元会社員の落語家・昔昔亭A太郎さんに聞く! どうやって楽しい会話を作ればいいの?

商談の場で生まれるピリピリとした空気。そんな緊張感ただよう場を和ませるユーモアのある一言が言えたら、どんなにいいか。そこで2020年5月に真打に昇進した落語家の昔昔亭A太郎さんにご登場いただきましょう! 噺のプロに楽しい会話作りをレクチャーしていただきます。

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笑顔で話を聞き、質問する。これだけで楽しい会話ができる!

もともとテレビ番組を制作する会社のADとして働いていた昔昔亭A太郎さん。転機は27歳の時に訪れました。お笑いが大好きなA太郎さんは、寄席で昔昔亭桃太郎師匠の落語を見て、その面白さに衝撃を受けます。そして、落語界に足を踏み入れるべく会社を辞め、桃太郎師匠の弟子になりました。

「桃太郎師匠のブラックユーモア溢れる落語を見て、こんな面白い噺を生み出せる人がいるんだと驚きましたね。そんな師匠の下で学びたいと思い、寄席終わりに出待ちし、弟子入りを直訴しました。運よく認められ、落語の世界に入ることができました」

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真打昇進を記念して作られた口上書き

2006年2月、昔昔亭桃太郎師匠に入門し、2020年5月に真打へ昇進。長年笑いの世界で活躍してきたA太郎さんは、どうやって笑いを生んでいるのでしょうか。

「笑いって『間』なんですよね。その場の雰囲気を読んで、笑わせるタイミングを読み解き、こっちのペースに相手を乗せる。そうすると笑いが生まれやすい環境ができるんですよ」

間を読むというのはプロの技なんですが…。私たち素人でもできることはありますか?

「会社員の方たちは打ち合わせや会議をしますよね。その時、本題に入る前に雑談をしてみるといいと思います。雑談をすることでその場の空気がほぐれ、本題に入ってもスムーズに会話しやすくなります。落語でも本編の話をする前に、『まくら』のコーナーがあるんです。『まくら』で本編のテーマに絡めた時事ネタや自分の身の回りの出来事を話し、本編に入る。『まくら』があるおかげで本編が盛り上がるので、ビジネスパーソンの方は本題の前に軽く世間話をしてみてください」

世間話をして空気を作った後は、楽しく会話をする必要があります。話をする時に大切なことは何ですか? と聞くと、A太郎さんは『笑顔』と『質問すること』だと教えてくれました。

「笑顔で相手の話を聞いてみるといいですよ。聞き手が笑顔だと、話し手も楽しくなって、冗舌になる。話すことが苦手な方っていますよね。そんな方は無理に話す必要はない。笑顔で聞いていれば誰だって楽しくなるので場の雰囲気は良くなる。あとは質問をすることもおすすめです。質問をすると話し手は聞き手が自分に興味を抱いてくれていると思い嬉しくなります」

楽しい会話は動きや表情でも作ることができる!

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インタビューを進めていると、A太郎さんは「僕自身もしゃべるのが苦手なんですよね(笑)」と落語家らしからぬ事実を明かしてくれました。

「大勢の人が集まるパーティーへ行っても、知らない人に話しかけるのが苦手で、隅っこで立ち尽くしてしまうこともあります。でも高座では話さないといけない。その時は仕事だと覚悟し、落語家という役を演じているんです。もし話すことに苦手意識を持っているんだったら、話せる自分を演じてみてください。例えば営業の方は、『自分は話のうまい営業担当だ』と自分自身に暗示をかけてみるのもいいかもしれません。

あとは一生懸命な姿を見せるのもいいと思いますよ。ベテランの方は難しいのですが、若手の方だったら、必死に話している姿を見せることで頑張っているなと相手に好印象を与えられます。僕自身も高座では緊張しっぱなし。いつも必死ですよ。そんな姿を応援してくれるお客様もいますから」

必死な姿で魅了することも会話のひとつ。会話はしゃべるだけではないんですね。

「そうですよ! 動きも見られています。動きで笑いを生む方もいますよね。あとは存在だけで笑いを生み出せる方もいます。タレントの出川哲朗さんは登場しただけでお客さんを笑わせることができる稀有な方。そういう存在になるのは難しいのですが、しゃべりが苦手なら動きや表情で楽しい会話を生むことだってできます」

最後にA太郎さんから、楽しい会話作りに悩むビジネスパーソンに向けてメッセージをもらいました。

「面白いことを言おうとしてスベることもあると思います。そんな失敗をしてしまったら『バカなことを言ってすみません!』と謝ればいい。笑わせようとする姿勢が大事! チャレンジする気持ちを大事に、失敗を恐れずトライしてみてください」 

取材・文=野田綾子
編集=TAPE 

【プロフィール】
昔昔亭A太郎
京都府出身。大学卒業後にTV番組の制作会社でADとして勤務するも、昔昔亭桃太郎の高座に憧れ、入門。2010年2月、二ツ目昇進。2020年5月に真打昇進。柳亭小痴楽、神田伯山、瀧川鯉八、桂伸衛門ら11人でユニット「成金」を結成。昔昔亭A太郎独演会、一門の兄弟会等の自主公演も精力的に行っている。
公式ブログ
Twitter 

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