について」(厚生労働省)

誰かを「嫌い」「苦手」と感じる理由は?

なぜあの同僚のことが嫌いなのか疑問に感じている様子

そもそも、人はなぜ、他人に対して「嫌い」「苦手」といった感情を抱くのでしょうか。心理学的な理由を見ていきましょう。

「返報性の原理」が働いているから

まず挙げられるのが「返報性の原理」です。これは、「人から何かしてもらったら、同様のお返しをしたい」と思う心理作用のことで、「互恵性の法則」とも呼ばれています。

例えば、「笑顔であいさつしてもらえると、笑顔であいさつを返したくなる」という人は多いでしょう。反対に、「誰かに嫌な態度を取られると、自分もムッと来てしまう」という人も多いかもしれません。

特に人間関係があまり良くなく、細かい点でも指摘し合うような職場だと、返報性の原理がネガティブな方向に働きやすくなります。

「選択的知覚」が働いているから

人間は、自分が好ましいと思う情報や重要だと思う情報だけを選択して、注意を向ける「選択的知覚」を行う傾向があります。

そのため、相手のネガティブな面だけに注目している場合は、ポジティブな面を見るのが難しくなり、欠点ばかりが見えてきてしまいます。反対に、ポジティブな面を見ているときは、ネガティブな面が目に入りにくくなり、長所に気づいたり、感謝の念が湧いてきたりしやすくなります。

「気分一致効果」が働いているから

一般的に、ネガティブな気分はネガティブな感情や記憶を呼び起こし、ポジティブな気分はポジティブな感情や記憶を呼び起こすといわれています。例えば、落ち込んでいるときに昔の嫌な出来事を思い出してさらに悲しくなったり、気分が良いときに仕事に対するモチベーションが上がったりすることもあるでしょう。

こうした「気分一致効果」も、誰かを嫌いになる要因の一つです。寝不足や体調不良で機嫌が悪いときは、相手が特別悪いことをしたわけではないのに、嫌いという感情に結びついてしまうことも。一方、自分に余裕があって、リラックスしているときは、人を好きになりやすくなります。

「自己肯定感」や「基本的信頼感」が低いから

人を嫌いと感じる心理には、自己肯定感の低さも関係しています。

心理学では、自己肯定感と他者肯定感は正の相関関係にあるとされています。つまり、自己肯定感が高い人ほど他人を肯定しやすい一方で、自己肯定感が低いと他人を肯定することが難しく、人嫌いになりやすいのです

また、「基本的信頼感」が低下していると、自己肯定感や他者肯定感が下がり、人を嫌いになってしまうことも少なくありません。

基本的信頼感とは、他者や社会、自分自身への信頼や肯定的な感覚のことで、主に幼少期から思春期くらいまでの時期に、周囲の人から愛情を受けると育ち、人間関係でつらい経験をすると低下するといわれています。 

嫌いな人・苦手な人との上手な付き合い方

嫌いな人や苦手な人とも上手に付き合える人のイメージ

では、嫌いな人や苦手な人と上手に付き合っていくにはどうしたら良いのでしょうか。人間関係を良好にするための方法を見ていきましょう。

自分からポジティブな態度で接してみる

まずは、ポジティブなやりとりを増やすことが大切です。笑顔であいさつする、報連相をこまめに行う、目を見て話す、相手を褒めてみる、積極的にサポートする、感謝を伝えるなど、肯定的なコミュニケーションを増やしていきましょう。

あえて自分からポジティブな態度で接すると、「返報性の原理」が働き、相手の言動もポジティブなものに変化しやすくなります。

特に重要なのが、感謝の気持ちを伝えることです。苦手な人にもあえて感謝を伝えるようにすると、関係性が良好になるだけでなく、自分自身のネガティブな感情やストレスも軽減されます。

日ごろの雑談を大切にする

「嫌いな人や苦手な人とはできる限り接したくない」という人も少なくありませんが、コミュニケーションをとる機会が減ると、お互いに相手が何を考えているのかわからなくなり、疑心暗鬼になってしまいます。そのため、普段から相手と雑談して交流しておくことも大切です。

雑談の内容は、当たり障りのないことや些細なことで問題ありません。天気や季節、食事の話、最近うれしかったことなど、少しでも心が通うような楽しい話や共感し合えるような話をしておくと、お互いへの理解が深まり、信頼関係が生まれやすくなります。

「リフレーミング」を行う

リフレーミングとは、物事に対するとらえ方を変えることで、自分の考え方や感じ方を変えることを指します。例えば、水が半分入っているコップがあったとして、「もう半分しかない」ととらえるか、「まだ半分ある」ととらえるかで、自分の心持ちが変わってくるでしょう。

職場に嫌いな人や苦手な人がいる場合、相手の短所を長所としてとらえ直せる部分がないか考えてみたり、相手の立場に立って考えてみたりすると、相手に対する印象や感情がポジティブなものに変化しやすくなります。

例えば、細かいことを指摘してくる上司に対してイライラする場合、「自分の成長のために教えてくれている」「上司のおかげでミスが減って自分の評価が上がる」ととらえ直してみると、ネガティブな気持ちが軽減されるでしょう。

「アイメッセージ」で気持ちを伝える

人間関係で嫌なことがあったときに、我慢したり態度で示したりしてしまうと、状況が改善されないだけでなく、関係性がさらに悪化してしまう場合も。そのため、違和感や不快感を感じている場合は、必要に応じて言葉で伝えることも大切です。

ただし、「なんでそんな言い方をするんですか」「ああいうやり方はやめてください」など、相手を主語に置いた「ユー(You)メッセージ」を使ってしまうと、相手を批判するような印象になり、角が立ってしまいます。

相手に何かを伝えたいときは、「先ほどの言葉でちょっと悲しくなりました」「今回のプロジェクトの進め方について不安を感じています」など、自分を主語に置いた「アイ(I)メッセージ」を使って、自分の気持ちや状況を伝えるようにしましょう。

相手の言動を変えたいときは、「悲しい気持ちになるので、もう少し優しい言い方をしてもらえるとうれしいです」といったように、お願いや相談として提案するようにすると聞き入れてもらいやすくなります。解決しなかったとしても、自分の考えや気持ちを伝えられるので、ある程度の配慮を促せるでしょう。

職場に嫌いな人・苦手な人がいるときの注意点

職場に嫌いな人や苦手な人がいると、「なるべく関わりたくない」「職場の先輩や同僚に共感してほしい」と思うこともあるでしょう。しかし、相手を無視したり、周囲の人に愚痴を言ったりしてしまうと、関係性がさらに悪化することもあるため、注意が必要です。

ここからは、嫌いな人や苦手な人がいるときに注意したいポイントを4つ紹介します。

無視は絶対にNG

心理学的にも、無視は人間関係を悪化させる大きな要因とされています。嫌いな人であっても、相手を無視することはできる限り避けましょう。

無視をすると、相手にとって「何を考えているかわからない恐怖の対象」になってしまい、相手から否定的な反応が返ってくるようになります。また、業務上必要な報告や連絡ができなくなってしまうため、ミスやトラブルの原因になることも。

もしも仕事に支障が出るほど関係性が悪化している場合は、無視をするのではなく、人事部に相談するなどして、状況を改善するようにしましょう。

周囲の人に愚痴を言わない

誰かに愚痴や悩みを聞いてもらうことはストレスの緩和につながります。しかし、同僚や上司など、職場の人に愚痴を言うと、自分の印象が悪くなったり、信頼関係が損なわれたりする可能性もあるため、出来る限り避けたほうが良いでしょう。

また、もしも愚痴を聞いた人がそれを本人に伝えてしまった場合、直接悪口を言われるより心象が悪く、相手の精神的ダメージも大きくなります。すると、その人との関係性がさらに悪化する原因になりかねません。

愚痴を言いたいときは、気の置けない友人や家族、趣味で付き合いのある人など、職場に関係のない人に聞いてもらうようにしましょう。

態度ではなく言葉で表現する

嫌いな人や苦手な人に対して、嫌そうな表情をしたり、あからさまな態度をとったりすると、「返報性の原理」によって悪循環に陥ったり、職場全体の雰囲気が悪くなったりするリスクがあります。そのため、ある程度割り切って接することも大切です。

割り切るのが難しい場合は、苦手な気持ちや嫌な気持ちを態度で分かってもらおうとするのではなく、1対1で真摯に向き合う時間を設け、「アイ(I)メッセージ」で伝えるようにしましょう。

反芻思考に気をつける

ネガティブな出来事を何度も思い出し、ぐるぐる考え続ける「反芻思考」にも注意が必要です。嫌いな人の嫌なところや苦手な人に言われたことなどを繰り返し考え続けていると、ネガティブな気持ちが増幅してしまいます。

例えば、上司から自分の短所を指摘された場合、実際に指摘されたのは一部分だとしても、頭の中で繰り返して思い出していると、すべてを批判されている気持ちになることも。また、プライベートの時間にもぐるぐる考え続けてしまうと、心身が休まらず、メンタルヘルスにも悪影響が出やすくなるので、注意が必要です。

「モヤモヤした気持ちが続いてしまう」「嫌だったことをぐるぐる考え続けてしまう」という人は、後述のマインドフルネスなどを行って、反芻思考を止めるようにしましょう。

嫌いな人・苦手な人がいるときに試してほしいセルフケア

セルフケアで苦手な人がいるときもストレスを軽減できる人のイメージ

嫌いな人や苦手な人がいると、イライラしたり落ち込んでしまったりすることも少なくありません。最後に、そうしたイライラやストレスを軽減するのに役立つコーピングやセルフケアの方法を4つ紹介します。

いったんその場を離れてみる

強い怒りやイライラを感じたときは、まずはいったんその場を離れるようにしましょう。

怒りの感情は、最初の6秒間が最も強いといわれています。その間は冷静になれず、良くない言動をとってしまいやすいため、廊下に出る、トイレに行くなどして、いったん相手から距離をとることが大切です。

ただし、相手と話しているときに急にその場を離れてしまうと、相手が不信感や怒りを感じてしまい、逆効果になる場合もあるので、何か断りを入れてから離れると良いでしょう。その場を離れるのが難しい場合は、次に紹介するマインドフルネスを行うのも一つの手です。

マインドフルネスを行う

モヤモヤするときやイライラを感じたときは、マインドフルネスを行うのもおすすめです。

マインドフルネスとは、過去や未来ではなく、今この瞬間に集中し、あるがままを観察すること。実践方法はさまざまですが、まずは深呼吸をしながら呼吸に意識を向けてみましょう。

鼻から息を吸って口から吐くのを何回か繰り返し、気持ちが落ち着いてきたら、自分が今どんなことを感じているのか、自身に問いかけてみましょう。「嫌なことを言われて怒りが湧いたけど、本当は悲しかったのかも」「疲れが溜まっているな」と、自分の心の状態を冷静に観察できるようになり、イライラやストレスが軽減されます。

<関連記事>マインドフルネスとは? 瞑想の実践方法や仕事の合間に取り入れる効果を解説

人間関係を俯瞰して観察する

職場の人間関係や自分の立ち位置を俯瞰してみるのもおすすめです。職場の相関図をノートなどに書いてみるのも良いでしょう。

例えば、上司の言動や仕事の進め方にストレスを感じている場合でも、冷静に俯瞰してみると、「課長も部長からプレッシャーをかけられているんだな」「自分には困ったときにフォローしてくれる先輩もいる」といったことが見えてきます。

このように分析していくと「課長も課長で大変なんだな」「人間関係に悩んでいたけど、思ったより悪くないかも」と、ポジティブにとらえられるようになるでしょう。

ジャーナリングを行う

ジーナリングも、ストレスを軽減し、冷静さや集中力を取り戻すのに効果的な方法です。

まずは、ノートやアプリに1日5〜10分、自分の気持ちを自由に書き出していきましょう。例えば、「上司との面談で自分の状況や気持ちを理解してもらえなくて悲しかった」「クライアントへの提案がうまくいってうれしかった」といったように、ありのままに書いていきます。

ネガティブなことを吐き出して整理することも大切ですが、ネガティブなことばかりに意識を向けていると、怒りやイライラが増幅してしまうので注意が必要です。可能であれば、良かったことや楽しみなこと、今後やっていきたいことにも目を向けて書いていくようにしましょう。ポジティブなこと・ネガティブなことを「2:1」くらいのバランスで書くと、ストレスが緩和され、気持ちも前向きになります。

<関連記事>「書く瞑想」ジャーナリングで頭と心を整えよう!まずは1日1分からスタート

嫌いな人・苦手な人とうまく付き合う方法を身につけて仕事を楽しもう

職場には価値観や状況が異なる人がたくさんいるため、自分と合わない人がいることは珍しくありません。嫌いな人・苦手な人に振り回されず、自分らしく前向きに働けるよう、本記事で紹介した方法やセルフケアを参考にコミュニケーションスキルやストレスに対処するスキルをさらに高めていきましょう。

ただし、どんなに自分が頑張っても、状況が改善されない場合もあるでしょう。そんなときは、「これは相手の問題だ」と割り切って考えたり、第三者に相談したりすることも大切です。自分を評価してくれる人や味方になってくれる人にも意識を向けながら、仕事を楽しんでいきましょう。

監修:ダイレクトコミュニケーション 代表取締役 川島達史
目白大学大学院心理学研究科を修了し、現在ではコミュニケーション講座の講師として、心理学や人間関係に関するワークを行う。専門は成人のソーシャルスキルが孤独感・対人不安に与える影響。普段は「コミュニケーション講座」の主催や、YouTubeチャンネル「ダイコミュ大学」による情報発信を行なっている。不安に与える影響。

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