【連載】あの人だって元ビジネスマン! 芸人 GAG・福井俊太郎┃NSC授業料は15秒で40万?! 芸人Cクラスからの巻き返し

今回は、キングオブコント3年連続ファイナリストのトリオ、GAGのブレーン・福井俊太郎さんが登場! 「芸人になりたい」と誰にも語ったことのなかった一介のサラリーマンがなぜ、芸人を志したのでしょうか。

【連載】あの人だって元ビジネスマン! 芸人 GAG・福井俊太郎┃NSC授業料は15秒で40万?! 芸人Cクラスからの巻き返し

いま、新たな舞台で活躍しているあの人にも、実はビジネスマンとして会社勤めをしていた日々があったそうです。

しかし、なぜ彼らは会社員を続けなかったのでしょうか。ただ単に彼らは向いていなかったのでしょうか。どんなビジネスマンだったのかを訊いてみました――。

今回は、キングオブコント3年連続ファイナリストのトリオ、GAGのブレーン・福井俊太郎さんが登場! 「芸人になりたい」と誰にも語ったことのなかった一介のサラリーマンがなぜ、芸人を志したのでしょうか。

GAG・福井:俊太郎
1980年生まれ。兵庫県出身。NSC 大阪校27期生。近畿大学経済学部卒業後、子供服メーカーに就職。 約8カ月、子供服の営業マンとして勤める。そののち、NSCに入校。2006年にGAGを結成する。2017年以降3年連続で「キングオブコント」ファイナリスト。2019年には4位に入賞し、注目の芸人として人気を集める。

 

スロットで捻出したNSC授業料40万円

 

――杉山さんという優しい先輩に可愛がられながらも、恐い女性に一回怒られただけで会社を辞めてしまったわけですよね。そこだけを聞くと、「いまの若い子は~」と言われてしまいそうです。

福井:いや、まったくその通りなんです。「もう嫌だ、逃げたい、やりたいことやろ~」みたいな(笑)

――そのときの杉山さんの反応は?

福井:なんとも言えない寂しそうな顔をされていました。

――あははは。でも、思い立ったらすぐに行動するタイプなんですね。

福井:先輩の股間を掴んだ話もそうですけど、キレちゃうと「もういいわ」と瞬間的に動いちゃうタイプなんです。結局、8ヶ月くらいで辞めてしまいました。

――芸人になる準備はもちろん、想定すらしていなかったわけですよね?

福井:そうなんですよ。なので「芸人になろう!」と思ってすぐに、「芸人 なりかた」で検索したんです。大阪なので、結局は吉本のNSC大阪校に行きました。

――入学金などの工面はどうされたんですか?

福井:40万円くらい必要だったんですけど、貯金もゼロだったんです。でも、当時はスロットがかなり出る時代だったので約1ヶ月で貯められました。

――それはすごい。

福井:40万円稼いだあとは、堅実にいったほうがいいと思って、難波の漫画喫茶でアルバイトを始めました。そこは芸人さんが何人か働いていて、NSCのこととかいろいろ情報収集して。

 

卒業公演の持ち時間30秒?! 15秒で消えた入学金

 

――入学まではスムーズだったんですね。その後はどうでしたか?

福井:何かしらお笑いを経験している人が多い中で、僕は何の武器もなく入学してしまったので、一番下のCクラスだったんです。

今はどうなっているのか分かりませんが、当時NSCは能力別にA~Cクラスに分かれていて、授業のコマ数がAクラスは毎日、Bクラスは週3~4回、Cクラスにいたっては週1回ですよ……。授業料は同じなのに。

――すごい世界ですね。

福井:いまはもう少し平等だと思いますが、当時は実力主義の縦社会でした。Cクラスは相当頑張らない限り、AやBの生徒とどんどん差が生まれてしまう。ネタ見せの授業なのに何もせず、ただ体育座りをして1時間過ぎてしまうことも多かったです。

――それは焦りますね。

福井:友だちもできるんですけど、みんないい奴だったりして、そのぬるま湯が心地良くなったりしていたんです。気づいたら1年経っていて、最後に卒業公演があるんですけど、そのときに初めて「このままじゃダメだ」と思ったんです。

――ちょっと遅い(笑)

福井:そこでもAクラスは3分、Bクラスは2分、Cクラスは1分ネタができるというヒエラルキーがあって。Cクラスの場合、その下にさらに「30秒組」というのがあって、自分はそこだったんですよ。

――相当マズいですね。

福井:当時はコンビだったんですけど。いざ卒業公演で30秒ネタをやったら、場数も踏んでいないし緊張もあって、すっごい早いテンポになってしまい15秒で舞台を降りたんです。自分はこの15秒に40万円を払ったのかと。親に迷惑もかけているし、杉山さんにもお世話になりながら。そこから真剣にやるようになったんです。

 

反対していた父の、マネージャーにも勝るスケジュールチェック

 

――いまや2017年から3年連続で、「キングオブコント」ファイナリストというほどの実力者になられて。ちなみに、ご両親のお話が出ましたが、どういう雰囲気の家庭だったのですか?

福井:うちは公務員の家系で、父も弟も公務員。母もお堅い仕事だったので、一般企業に入社した時点ですでに浮いていたんです。それを辞めて芸人になると言い出したときは、相当びっくりしていました。意味が分からなかったと思います。

――ご両親の許容範囲を超えていたんですね。

福井:「公務員の家系で育ち、その生活パターンで暮らしてきたのだから、芸人なんていう生活をアナタができるわけがない」「いまから考え直して、資格を取るなりして、もう一度こっちのレールに戻りなさい」みたいなことを言われました。

――親心としてはそうなりますよね。

福井:親戚の叔父さんからも「考え直したほうがいい」と電話がかかってきて。その後は面倒臭くなって、電話にも出なくなりました。それなのに、30秒の持ち時間を15秒しか使えないとか、将来性ゼロじゃないですか。一気に火がつきましたね。

――サラリーマン経験が芸人の世界でも生きていると感じることはありますか?

福井:高校や大学を卒業してNSCに入ってくるので、学生ノリのままでいる人が多いんです。学校を卒業して吉本に入るとそこはもう社会。でも、そういう意味では会社員を経験していると、「これは仕事だ」という意識は早くからあった気がします。

――今はもうご両親とも和解されましたか?

福井:「仕方がないな」という感じで応援してくれるようになりました。いまでも父親は心配していますけど。

――ご両親から認められたとわかるエピソードはありますか?

福井:あるとき、一番反対していたはずの父親が取材記事から何からあらゆるものをチェックしていることを知ったんです。一度、「この日は、同じ時間帯でふたつの劇場に出ることになってるけど、どうなってるの?」と連絡がきて、そこで初めてダブルブッキングが判明したんです。

もちろんぼくも気づいてなかったんですけど、マネージャーも気づいてなくて。父親すごいですね(笑)

――それはすごい!

福井:相当ですよね。誰よりも応援してくれている一番のファンです。

――いま、何かに挑戦したいと思いながら、一歩踏み出せずにいるビジネスパーソンがいるとしたら、どんな言葉をかけたいですか?

福井:無茶はしないほうがいいと思います(笑)。でも、自分のことに限って言えば、やりたいことをやっているときは、つらいことも気にならない。しんどいことも我慢できる。なので、芸人という道に挑戦してよかったと思います。

―――

この連載では、会社勤めの経験がある著名人に会社員時代のちょっとやんちゃなエピソードを伺っていきます。

次回は、ニューヨークの屋敷さんにご登場いただきます。『ネプリーグ』『ザ!鉄腕!DASH!!』と有名番組を担当した多忙なテレビマンが、あくせく働く日々のなかで芸人を志すこととなった理由とは……。


前編:GAG・福井俊太郎┃芸人の夢を語らなかった男がある事件で翌日退職。芸人の道へ

【連載】あの人だって元ビジネスマン!
〇ダニエルズ・あさひ┃破天荒な会社員時代 浮気がバレてホームレス状態になったことも
〇フランスピアノ・山本┃「辞めないでくれ!」先輩のメッセージに応えられなかった9ヵ月間のAD生活
〇フランスピアノ・なかがわ┃ 辞めるときは自分で言うから「芸人になりたかったら早く辞めろ」とか言うな!
〇やさしいズ・タイ┃大阪勤めで経験した「面白ければオールOK!」の文化。笑いとともにあった会社員時代
〇ルシファー吉岡┃会社を辞めるに至った3つの出来事。ピン芸人、ミスチル、○○○!

文/富山英三郎 撮影:佐坂和也

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